歌もまた時を駆け抜け、それぞれの時を語り…。松井恵子さんのライブ

2月18日、大阪・中崎町のライブハウス「創徳庵」で松井恵子さんのライブがありました。この日は本来、末松よしみつさんとのユニットの予定でしたが、末松よしみつさんがインフルエンザで、急遽松井さんのソロライブになりました。
実は松井恵子さんのライブは二十数年ぶりで、懐かしさとともに長い間ご無沙汰してしまったことへの申し訳なさとが混じった、ちょっとせつない気持ちで久しぶりの音楽を聴き入りました。
ソロライブになったおかげで、本来のユニットでは聴けなかったかも知れない懐かしい曲をたくさん聴けました。リクエストさせてもらった「南風」や、「なくっちゃね」、「好奇心」、「月の裏側」などの名曲がわたしの心の中で一気によみがえりました。
昨年の友部正人さんのライブの時にも感じたのですが、ある時期に濃密に音楽を聴く時があり、それ以後は音楽を聴く余裕のないまま目の前のことを一つずつクリアする毎日に明け暮れていて、知らぬ間にずいぶん長い時がたってしまったことを実感しました。
松井さんの数々の名曲の中でもとびぬけたこれらの曲は、当時の世相から時の移り変わりを経てもなお今を感じる名曲で、歌もまた時を駆け抜け、それぞれのひとのそれぞれの時を語り、励まし、よりそって来たのでしょう。
実際、久しぶりに聴いたこれらの曲は生まれたばかりの頃の瑞々しさを残したまま、弾き語るピアノもボーカルもより深く、より豊かな音を出してくれました。そして、松井恵子さんの楽曲の魅力の一つである言葉は時を越え、今の時代を生きるわたしたちの呟きや諦めや、ちょっとした勇気や切ない希望をやさしく抱きとめるように歌い、語ってくれるのでした。

わたしが松井恵子さんを知ったのはおそらく1993年ごろだったと思います。わたしは箕面の豊能障害者労働センターに在職していたのですが、箕面市内のWさんという視覚障害を持つ青年に紹介されたのでした。Wさんはあの「24時間テレビ」で(昨年なくなった豊能障害者労働センターの元代表・河野秀忠氏のアイデアだと聞いていますが)、番組内で障害者が結婚式をあげる企画があり、その結婚式の新郎でした。
彼は自分で作詞作曲し歌うシンガー・ソングライターとして、市内市外の小・中学校で障害者の問題を子どもたちに伝える人権講演&ライブを開いたり、いろいろな市民運動の集まりに呼ばれたりしていて、わたしはつたないPA(音響)を担当したこともあります。
そんな彼から京都のライブハウスに行くサポートを依頼されました。誰のライブに行くのか聴くと、その人が松井恵子さんだったのです。その時は松井恵子さんのことは全く知らず、またサポートに選り好みができるわけでもなく、そのライブに同行することになりました。
その頃は1990年から毎年桑名正博さんのコンサートを主催していて、その関係で桑名さんのライブに行く程度で、音楽といえばテレビの「ミュージックステーション」で聴くだけという暮らしでした。ライブハウスに行くのも20代の頃に白竜や三上寛のライブに行って以来でした。
ライブハウスは閑散としていて、わたしたち2人をふくめても8人ぐらいのお客さんでした。松井恵子さんはもちろん、そんなことは気にせず、歌い始めました。
Wさんのサポートで来ただけで、失礼ながらそんなに期待していなかったのですが、彼女の並々ならぬ音楽への情熱というか渇望というか、熱いものがあふれてきて、いつのまにか彼女の歌の世界に迷い込んでしまいました。
彼女の歌は男に媚びる「かわいい女」の歌でもなく、かといって男と渡り合う「できる女」の歌でもなく、男社会で生きる平凡な女性の言葉にならない悲しさや孤独、失恋の痛みを友だちに頼らず自分ひとりで抱え込む女性、それでもまた新しい恋をさがし、切ない希望を心密やかに抱き続ける女性…。なぜか松井恵子さんの歌の中の女性像は、あこがれの対象でもなくまたどこまでも堕ちていく痛い女性でもなく、二十数年どころか100年過ぎても変わらない男社会で悔しい思いをしながら生きる女性たちの姿なのだと思います。
今回のライブのMCで松井恵子さんはそれらの歌を「ダーク松井」と言いましたが、わたしが彼女の歌をはじめて聴いた時の驚きと不思議な感覚はその「ダーク松井」の歌たちだったのでした。キャピキャピした明るい歌の中にもその毒が隠れていて、わたしの心は平常心ではおれなくなり、毒矢が刺さるようにいつまでも彼女の歌が残っているのでした。
1994年にはWさんと松井恵子さんのジョイントコンサートを開催し、それからしばらく豊能障害者労働センターのバザーの野外ステージに出演していただきましたが、わたしは2003年の暮れに豊能障害者労働センターを退職し、それからはずいぶんご無沙汰していました。
ところが2年前にFACEBOOKをはじめ、松井恵子さんが今でも精力的に音楽活動をされていることを知りました。ライブのお誘いもいただいていたのですが、なにぶんわたしはいま能勢に住んでいて、夜のライブにはなかなか参加できませんでした。
今回、昼間のライブでしたので参加することができました。
ライブ会場の「創徳庵」は小さなどこか和風の小さな会場でしたが、オーナーさんなのかスタッフの方がPA(音響)をされていて、とてもいい音でライブを聴くことができました。残念ながら、3月いっぱいで締められるそうです。

2015 01 13 松井恵子と藤森るー at ブルーアイズ

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