「ONE NOTE 松井しのぶ*小さな原画展☆」

カレンダー「やさしいちきゅうものがたり」のイラストレーター・松井しのぶさんの個展「ONE NOTE 松井しのぶ*小さな原画展☆」に行きました。
阪急今津線宝塚南口から5分ぐらいの「額縁&プチギャラリー NOGIWA」が会場で、今日が初日で、26日まで(17日~19日はお休み)開催されています。
松井しのぶさんとの出会いはすでに記事で書いていますが、2006年版から数えて早や9作目になる2014年カレンダーを、豊能障害者労働センターをはじめ全国の障害者団体を中心に販売されている最中でもあり、もともとわたしがこのカレンダーのイラストを松井さんにお願いしたこともあり、駆けつけた次第です。
かれこれ40年ぶりに阪急宝塚から西宮北口までを走る阪急今津線に乗って一駅の宝塚南口を降り、案の定の方向音痴で少し迷いましたが、なんとか会場に着くと、ゆめ風基金の歌姫・加納ひろみさんと豊能障害者労働センターの林さんがすでに来ていて、盛り上がっていました。
もともとは額縁と画材のお店で、画廊という感じではないのがかえって新鮮で身近に感じられる会場に、点数も少なくそんなに大きな作品はないのですが、「ONE NOTE 松井しのぶ*小さな原画展☆」の名前の通り、松井さんのイラストがならんでいました。
カレンダーの販売時期ということもあり、カレンダーの原画らしきものが多かったように思いますが、松井さんにしか描けない独特の世界に包まれるようでした。
彼女のイラストと出会った時、一見メルヘンタッチのかわいい風景やキャラクターに、どこかずっと前、子どもの頃に遊んでいた神社の森やガード下、道路がまだ土の匂いがしていた街の記憶がかくれているような、不思議な懐かしさにおそわれました。
そして、彼女のイラストに広がるほの暗いというよりはほの明るいというべきか、夜が静かに空に帰って行き、窓いっぱいにマグリットやタンギーの青にも似た夜明け前の空の青さに心が洗われるようでした。
2004年5月、それまでカレンダーのイラストを描いてくださった吉田たろうさんの急逝から1年、インターネットで発表されている彼女のイラストをずっと見続けてきて、もし叶うならこのひとに後継のイラストを描いてもらいたと願い、メールで依頼し、快諾してくれた日が遠い夢のようです。
あれから9年の時が経ちました。その間にわたし自身はカレンダーの制作から離れてしまいましたが、松井しのぶさんのイラストはすでに多くの方々に受け入れられ、愛されています。中にはカレンダーが届いても一年間全部のイラストをあえて見ず、その月々が来るまで開かないで楽しみにしているという熱烈なファンもいます。
そんな話を聞くたびに、松井さんにイラストを依頼したことを誇らしげに思う一方、今も継続してこのカレンダーを製作している豊能障害者労働センターに感謝の気持ちでいっぱいです。
カレンダーは実用的には従来から根強く利用されている予定が書きこめる数字だけのものに加え、最近はスマートホンやノートパソコンのカレンダーアプリで充分な時代になりました。アイドルや風景、動物ものなどは例外として、激しい競争と需要の減少に見舞われたこのカレンダーも、豊能障害者労働センターの地道な努力と松井しのぶさんの「一日一日をだきしめたくなる」イラストの力を借りて、待ち望むファンの方々を増やすことができたようです。
わたしのWEBサイトでごらんいただけますが、一年に6枚で9作ですから54枚のイラストをふりかえってみると、一年のあいだ壁に掛けられ、ずっと見られるカレンダーのイラストには一定の制約があり、その中で松井さんの世界を表現するための並々ならぬ工夫がされていることを感じます。
その松井さんの世界とは、ほの明るい森や空や海や木々や大地、新緑の風や雨に打たれる水面など、春夏秋冬の四季を彩る夢の風景の彼方にあるはずの希望であり、やさしいちきゅうであることを願い、やさしいちきゅうを傷つけない静かな決意なのだと思います。
そんな松井しのぶさんの世界観は制約の多いカレンダーのイラストの中でも見事に描かれていて、わたしはそれがこのカレンダーに癒されたり勇気づけられたりする人たちを増やし続けているのだと確信します。

今回の個展に行かせてもらい、ここ最近はおそらくカレンダーにイラストに費やされることが多いのではないかと思いました。そのことはカレンダー製作に携わったことがある人間としてはうれしい反面、彼女の大きな世界観や願いや祈りがカレンダーのイラストだけに閉じ込められるものなのかという、一抹の不安も感じざるを得ませんでした。
松井しのぶさんのひとりのファンとして、カレンダーにとらわれず、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」や「やまなし」を彷彿させる時空間を自在に泳ぎ、マグリットやタンギーのような青があふれる松井しのぶの世界を存分に描いてほしいという、ぜいたくでわがままな願いがむくむくとわいてきた展覧会でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です