「カレンダーの中に描ききれないあなたに伝えたいこと…。」 松井しのぶ

7月・8月
宇宙の河を渡る
小さな舟を思う
銀河の流れを行く
たくさんの星々
君と出会った事が
嬉しくて

カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」のイラストを毎年描いてくださっている松井しのぶさんは、イラストだけでなく素敵な言葉を綴る詩人でもありエッセイストでもあります。
2006年版から11作目を数える6枚つづりのカレンダーで、すでに66枚のイラストを毎年2万人の方々に届けてくださったことになります。通常のお仕事の一枚ものや絵本、物語のイラストとはまたちがい、カレンダーの場合は365日、1年間という長い時をかけて、四季の移り変わりを背景に松井さんが日々感じることや小さな出来事、そして世界の大きな出来事を6枚のイラストに託した「時のものがたり」と言えるでしょう。
毎年、その6枚の一枚ずつを描く時、松井さんの心の中では「終わらない叙事詩」を語りつづけているのではないかと、わたしは思います。
子どもたちにも大人たちにも誰にでもあるはずの「一回かぎりの人生」を生きる権利、誰にでも用意されるはずの「出会いの記念日」を無残に、理不尽に奪われてしまう世界の悲惨は容赦なくわたしたちの心に積もりつづけ、時々わたしたちはそのことに慣れてしまう恐怖に襲われます。
そんな言葉にならない悲しみにうろたえながらも、カレンダーの登場人物の「ピック」と「ニック」は、松井しのぶさんの大好きな忌野清志郎とジョン・レノンの歌とともに、たったひとつの希望を信じる一年の旅を続けることでしょう。

「夢かもしれない でもその夢をみてるのは きみひとりじゃない 仲間がいるのさ」
ジョン・レノン「イマジン」(日本語詞・忌野清志郎)


「カレンダーの中に描ききれないあなたに伝えたいこと…。」    松井しのぶ

「じゃ秘密を言うよ。簡単なことなんだ。ものは心で見る。かんじんなことは目では見えない」「星がきれいなのは、みえないけれどどこかに花が一本あるからなんだ…」「砂漠がきれいなのはどこかに井戸を隠しているからだよ」「君がバラのために費やした時間の分だけ、バラは君にとって大事なんだ。忘れちゃいけない。いつだって、きみには責任がある。きみは、君のバラに責任がある……」(訳・池澤夏樹)
大好きなサン・テグジュペリのかっ子『星の王子様』に出てくる会話。私が高校生の頃だったろうか、出会ったその言葉はずっとずっと、そして今も私の心の指標になっている。
「かんじんなことは目では見えない」
その見えない大切な何かを伝えたい…。私が絵を書く理由はそこにあるかもしれない。そして、その絵の中に見えないけれど、そこに込めた想いをどう表現しようかと、あれこれと七転八倒し悩みながら今年もようやくカレンダーが出来上がりました。
一枚一枚の花びらに託した思い、視線の先に託した思い、小さな傘に託した思い、それぞれの絵に沢山詰めた思いetc…。それらが隠れたあなたにとってのバラの花なのかもしれない、井戸なのかもしれない、その言葉にできない見えない何かとして受け取ってもらえたら「かんじんなことは目に見えない」ものを絵の中に描いてゆきたいと願っている私としてはそれ以上の喜びはない気がします。
そして、それが私たちの身の回りの目に見えない大切なものに気づくきっかけになればもっともっと嬉しい。そしてその大切なものに対して、ただその時のみで消えてゆく癒し的なイメージ以上にそういうものを大切にしてゆく心を守ってゆく責任のようなものを、お一人お一人が感じていただけたら尚のこと嬉しい気がします。
目が見えても何も見えない人がいる、耳が聞こえても何も聞こえない人がいる、大切なのは心の目が見えること、心の声が聞こえること、「そういう心を持ち続けること」そんな気がして…。

話が変わりますが、個人的なことを話しますと私は最近老いた父と暮らすようになり、やや不自由な手足と、すこしいい具合に呆けた感じの父と毎日の行動を共にすることで、今まで気にも留めなかったいろんなことに改めて気付かされています。今まで自分で見ていたものを再確認して、新たな目で見えなかったことについて考える機会が沢山出てきました。そういう風に、その時その時、その人の立場によっても見えているものが変わってくることを改めて感じています。
この先、父の心の目に映るものが温かいもので満ち溢れているように願うばかりですが、まずは私自身がそうであるように、皆さんに心を伝えて行くべき作家が、ついつい父に対して現実的な目でばかり見てしまいそうになっていることに気づいては、その度に良い心の目を持たなくちゃと自分に言い聞かせているこの頃です。
『星の王子様』には他にも大好きな言葉が沢山あって、これもその一つ
「だれかが、なん百万もの星のどれかに咲いている、たった一輪の花がすきだったら、その人は、そのたくさんの星をながめるだけで、しあわせになれるんだ。」
故郷に残してきた一輪のバラの花を思って言った王子様の言葉なのですが、今の時代を重ねて見て、重苦しい空気を払いのけて、爽やかに笑おうとしても、幸せな気分になりたいと思って見ても、新聞やテレビのいやなニュースを見るたびに、どこか自分に嘘をついている感じがする今の私の住んでいる星…でも、この王子様の言葉をふと思い出して、それでも愛さずにはいられないこの星のことを考えたりしています。この星を愛するものの責任もそれに重ねて感じながら。
やさしい地球に暮らすみんながいる星だからこそ、その星のことを思うだけで幸せな気分になりたい、そんな思いをいっぱい込めてやさしい地球の物語を綴りたいと、また来年もそういう思いをできるだけ多くの人と共感しあいながら一緒に過ごしたいと願っています。

松井しのぶ プロフィール
職業 イラストレーター
絵本等を中心にカレンダーや広告のイラストも手がけています

主な絵本
「ほしがりやのサンタさん」(サンリオ)
「サンタさんとふしぎなふくろ」(サンリオ)
「きょうりゅうぼうやCoo」遠い海から来た Coo( 角川文庫)
「もいちどあそぼ」(小学館)
「ともだちははるのかおり」(ひかりのくに)等多数
「アイシテルものがたり」青い鳥文庫1巻~8巻(講談社)
「アイシテルからありがとう」絵本(講談社)
「サナギになったアゲハチョウの幼虫がぶじ蝶になるか心配な、あなたへ」
(講談社)

1987ボローニア国際絵本原画展入選
1995アンデルセン童話大賞選考委員
2001けんぶちふるさと絵本賞入選
日本児童出版美術家連盟会員

1985個展(大阪 ギャラリーピクチャー)
1998二人展 (東京 青山)
1999個展(宝塚)
2004グループ展「ホシノス展(東京 神保町 檜画廊)
2006個展「しあわせのつくりかた展」(大阪市立中央図書館)
2007個展「アイシテルからありがとう展」(講談社 K-スクエアー)
2007グループ展「ホシノス展」(東京 神保町 檜画廊)
2009三人展「三つ編み」(西宮 ギャラリー小さい芽)
2006年版よりカレンダー「やさしいちきゅうものがたり」製作



あなたの出会いの記念日に 
お届けします!時の花束

障害者市民事業ネットワークカレンダー series11
やさしいちきゅうものがたり
illustration & word 松井しのぶ
●カラー6枚つづり●たて62cm×よこ30cm 1,000円 全国一律送料無料
お申し込みは 豊能障害者労働センター
tel:072-724-0324 fax:072-724-2395
通信販売サイト・積木屋からもご注文できます。

「カレンダーの中に描ききれないあなたに伝えたいこと…。」 松井しのぶ” に対して2件のコメントがあります。

  1. S.N より:

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    tunehiko 様
    2016年のカレンダーもいいですねぇ。
    家人もきれいなカレンダーやなあと言っております。
    ふたりの息子たちにも昨年から送っています。
    いつも行く床屋さんの小さな子供さんにもプレゼントしました。
    ほんとうに気持ちがやさしくなって、しあわせな気分になります。

  2. tunehiko より:

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    S.N様
    カレンダーを買ってくださったのですね。しかもご自分用だけでなく、プレゼント用にも買ってくださったとのこと、ありがとうございます。
    松井しのぶさんのカレンダーはわたしが製作にかかわったこともあり、いろいろな方にお勧めしているものです。
    S.N様は島津亜矢つながりでおつきあいさせていただいていますが、わたしのライフワークといえるカレンダーにもご協力いただき、感謝します。
    今日NHKの歌謡コンサートで亜矢さんが歌った「マイ・ウェイ」、よかったですね。さっそく記事にしようと思っています。

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