2014年カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」

今年も、たくさんの人たちの思いを乗せて、カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」が完成しました。
このカレンダーは1984年秋、障害者の生活と所得をつくりだすために結成された障害者団体のネットワーク・DWC(デュワック)が、今は被災障害者支援・ゆめ風基金の代表理事をされている牧口一二さんとイラストレーター・吉田たろうさんにお願いし、障害者の給料と年末一時金をつくりだすために共同制作したのが最初でした。
一般企業への就職を拒まれてしまう重度といわれる障害者が自ら参加し、少ないながらも障害者の所得と生活をつくりだす活動に思いを寄せてくださった市民の間で少しずつ応援の輪が広がり、一時は5万部を製作販売し、障害者の生活を支えるお金を作り出してきました。
2003年、特別な思いを持ってカレンダーの制作を支えてくださった吉田たろうさんが急死し、デュワックの解散とともにカレンダー製作は終了するところでした。
しかしながら、長年、このカレンダーの売上金で年末一時金をつくりだしてきた団体から継続の要望が上がり、松井しのぶさんが吉田たろうさんの遺志を引き継ぎ、イラストを描いてくださることとなりました。現在は豊能障害者労働センターが制作を引き継ぎ、全国56の障害者団体による「障害者市民事業ネットワーク」が販売しています。
松井しのぶさんのイラストによる、一日一日をだきしめたくなるこのカレンダーがつむぎだす時の物語は、障害のあるひともないひとも共に生きる願いとすべてのひとの希望の行方をてらしてくれるとわたしは思います。
みなさんのご理解とご協力をいただければ幸いです。
松井しのぶさんのメッセージをお届します。


子どもの頃、私は漫画が好きで、その中でも鉄腕アトムが大好きで、手塚治虫の描く夢と希望にあふれた未来の地球の姿を信じて疑わなかった子どもでした。二〇一四年、その頃夢見ていた未来の姿とは全く違っているように感じる今日ですが、家の中にいても知りたいと思えばインターネットを使い様々な事を知ることが出来る時代になるとは子どもの頃は予想もしていませんでした。

先日、そのネット上で友達がシェアしていた探査船カッシーニが撮影した、土星軌道から望んだ地球って言う映像を見たのですが、遥か遠く地球から離れてゆく無人の探査船の目線がなぜか自分の思いと重なり胸がキューンとしました。

「The Pale Blue Dot」直訳すると「うす青い小さな点」
カール・セーガンが地球を例えていった言葉、まさしくそのままの写真でした。ただ広い真っ暗な空間にポツンと浮かぶうす青い儚い小さな小さな青い点…。

………それが地球。
同じ太陽系内から撮った写真なのに思ったより遥かに小さく遠くとても頼りない姿でした。
そこに見えたのは「やさしいちきゅう」というよりむしろ、悲しさをたっぷりとたたえた孤独の星のようで。この小さな小さなほんとうに小さくたよりない儚い青い点の中に私たちは住み、毎日いろんな思いを胸に暮らしているんだなぁって。この地球上に掛け替えのない美しいものをあふれるほど沢山私たちは持っています。にも関わらず貧困や差別、戦争、くだらない政局争いも経済も、天災のように人がどうすることも出来ないことも、些細なことも、憎しみも悲しみも、人が織りなす抱えきれないほどの負のものもまた、その小さな小さな儚い星は抱えているのです。私たちは好むと好まざるとその部分を意識して、あるいは真っ只中にいて、翻弄されながら向き合いながら暮らしてゆかなくてはいけないのです。その中で一人一人が様々な事を織りなし、泣いたり笑ったりしながら毎日をおくっている愛しさに、胸が詰まって泣きたくなりました。

カッシーニが撮影した、頼りない小さな点の地球ではなくても、子どもの頃見たアポロだかソユーズだか、から撮った大きな美しい地球の写真でも、人の姿は写ってはいないけど、そこに生きている一人一人の悲しい事、辛い事、醜い事、苦しい事、そう言ったものを見ないで、向き合わないで、地球の姿はないのかもしれません。

以前、カレンダーの原画展をしていた時に、私の絵を見て泣いてくださっている人がいました。一部の人からは寂しいという声もあった絵でした。カレンダーは多くの人に買ってもらいたい事もあり、誰にでも好まれる要素が多い絵が主流であるべきだとは私も思うので、自分自身、試行錯誤していた感もあるのですが、一人一人が持ち帰って壁に飾る時はきわめて個人的な思いを重ねて見てくださるものでもあるのかなと、ふと、思ったりしています。まだまだ力不足ですが、その中で悲しみを共有したり、心の中にしまい込んでいるものを取り出すきっかけになるような絵ももう少し表現してゆければいいなと考えています。

また、今回、今までカレンダーに登場していたキャラクター、ピックとニックを二人が実際の風景の中にいることで、もう少し身近に感じていただければ嬉しいなって言う思いもあって、ぬいぐるみという、違う形で表現し、ポストカードで展開する事になりました。かわいい口当たりの良いゆるキャラにしたくなかった思いが強く、カレンダーのキャラとは見かけはほんの少し変えてみたのですが、皆さんに受け入れていただければ嬉しいです。

ちょっと不器用そうな不完全な感じのピックとニックは、嬉しいこと、楽しいことだけでなく、悲しいもの、寂しいもの、辛いもの、出来れば見たくない事、その中で向き合いながら、寄り添いながら、調和してゆく美しいものを見られたらいいなって言う私の思いともつながっています。そう言う思いをどうやって形にして、人に伝えてゆくか、それを表現する力が私にあるか無いか、大きな課題でもあり難題でもあるのですが、ぼちぼちと行きつ戻りつしながら、この広い宇宙にポツンと漂う、孤独な、小さな、小さな、青い点、の、星の中に住む沢山の沢山の一人として、少しでもこの星がにっこりと笑って「やさしいちきゅう」に見えるように、皆さんと一緒に考えながら歩いてゆきたい。そんな思いを新たにしています。

二〇一四年のカレンダーがあなたの心に寄り添う事が出来ますように・・・
松井しのぶ

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