過激なやさしさを歌う 長野たかし・あやこ新アルバム「REBORN 再生」

明日も陽は昇り 新たな時を刻む
変わらない私と 生まれ変わる私
東の窓を開けたなら
光の中へ 飛び立とう
長野たかし作詞・作曲「REBORN」

わたしは今回のコロナ禍を潜り抜ける途上で、音楽への関心が変わった気がします。もともと特に音楽的な冒険を掘り下げるわけでもなく、最近の若い人のように身体で音楽を感じる文化も持ち合わせていないのですが…。
子どもの頃、黒い土に頼りなく建っていた小さな長屋、小さな商店街、小さな神社、戦後の爪痕を記憶する鉄条網、何の根拠もない空の青さ、突然やってきた黒いキャディラック、母が買ってくれたハーモニカ、日本全体が貧乏だった頃のわたしの町にどこからともなく流れてきた歌、歌、歌…。中古ラジオの雑音の彼方からやってきた歌たちは大阪府三島郡三島町千里丘の、昼でも陽が当たらない薄暗い部屋を少しだけ明るく暖かくしてくれました。
それはほんとうに遠い昔のこと、戦後流行歌はわたしたち子どもに学校で学ぶ音楽とはちがう戦後の薄明るい未来を引き連れてやってきたのでした。
ずいぶん前になりますが、BS民放5局共同特別番組として放送された「久米宏の『ニッポン百年物語』~流行歌の100年~『未来に残すべきニッポンの歌』」で、秋元康が希望を交えて歌謡曲のメガヒットを予言したのに対して、ロック歌手の近田春夫が「音楽はそれ自体で成り立たないようになり、消滅するのではないか」と予言しました。
彼の予言は、ドラマや映画の主題歌や挿入歌のタイアップ、CDの初回販売プレゼント、AKBの握手権つきCD販売、さらには何か商品を買った得点におまけとして提供されても、音楽そのものを商品として受け入れる「大衆」がいなくなったことを意味していました。
実際、ここ20年ほど進化のスピードが増したJポップをはじめ、世代別にも個々の好みにおいても音楽は分断された時代をそのまま反映し、誰かにとって自殺を思いとどまらせてくれた音楽でも隣のひとはまったく知らなかったりします。
かつて子どもの頃に歌が届けてくれた時代のにおいや、貧困と隣り合わせの希望と身の丈を越える夢、ちょっとだけ小さな背中を押してくれた未来、わたしにとって歌とは過酷な現実が積み重なるこの社会とわたしの人生のささやかな日常をつなぐ一本の糸のようなものでした。
しかしながら、歌がすでに社会と個人、現実と夢をつなぎとめる役割をなくしてしまってどれだけの年月が過ぎたことでしょう。時代は歌を必要とせず、歌もまたスマホやパソコンのブラックボックスに閉じ込められ、歌が生まれ消えていく荒野を必要としなくなってしまいました。
もちろん、音楽に限らず今を生きるわたしたちはますます孤立する一方で、文化、政治、生活習慣などすべてにおいて誰かと分かち合い、分かり合える方法をどこかに忘れてきたようなのです。

長野たかし・あやこさんの新しいアルバム「REBORN 再生」を聞いていて、子どもの頃のなつかしい風景が60年以上も過ぎた今も鮮やかな色彩でよみがえりました。そして、近田春夫が言うように音楽が音楽としての独自の役割を終えてしまったとしても、音楽はそれを必要とする心、愛を探し求める孤独な心にこそ、届けられるものなのだと、あらためて思いました。コロナウィルスが教えてくれたものは、マスコミの扇情的な情報の洪水と同調圧力に振り回されることではなく、自分の孤独と静かに向き合い、わたし自身の暗闇を見つめ、この社会の暗闇を見抜くことなのだと思いました。
実際、長野さんの今回のアルバムはそのタイトル「REBORN 再生」通り、これまでにまして優しさと寛容さとなつかしさと、暗闇が深くなければ決してかがやくことのない希望の光がちりばめられ、わたしの心を温めてくれました。
と言って、前回のアルバムから深みを増した「こぶしを振り上げるだけではない」プロテストソングは同時代を生きるわたしたちにひとまかせの安易な夢を見させてくれるはずもなく、天安門事件の時に「どれだけ自由を奪われても自由になりたいと思う自由だけはなくならない」と竹中労が語ったように、長野さんは今わたしたちに語りかけるのでした。
このアルバムに愛を歌った歌はほとんどないのにわたしの心が静かな愛につつまれるのは、やさしさがほんとうは過激な思想であることを教えてくれるからで、その時、長野たかしさんのプロテストソングは過激な愛の歌となってわたしたちの心を急がせます。

「あれ程、力づけられた『陽はまた昇る』『明けない夜はない』の言葉さえ、虚しく聞こえたこの一年…。落ち込んでも、何も生み出さないのだと吹っ切れるには充分な時間でした。必ず蘇ると、心に決めて、一歩一歩、進んでいけるように勇気が出る歌を歌って行けたら、これに勝るものはないと思っています。」(森川あやこ)

長野さんがコロナ禍の時代を生きるわたしたちに精いっぱいの愛をこめたアルバム「REBORN 再生」は、長野さんの音楽の最も深い理解者でもあるボーカリスト・森川あやこさんとのデュエットによって、そして長野さんと一緒に旅をしつづけるたくさんの友との開かれたコラボレーションによって、時代の重い扉を開けてくれるでしょう。
そして、わたしもまたその旅の一員になりたいと願うばかりです。

追伸ですが、ボーナストラックの「サンタルチア」(ごめんなさい。これはいわゆるネタバレです)は、偶然にもわたしが中学生の時、音楽の実技テストで歌った歌でした。

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・Trap
・REBORN
・雨冷え
・Passenger ~ 流浪の民
・静夜考
・ぼくがぼくであることは
・優しき人よ
・Bow Then…呆然
・集合写真
・いつものあの歌
・アキラメナイ☆
★ボーナストラック有ります❢
・全12曲入

REBORN 再生

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