いざ鎌倉へ

 20日のイベントは350人のお客さんが来場され、盛況のうちに終了しました。後片付けをすませ、会場一階のイタリアンレストランでの打ち上げに行くと、わたしともうひとりのスタッフが最後で、空いている席がなんと小室等さんの隣、その隣に谷川俊太郎さんが座っておられて、なんとも恐れ多く、緊張しながら席に座りました。
 しかしながら、緊張よりも先にお腹がぺこぺこで、すわったとたん目の前の料理とワインですぐに気分よくなってしまいました。イベントが成功した後の打ち上げは格別で、だれもが笑顔笑顔で、しんどかったことはすっかり忘れ、おおいに盛り上がりました。
 たのしい時間はあっという間に過ぎてお開きとなり、わたしと妻はみなさんとお別れし、渋谷駅の近くにホテルへと千鳥足でむかいました。ワインをついつい飲みすぎてしまって、駅の近くという安心感もあり、わたしの方はほとんど地図で調べる気もなく、しっかりした妻についていきました。
 ホテルについてからもコンビニで買った竹鶴の小瓶を飲み、イベントの興奮が収まらないままベッドにもぐり込むと、そうはいっても緊張と疲れですぐに寝込み、朝を迎えました。

 翌21日、ホテルのレストランで朝食をとり、8時ぐらいだったでしょうか、渋谷駅から電車を乗り継ぎながら今回の旅行の目的地・鎌倉へと向かいました。そもそもは妻が今回のイベントに行きたいと言いだし、それならばわたしも仕事で行くので、せっかくだからあくる日に東京近辺でどこか旅行しようということになったのでした。
 さて、どこに行こうかと思ったところ、妻の母親がショ-トステイから帰ってくることも考慮し、できるだけ帰りの交通の便がいいところにしようと考え、鎌倉に決めました。
 鎌倉は高校の修学旅行で行ったきりで、ミーハーなわたしはドラマ「最後から2番目の恋」などで人気の「江ノ電」や江の島に行ってみたいと思ったのでした。
 もともと東京近辺の交通網を知らず、スマホのアプリをたよりに電車を乗り継いでいったので、渋谷や品川など大きな駅のどのホームに行けばいいのかわからず、また通勤時間帯で電車は満員で、まごまごきょろきょろしながらようやく鎌倉駅に着きました。
 鎌倉での旅程は妻が2か月前から計画していて、本来はまず江ノ電の長谷寺駅近くの高徳院に行き、大仏を拝観するつもりでしたが、この日は雨がいつ降ってもおかしくない天気でしたので寺社仏閣はすべて取りやめ、午後から行く予定だった江の島に行きました。
 鎌倉から江の島まで江ノ電に乗ったのですが、さすがに人気の電車だけあって、緑色のとてもかわいい電車で、山側にはどこが玄関なのかわからないほど家々のすぐ横を木々の枝にもひっかかりそうに電車が走っていました。反対側は海があり、家々は海の風と潮対策も考慮されているのか、どこかモダンでセンスのいいお家が立ち並んでいました。
 季節外れで観光客はほとんどいませんでしたが、鎌倉駅から藤沢駅までの短い区間ですが、そこで暮らしている方々のアクセスとしては12分に1本の割合で走る4両編成の電車は使い勝手のいい交通機関で、よく利用されているなと思いました。いくつかの学校が沿線にあり、学生さんでいっぱいになる駅もありました。

 
 江の島駅についた時は10時をすぎていたでしょうか、そこから江の島方面に歩いていくと長い橋があり、その橋をわたると江の島です。右手には湘南しらすで有名な片瀬漁港が見え、江の島全体が海の幸のお店でいっぱいでした。
 ともかく、島の頂上をめざして途中から昇りだけのエスカレーターを乗り継ぎ、頂上にある植物園「江の島サムエル・コッキング苑」に入りました。
 この植物園は明治時代にサムエル・コッキングという貿易商が建造した植物園で、日本で3番目に古い植物園ということです。西洋の回遊式庭園の様式を持ちながら東洋趣味を反映し、現在も残る南洋植物なども持ち込みました。紆余曲折をへて、今は公共の施設となっているようです。
 まず中に入ってびっくりしたのはチューリップでした。ウィンターチューリップが咲いていると聞いてはいましたが実際に見ると圧巻で、いろいろな種類のチューリップが咲き誇り、春と勘違いしそうな華やかさでした。
 それから江の島の頂上から海に向かって長い階段をいくつも降りて、岩屋の洞窟を観に行きました。海のそばの洞窟は以前よく行った白浜の三段壁以来で、海の浸食でできた洞窟は信仰のスポットとなりうる自然の神秘そのもので、海の向こうへのあこがれと波の音にまぎれる風の歌と光と影が交わる移ろいやすい風景に、わたしの心もゆれました。
 そこからがまた大変でいくつもの階段を昇り元の場所へ、そこからまたエスカレーターで昇ったところを階段で降り、やっと江の島の入り口に戻ってきました。

 江の島駅に向かう途中にわたしたちが泊まるホテルがあったので、確認がてらホテルに行ってみると親切に重い荷物も預かっていただき、それから近くの食堂で名物のしらすいくら丼を食べました。それがとてもおいしくて、しらすもさることながらそれにからむご飯がおいしく、いっぱいあるお店の中で比較的安いお店でしたが、とても満足しました。
 その後また江ノ電に乗り、今度は稲村ケ崎駅で降り、鎌倉市で唯一の天然温泉である稲村ケ崎温泉に入りました。この温泉は黒いお湯で、松の有機成分からなる炭酸水素塩泉ということでしたが、1時間少し入っていたでしょうか、日ごろの体の重みが軽くなったようで、久しぶりにゆっくりとお湯につかり、何も考えないでボーッとしていました。
 その後土産物を買うために奔走し、夜にはイタリアンレストランで赤ワインを飲みながら食事をし、ホテルに戻りました。
 結局のところ、観光というには程遠いことになってしまいましたが、午後からは結構強い雨も降る中では仕方なく、それでもあくる日に帰ってみれば楽しい思い出のひとつになりました。鎌倉は京都とはまたちがう文化とどこか意志のある町と思いました。またいつか訪れたいと思います。

 最後に、今回入った2つのカフェは女性スタッフだけのお店でした。どちらもおしゃれな鎌倉にふさわしいカフェで、若い女性があこがれる典型的なお店だと思うのですが、それだけではなく、丁寧な接客サービスとメニューにこだわったとてもいいお店でした。最近は街中でも経営者はわからないですが女性だけで運営するお店が多く、変遷も激しいようには思いますが、きびしい環境の中でも可能性を感じました。
 バブル崩壊後の経済環境から、企業の海外進出と国内の労働市場の劇的な変化にともない、非正規雇用の割合が4割となりその中で女性の占める割合も多く、正社員と変わらない仕事をこなしても男女差と正規非正規差で少ない給料で働いている女性が多いと聞きます。その上、多かれ少なかれ日本社会での女性に対する差別は根強く、それにともない職場でのゆるしがたい事例は数多くあることでしょう。
 いま放送中のフジテレビのドラマ「問題のあるレストラン」のように、自分たちでお金を出し合い、助け合いながら得たお金をみんなで分け合うような働き方が、今後増えていくような気がします。豊能障害者労働センターはその障害者版ですが、障害者の就労の場をつくり出すことで、豊能障害者労働センターでは一般の会社では就労できない様々な条件をかかえた女性スタッフが活躍しています。
 鎌倉のカフェの経営実態はわかりませんが、どちらも数人の女性スタッフで切り盛りしていましたが、とても生き生きと働いているように思いました。
 政府が出し遅れた証文のように「女性が輝く職場や社会」と喧伝していますが、すでに男女雇用均等法から後のさまざまな問題を通り、多くの女性たちが単純に幻想を抱くとは思えませんが、リスクを背負ってでも自分らしく働ける場をつくろうとする女性は増えてくると思います。
 日本ではまだ社会的企業にたいする認知が低く、それを応援していく制度も貧弱ですが、彼女たちの地道な活動が未来への固い壁をこじ開けていくことを願ってやみません。

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