年を重ねて今思う、音楽は青春という名のジャーナリズム

能勢のカフェ気遊35周年コンサートはひとつの事件でした
ビュービュー 風が吹いて
がたがた 窓が鳴って
天気のはなしじゃないよ
誰かの心のはなし
(金森幸介「心のはなし」)
5月5日、「カフェ気遊35周年コンサート」が服部緑地野外音楽堂で開かれました。
わたしが能勢に住むことになったのは2011年のことで、あれからすでに15年の時が流れました。能勢に来て楽しみにしていたのが「カフェ気遊」に行くことでした。
森の中というほどではありませんが能勢の「カフェ気遊」が35年もお店を続けてこられたことはほんとうにすごいことで、さらに「カフェ気遊」というひとつのお店の35周年を祝って服部緑地の野外音楽堂にたくさんのミュージシャンが集い、たくさんの人が集まったことはひとつの「事件」といえると思います。
こんな稀有のことが可能なのは、カフェ気遊のオーナーの井上さんのおかげです。豪華な出演者は自ら音楽シーンを開拓し、日本のフォーク・ロック・ブルーズをけん引してきたミュージシャンたちで、長い間続いた春一番コンサートの常連でもあり、井上さんはそれを支えてきた一人だからです。
そのことは、「自由と音楽は手をつないでやってくる」という言葉では言い足りないもので、時の玉手箱は時間通りに過ぎていくものではなく、それぞれのミュージシャンが音楽と出会い、人と出会い、人生と出会い、場を共にし、それぞれの長い時間を春一番や気遊で過ごし今また、服部緑地音楽堂で再会した現場にわたしたちも立ち会えたのでした。
渋谷毅さんは残念にも出場されませんでしたが、有山じゅんじさん、小川美潮さん、吉森信さん、金森幸介さん、金子マリさん、石井為人さん、友部正人さん、NIMAさん、ふちがみさん、ふなとさん、松井文さん、ロケット・マツさんがいろいろな組み合わせで音を奏で合い、歌を重ねてくれた大切な時間が過去から現在を通り越して未来へとつながっていくようでした。
歌いながら醒めよと言ったのは誰?
そして…、クレジットされてなかった木村充揮さんが駆けつけてくれて、「好きにやります」といつものようにどこから始まってるのかわからない語りと客席との掛け合いから歌がはじまりました。お客さんのリクエストで「16トン」、「天王寺」など、ほんとうにこの人はストリートミュージシャンというカタカナの言葉だけでは言い表せない「路地裏の歌手」というか、「天王寺」の歌詞にあるような市井のひとびとの心の内を切々と歌ってくれます。
今回のライブでは初めて聴いたもんたよしのりの「ダンシング・オールナイト」で涙がでました。3年前に亡くりましたがもんたさんは箕面に住んでおられて、豊能障害者労働センターが主催した桑名正博コンサートの2年目の時だったか、アンコールの時にサプライズ出演してくれました。「箕面っていいとこやろ」といった言葉を今も思い出します。
木村さんのカバーにはいつもびっくりしますが、この歌もまた何を歌っても木村さんのままで、この人もまた長い長い「たったひとつの歌」を歌い続けているのだと思います。
木村充揮さんと言えば、ずいぶん昔、川西の障害者作業所の1周年記念に川西駅前のアステの大ホールで木村充揮さんのコンサートがありましたが、そのコンサートが実現したのは気遊の井上さんの協力があったことを後に知りました。
また、わたしも実行委員のひとりだった世界の平和を願うバザーとライブのフェスティバル「ピースマーケットのせ」の2年目、2017年に淨瑠璃シアターで開いた友部正人さんのコンサートも、気遊の井上さんに尽力していただきました。コンサート前に友部さんを迎えに行き能勢に入った時、友部さんが「蛙だ、蛙の鳴き声が聞こえる」と言われたことをなぜかよく覚えています。
飽くことのない冒険心と淡々とした語りでいつもわたしたちを音楽の森に連れて行ってくれる友部さんは、今回もふちがみとふなととの「ブルース」他、新曲アルバム「長い旅」に収録されている「車の免許を取りに行こう」などを歌ってくれました。この頃は特に日差しが強く空は真っ青で、昨年の春一番ファイナルも暑かったことを思い出しました。
夕陽を追いかけてく奴の歌が聞こえる もう引き返せない
ラストは金森幸介さんで、この日の出演者が次々と登場しました。わたしは70年代からフォーク・ロックシーンとリアルな世代でしたが、不明にも金森幸介さんの歌をはじめて聞いたのが気遊でのライブで、その時の驚きと感動をいまでも思い出します。
気遊でのライブは大阪市内のライブ会場とはちがう独特の雰囲気があり、それは圧倒される能勢の緑の夜景と、すぐ横を通り過ぎる車の光が窓を照らしてはまた消えていくきらめきと影、そして時には救急車の通り過ぎる音までもライブ演奏の中に迷い込み、それがかえって音楽が立ち昇る臨場感を呼び起こします。それはさながら子どもの頃に見たモノクロームの映画のように映写機のジリジリという音と、銀幕という古い言葉が似合う街の映画館にいるようなのです。
その中でも金森幸介さんの歌は時代のジャーナリズムにふさわしく、長い年月を渡ってきたいくつもの映画が眠る倉庫から取り出されてこの日この時この場所にたどり着いた「青春」という、誰の心にもかくれているうれしくも切ない痛みを届けてくれるのでした。
最後に金森さんが有山じゅんじさんを呼んだときにはべろんべろんに酔っぱらっていて、ステージに上がるのも介添えがいるほどでした。そもそも彼自身のステージでも歌はほとんど歌えないほどでしたから、だいじょうぶかなと思いましたが、さすがにギターだけはかえってノリがいいほどで、時々金森さんにうながされて歌うとなんとも色気のある声で、さすがにブルーズマンだと思いました。そして、なによりも「気遊の兄貴」が好きで金森さんが好きで、この日のステージが大好きなんだなと…。アンコールで歌った「もう引き返せない」の時はとくに、二人の友情があふれ出る感じで、わたしもまた涙がこぼれました。
実際のところ、能勢の山里で、能勢に住むわたしですら車の運転ができずなかなか行けない場所でお店を35年もつづけていくことは大変だったと思いますし、それはこれからもかわらないことでしょう。
しかしながら、能勢にカフェ気遊があり、年に何度か珠玉の音楽を聴くことが出来ることは何よりも幸運なことで、年老いてやや元気がなくしているわたしに勇気をくれる場所でもあります。
夢は色褪せてく ぼくは年老いていく
でもまだ へこたれちゃいない
(金森幸介「もう引き返せない」)


