ひらく夢などあるじゃなし 三上寛「夢は夜ひらく」

その時、ぼくはとつぜん信じた。
ひとつぶの涙が「かくめい」へとつづくことを。

ゆめをみた
あなたが手をふっていた
まるで世界そのものとさよならするように
とおざかるあなたが手をふっていた
あなたのなみだはきんいろにこぼれ
ぼくのこころのいちばんやわらかいところをそめた

それはほんとうにあったこと
あなたが二十歳だったとき
ふたりぶんの孤独が部屋中にあふれ
寒い冬の空が青くぶらさがっていた
ぼくが眠るそばであなたはずっと手をふり
なにをかんがえていたのだろう
それからずっとぼくのゆめのなかで
手をふりつづけるあなたの長い時間は
早かったのか間にあわなかったのか

ゆめをみた
何億人のあなたが手をふっていた
まるで世界そのものがさよならしているように
とおざかる何億の手がぼくのねむりをうめつくす
ながれつづける何億のなみだが
ぼくのこころのいちばんもろいドアをやぶった

どんな朝がぼくたちをまってるの?
どんな空とどんな風とどんな森と
どんな夢とどんな失敗とどんなパンと

どんな伝言とどんな証明とどんな映画と
どんな約束とどんな裏切りとどんなうそと
どんなさよならがぼくたちをまってるの?

2000年の春、20世紀にさよならの手紙を豊能障害者労働センターの機関紙「積木」に投稿しました。
21世紀は希望の世紀になると甘い心を引きつりながら…。

三上寛 夢は夜ひらく

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