わたしとあなたと、すべてのひとのために…。Cafe気遊30周年記念コンサート

先日、再放送のNHK「映像の世紀」で、アメリカの公民権運動からベトナム戦争までの激動史を観ました。
1968年の夏、マーティン・ルーサー・キングとケネディの暗殺からまだ数カ月しか経っていないにもかかわらず、ベトナム戦争への反対と平和を呼びかけて、数万人ともいわれるひとびとがシカゴの民主党大会周辺に集まりました。警察と国家警備隊はデモ参加者をつぎつぎと追い詰め、無差別に傷つけました。
検挙されたひとびとが装甲車に乗せられる中で、ひとりの中年の女性が警察官が後ろののドアを閉めるのを必死に抑えながら声を震わせ、力の限りに歌を歌いました。
We shall overcome
We shall overcome someday
Oh deep in my heart
I do believe
We shall overcome someday

ご存じのようにこの歌は1963年のワシントン大行進で20万人のひとびとが大合唱した有名な歌です。ピート・シガー、ボブ・ディラン、ジョ-ン・パエズなど数多くの歌手が歌い、そして歌い継がれている反戦運動・平和運動を象徴する歌となりました。
当時ひねくれていたわたしは、どんないい歌でもみんなで歌うことに抵抗があり斜めに聴いていましたし、歌うこともありませんでした。
しかしながら、この歳になってはじめてこの映像を見て、涙が止まらなくなりました。この歌に無数のひとびとが思いを込めてきたものが、一度にわたしの心のかたくなな岸辺に押し寄せてきたのでした。
たった一人で、警察官に訴えるように声震わせる彼女の切なさ、悲しみ、それでもその若い警察官の心に届いてくれと必死に訴え、ドアを閉めるのを体で抑え、一節を歌い切りました。警察官もまた、その熱い思いに圧倒され、彼女が歌い切るまで待ってくれたのでした。
自由を求め続ける音楽や美術や演劇表現と、大地の真ん中で自由と助け合いを求めつづける政治的な表現はつながっていると教えてくれたのは、ずいぶん前に亡くなったグラスルーツなミュージシャン・ピンクさんと、「今こそ世直しを市民連合」の人たちでした。

同時代の大阪で、春一番コンサートが始まりました。このコンサートは一つの空でつなる世界中の若者が、「歌いたい歌を歌い、聴きたい歌を聴こう」という合図を受け取るように始まったのでした。ステージを用意するひともギターひとつで歌うひとも、他では聴けない歌を求めて集まってくるひとも、すべてのひとがその場に参加することだけで幸せになりました。「自由のほかに神はなし」、「自由になりたいと願う、最後に残された希望」を胸に…。春一番コンサートの長い歴史の中で出演したひとたちは、まさしくたったひとりで「We shall overcome」を歌ったシカゴの彼女と海を渡ってつながっていました。
交通アクセスがよいとは言えない緑の森に包まれた能勢の地で、Cafe「気遊」さんは関西一円はもとより、全国的にも知る人ぞ知るライブスポットとして30周年を迎えられました。春一番のスタッフとしても、また緑あふれる里山のグラスルーツな音楽の発信を続けてこられたオーナーの並々ならぬ努力と矜持に敬意以外ありませんが、「気遊」さんに定期的に来てくれるミュージシャンのひとたちが、今は休止している「春一番」のステージに久しぶりに現れます。
9月4日土曜日、大阪服部緑地野外音楽堂にて厳重なコロナ感染対策のもとで開催されます。12時開演・18時終演のこのコンサートはフリーコンサートで参加費は無料です。お時間がありましたら、ぜひお立ち寄りください。

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