アベノミクスは副作用のつよいカンフル注射。

若い人たちの間では、自民党は革新政党で野党は保守政党と思われているようです。
自民党の宣伝がよく行き渡っていて、憲法をはじめ簡単に変えてはいけないはずのものを改革という名で積極的に変えるのは自民党で、既成の枠組みを後生大事に守り、変革しないのは保守ということらしいです。
最近の自民党は安倍晋三氏による一強体制で自浄作用が働かなくなり、森友学園や加計学園問題もなんのその、圧倒的な数によってどんなことでも通してしまう暴走が、若い人たちの間では勇敢に政治を進めていると映るようです。
大規模な金融緩和、拡張的な財政政策、民間投資を呼び起こす成長戦略という3本の矢で長期のデフレを脱却し、2パーセントの物価上昇と名目経済成長率3%を目指すアベノミクスが安倍政権の人気を支えていると言われています。たしかに前代未聞の大規模な金融緩和による円安効果と日銀の国債買いで、2008年のリーマンショック前を越える株価の上昇や企業業績が絶好調であることは事実です。
しかしながら、これらは日本の政策が無関係とは思いませんが、新しい産業革命ともいわれる世界的な景気拡大によるものであることもまた事実です。そして景気拡大と株価上昇の恩恵を得ているのはグローバルな市場でしのぎを削る企業と日本の株式市場を動かしている海外投資家で、日本の国内で景気を実感できない人もたくさんいるのではないでしょうか。

景気拡大と企業業績の好調の足元で、国税庁が昨年の9月28日に発表した2016年の民間給与実態調査よると、雇用形態による給与格差が4年連続で拡大していることが分かりました。
2012年の結果では、正規雇用者の一人当たりの平均年収が468万円、非正規雇用者が168万円と、その差は300万円でした。
しかし、翌2013年には両者の差は305万円、14年には308万円と徐々に開いていき、今回発表された2016年は正規雇用の年収が487万円、非正規雇用が172万円と、安倍政権が発足した2012年より15万円ほど差が大きくなりました。
正規雇用者の平均年収は4年で19万円増えたにも関わらず、非正規雇用者は4万円しか上がっていません。非正規雇用者は昇給の幅が小さく、最近では人手不足による賃金引き上げを行う企業も多いが、こうした恩恵もあまり受けられていないのかもしれません。
また、雇用形態と男女別に年収を見ると、最も年収が高い男性正規雇用(540万円)と最も年収が低い女性非正規雇用(148万円)とでは392万円の差が生まれていました。業種別の平均給与額では、「電気・ガス・熱供給・水道業」の769万円が最も多く、次いで「金融業・保険業」の626万円、最も少ないのは「宿泊業・飲食サービス業」の234万円でした。
政府は現在の景気状況は「いざなぎ景気を超えた可能性が高い」と発表しましたが、雇用形態や業種別の給与格差は是正されるどころか、拡大していると言わざるを得ません。
また、トヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカーが、期間従業員が期限を区切らない契約に切り替わるのを避けるよう、雇用ルールを変更していたと報じられました。
2013年に施行された改正労働契約法で、期間従業員ら非正社員が同じ会社で通算5年を超えて働いた場合、本人が希望すれば無期に転換できる「5年ルール」が導入されましたが、企業側の要望を受け「抜け道」も用意され、契約終了後から再雇用までの「空白期間」が6カ月以上あるとそれ以前の契約期間はリセットされ、通算されません、
改正労働契約法は2008年のリーマン・ショック後、大量の雇い止めが社会問題化したことから、長く働く労働者を無期雇用にするよう会社に促し、契約期間が終われば雇い止めされる可能性がある不安定な非正社員を減らすことが本来の目的でしたが、自動車メーカーをはじめとするグローバル企業は都合のいい労働者を確保するためにこの抜け道を利用したのです。
一方、何十年に一度ともいわれる好景気の中で昨年の企業の倒産件数は微減で、なおかつ大都市圏では増加しています。負債総額は戦後最大の倒産になったタカタを除けば、中小企業の小口倒産が多く、特に飲食業の倒産が目立ちます。
いままでの一般的な倒産の理由は販売不振や放漫経営による資金繰りの悪化などと別に、人出不足による倒産が増えています。景気が良くて忙しいのに給料が安くて労働者が辞めていき仕事をこなせないなど、経営基盤が弱くて人件費を上げられない零細・小規模倒産や自主廃業などが増えているといいます。
安倍政権は景気拡大の果実がたまり続ける企業の内部留保から教育無償化のお金とともに、3パーセントの賃金アップを求めていますが、企業は応じるとしても正規雇用者にしか適用せず、4割となった非正規雇用者には自動車メーカーのように5年ルールの逃げ道を利用したり、場合によっては雇い止めという冷淡な行動に出ることすら考えられます。
実際のところ、非正規雇用の年収が172万円で、正規雇用者と315万円の格差があり、非正規雇用の割合が多い女性の場合は148万円とさらに格差が広がっていることにがくぜんとします。この政権は「いつかあなたにも恩恵が来る」と言いながら働く国民を企業の想いのままにさせています。
新自由主義の下で「企業は株主のもの」となり、グローバル市場を勝ち抜くためには労働者はいつでも雇い止めにできるようになりました。「企業は人なり」という言葉が遠い昔になってしまい、人件費は当たり前のように経営コストでしかないのです。
ある意味、日本には国民国家の中の資本主義はすでになく、グローバルな資本主義の労働市場のひとつでしかないのでしょう。
しかしながら、そんな流ればかりではない、一筋の光明もあります。それは、この人手不足の中で5年ルールを遂行し、正社員にしようとする動きもあるからです。それらの動きは、たしかに正社員にすることで人手を確保するという意味もありますが、それだけでなく、資本主義社会の企業においても「企業は人なり」、「企業は従業員のものでもある」という考え方が大小問わず経営者の中にも株主の中にもふたたび生まれてきているのだと思います。そうしなければ、品質偽装などで揺るぎ始めた日本の企業のクオリティーが危いこともまた事実だからです。
そして、もう少し遠い視線で未来をみれば、成長神話から抜け出せずかなりきついカンフル注射を打ち続けるアベノミクスの副作用が雇用格差をさらに大きくする一方、どこかで膨らみきった風船が破裂する時が近づいていると思うのはわたしだけではないでしょう。
当面、東京オリンピックの後にやってくるかもしれない経済の停滞が、これからの未来の普通になるのではないでしょうか。その時、「企業は人なり」とする企業にとって、人件費はコストではなく、経営の成果のひとつになることでしょう。
それは、豊能障害者労働センターが1982年の設立以来、障害者の所得をつくりだすことで学んだ経営理念で、周回遅れだったその理念がいつの間にか世界のマネージメントの先端になっていると、わたしは信じています。
わたし自身、豊能障害者労働センターのおかげで経済的には貧乏にはなりましたが、心は豊かになりました。アントニオ・ネグリではありませんが、貧困のネットワークこそ世界を変革するエネルギーになるのだと思います。

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