さよならを数えるよりも、いのちと出会いと愛を数えるカレンダーもある。

今年も豊能障害者労働センター機関紙「積木」に、カレンダーの記事を書かせてもらいました。


おもわずだきしめたくなるカレンダー「やさしいちきゅうものがたり」
遠い遠いどこかの大地で同じ星を見ているあなた
遠い遠いどこかの駅のホームに立っているあなた
そして世界の希望の一年がやってくる

カレンダー「やさしいものがたり」の誕生
松井しのぶさんのイラストによるカレンダー「やさしいちきゅうものがたり」が、2018年版で13作目を数えることになりました。
そもそも、カレンダー事業は障害者の働く場と所得をつくりだすために結成された障害者労働センター連絡会によるカレンダー「季節のモムたち」がその前身でした。
2003年、イラストを描き続けてくれた吉田たろうさんが亡くなられ、途方に暮れながらも後継のイラストレーターを探さなければなりませんでした。
吉田たろうさんのイラストは、地球上の小さないのちを大切にし、障害者の生きやすい社会をつくるというコンセプトでした。
わたしたちはその想いに加えて阪神淡路大震災、アメリカ同時多発テロなど頻発する自然災害やテロ、紛争でこどもたちが傷つき、いのちまでも奪われる理不尽に立ち向かう世界の人々と共に平和に生きる勇気を耕したい、そんな思いを新しいカレンダーに託したいと思いました。
報酬は少ない上に、わたしたちの願いを表現してくれるイラストレーターを見つけるのは困難を極めましたが、インターネット検索を繰り返し、松井しのぶさんのイラストを発見したのでした。
ナチュラルな色づかいとソフトなタッチのイラストは愛らしいメルヘンでもあり、月夜にきらめくファンタジーでもあり、その透明な光のキャンバスの上で記憶と夢が溶け合っています。
2003年は米英軍を中心とする多国籍軍のイラク侵攻によってイラク全土が破壊され、イラクの民間人の死者の数は10万人とも20万人ともいわれています。
わたしの記憶では、空爆の様子がテレビ中継されていました。夜のバグダッドの街に次々と爆弾が落とされる情景をテレビで見ている自分自身のおぞましさ、恐ろしさ、うしろめたさは今でも忘れることができません。
わたしは松井さんのイラストを見て、そのイラストの向こう側にだきしめたくなるノスタルジーと未来への強い意志、平和の祈り、希望がぎっしり詰まっていると思いました。
わたしたちの願いのすべてが松井しのぶさんのイラストにあることに、驚きとともに奇跡といってもいい運命を感じました。
カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」はこうして誕生しました。

カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」は平和を願う手紙
2011年、日本も世界も立ち止まらざるを得なかった東日本大震災をきっかけに、豊能障害者労働センターは世界の窮民の自立経済と被災地の自立支援をつなぐ障害者市民事業プロジェクトとして商品開発を進め、全国に点在するカレンダーの共同販売ネットワークを通じて届けてきました。

わたしは壁掛けカレンダーが好きです。スマホやタブレットに時が閉じ込められてしまった今、壁掛けカレンダーの役割は少し変わったのかもしれません。
しかしながら、時代が猛スピードで過ぎ去った後に残る記憶は、その時代を生きたひとびとの人生の証しでもあります。
子ども時代の戦争の傷跡、鉄条網と牛糞と黒い土と、ハーモニカと布のボールと進駐軍のジープ…。青春時代のデモとゴーゴー喫茶とボブ・ディランと天沢退二郎の「宮沢賢治の彼方へ」と寺山修司の「家出のすすめ」…。そして、豊能障害者労働センターとふたつの震災と被災障害者支援「ゆめ風基金」とKさんの死…。
世界の現実に目を向ければ悲しい記念日に埋めつくされ、カレンダーのどの1日からも悲鳴が聞こえてくるようです。
けれどもその一方で、この世界に生きる74億の人々の、だれかの誕生日でない日などないと思います。さよならを数えるカレンダーもあれば、いのちと出会いと愛を数えるカレンダーもまた、たしかにあるのです。
そして今、わたしたちは北朝鮮との武力衝突があるかもしれないという現実にさらされています。わたしたちの住む日本にも北朝鮮にも韓国にも、たくさんの子どもたちがいます。明日のいのちがどうなるかわからない不安と恐怖と緊張のただ中で身をかがめ、心を固くしているこどもたちがわたしたちと同じ思いで同じ空を見つめていることでしょう。
わたしたちは、どんな強力な武器よりも共に生きる勇気を育てること以外に「安全で平和な社会」をつくれないことを知っています。わたしたち人間は言葉も個性も希望も夢も国籍も民族も年代もちがっても、つながることができるはずです。
カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」は平和でなければつくることができません。
だからこそ今年もカレンダー「やさしいちきゅうものがたり」に託された平和への願いが、一人でもたくさんの方に届けられることを祈っています。

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