民間委託による コスト削減の犠牲になるのは誰か? 箕面市の改革プラン

新型コロナウイルス感染症はここ冬場に至って世界的に深刻な状況になっています。高齢者としては、ほんとうに早く収まってほしいと思いながら、急ごしらえのワクチン接種には臆病になってしまいます。

わたしがかつて住んでいた大阪府箕面市では大阪維新の会の新市長が誕生し、早速(仮称)箕面市新改革プランを発表し、コロナ禍により市税収入が減り、財源不足になることから行財政改革を進めると宣言しました。
その骨子は
改革の柱1 新アウトソーシング計画
改革の柱2 施設の再配置構想
改革の柱3 市有財産の活用
改革の柱4 全事業の点検
改革の柱5 各種団体の見直し
ということで、公立の保育所や幼稚園の民営化、ゴミ収集の100%民営化、新市立病院の民営化、病院跡地の学校建設の見直し、公共施設の再配置計画、公益財団法人国際交流協会とメイプル財団の統廃合など多岐にわたり、全事業をゼロベースで見直し、障害者団体への助成金もその対象になっているようです。前市長時代の「改革」で持ち直したもののコロナ禍もあり財政が危機的状況であるとその理由を説明しています。
12月16日に70名ほどの市民が参加し、説明会を開きましたが、その1回とパブリックコメントだけで決定するということですが、多様な市民の声に耳を傾け、丁寧に議論し実行することを強く望みます。
わたしは財政のことがよくわからないですが、今もなお民間委託がコスト削減の切り札とされていることに大きな違和感を持ちます。古くは中曽根政権に始まり、小泉政権で大きく日本の針路を新自由主義へと舵をとり、安倍前政権へとつづいた自民党政権や大阪維新の会がほこる実績として、「構造改革」や「規制緩和」のもと、民間委託によって公務員の給料の減額や人員削減によってコストが大幅に削減されただけでなく、民間の活力と知恵によってサービスが向上したと言われています。
それを信じるといいことずくめのようですが、事業委託された企業が公的サービスにかかっていた人件費も人員も減らし、また使い捨てになる非正規のひとをどんどん増やし、結局のところたくさんの労働者の過酷な犠牲の上にコスト削減が成り立っていて、イノベーションとかAI革命とかDXとかのカタカナ英語にごまかされた「成長神話」の裏側で着々と進められる国内植民地政策に命までも追いつめられていく恐怖を感じます。
今回の新型コロナ感染症による恐怖はその奥に広がる真の恐怖をあぶりだし、最終段階にまで来てしまった新自由主義の暗闇がとても深いことを教えてくれていると思うのです。
もちろん、未知のウイルスの脅威と立ち向かうことは様々な失敗や後悔を伴い、無数の犠牲を生み出してしまうことの責をすべて内外の政権や行政に押し付けられるとは思いませんが、民間委託や公的機関の統廃合などで実現したとされるコスト削減の裏側で、目先の成果を求めて削ってはいけないものをけずってしまった医療体制や保健体制の脆弱性がより深刻な事態を招いたこともまた事実だと思います。
箕面市の「改革」が.箕面市民にとってとりかえしのつかないことにならないか心配です。特に国際交流協会とメイプル財団の統廃合は、これからますます外国人市民が増え、多様な市民社会を共につくりだす拠点として実績豊富で大きな影響力を持ち、たくさんの市民が参加している国際交流協会は地域経済を活性化するものして行政としてさらなる力を注ぐべきで、一方で箕面市独自の市民文化を育ててきたメイプル財団との統廃合はどちらにとってもよくない結果をもたらすと思います。

それはさておき今回の改革ではわたしが在職していた豊能障害者労働センターなど「障害者雇用助成事業所」(箕面市独自の社会的雇用事業所)への助成見直しも検討されるとのことで、かかわりのあった者として記事を書いておきたいと思います。
1990年に設立された箕面市障害者事業団の事業対象となる障害者の社会的雇用とは、一般企業への就労を拒まれる障害者は、日中活動のひとつといえる福祉的就労の場ではおおむね3万円以下の工賃(労働の報酬ではなく、就労指導による福祉分配金)で年金と合わせても自立生活を送るには程遠く、その現実を変えるために一般企業が雇わない障害者を雇用し最低賃金を保障する福祉事業所に対して助成し、障害者の自立を進めるためのものです。この制度により、たとえば豊能障害者労働センターの障害者スタッフは、近年活動をはじめたグループホームに数多く入所し、親元から自立した生活を送っています。
この助成制度の最大の特徴は、福祉的就労の場のように障害者を指導訓練するのではなく、共に働く仲間として雇用するだけでなく、その経営に障害者が参加することが求められ、そのうえで最低賃金を保障する事業所としての経営努力と共に、障害者問題など人権・福祉問題の啓発を求めるなど一般.の企業に流用されないようにハードルを高くしています。
障害者の自立をすすめるために福祉政策として一般就労をこばまれる障害者の雇用を実現する箕面市の試みは当時も今も画期的で、たとえばこの制度のもとで豊能障害者労働センターの障害者スタッフは生活保護を受けなくても親元から独立し、グループホームで自立生活をしているひとが数多くいます。
ただ、国も時代もまだまだこの画期的な試みに追いつけず、現在でも単独事業になっていて、箕面市は国の予算を獲得するために一見よく似た障害者就労支援継続事業のA型へと移行したいと考えているようで、今回の改革ではいよいよその方向へと舵を切ることになるかも知れません。
障害者就労支援継続事業のA型は最低賃金を保障する雇用契約を結ばなければならず、箕面市の障害者雇用制度と変わらないように見えますが、障害者事業所の助成は障害者スタッフの給料を保障するためのものですが、障害者就労支援継続事業のA型の助成は他のの福祉事業所と同じように指導員の給料などのための管理費として助成するもので、障害者の所得補償に使用すると制度違反になります。
つまり、A型事業所では障害者は共に働く仲間として雇用されているのではなく、あくまでも福祉サービスの利用者でしかありません。この違いはとてもおおきなもので、もちろん事業所の経営に参加することも、共に働く仲間としての身分保障もありません。
もともと、ひとりの市民として自立生活を送るために所得を得る権利を保障するための障害者雇用制度は、障害者を市民生活の場から切り離された領域に閉じ込めることになる障害者就労継続事業A型とは制度の方向が真逆で、国のお金を得るためにA型へと移行すれば、1990年代から継続してきた箕面市の画期的な試みはここで終わってしまうのです。いわゆる「世を忍ぶ仮の姿」として旧来の福祉制度を受け入れたとしても、結局は制度がめざす「器」がかわれば、必ず器通りになることは今までの歴史が証明してきたことです。
ともあれ、この制度は人権福祉施策として継続してきたもので、今回の「改革」も福祉施策の見直しという次元で決定されることでしょう。しかしながら、この福祉制度が地域経済にもたらしたものは計り知れず、最近話題の渦中にある斎藤幸平氏も提言する「コモンウェルス」(共的な富)、私的資源でも公的資源でもない富を生み出す市民事業の視点から箕面市の障害者雇用制度と豊能障害者労働センターの冒険の足跡を、次回の記事にしたいと思います。

(報道資料)「(仮称)箕面市新改革プラン」について

箕面市における障害者事業所が行う社会的雇用の今後のあり方について 最終報告

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