青い暗闇に柔らかい光が届く時代がやってくると信じて…。

長野たかし・あやこさんのプロテストソングの行方 ガレリオかめおかコンサート

 11月26日、ガレリオかめおか・響ホールで開かれた、長野たかし・あやこさんのコンサートに行きました。会場のガレリアかめおかはJR亀岡駅から20分、バスで7分という立地で、生涯学習や図書館分室、2つの文化ホール、デイサービスに加えて道の駅をある複合施設です。コロナ禍の中でも制限が緩和され、紅葉が見ごろの行楽日和で京都市内への観光に出かける人も多かったと思うのですが、主催者の方々の熱い思いに支えられ、絶対的平和を願い熱唱する長野たかしさん・あやこさんの新しいアルバムの発売記念にもなったコンサートに200人のお客さんがかけつけました。
 わたしは能勢町のCafé「エスペーロのせ」でのライブ以外はなかなか参加できないのですが、今回のコンサートは毎回能勢にまで来られる亀岡の人々の熱気に誘われ、友人のTさんの車に乗せてもらって参加させていただきました
 長野たかしさんとの出会いは2017年、緑豊かな里山能勢で平和を願うひとびとが集い、心と物と夢が行き交う地域を耕そうと開催した「PEACEMARKET・のせ」に出演していただいたのがきっかけでした。このイベントは50店舗のフリーマーケットと民族料理と合わせて、ステージでは15グループのミュージシャンが交通費込みで1万円という謝礼とも言えない出演料で参加してくれていたのですが、スタッフの一人が長野さんに声掛けしたところ、出演を快諾してくださったのでした。
 長野たかしさんは五つの赤い風船のメンバーとして活動後、1977年から1983までNHKの教育番組に参加、現在は妻・あやこさんと共に子ども向けの人形劇団「劇団MOMO」を結成し、平和・人権・環境保護をテーマに演劇制作・公演をされています。
 また昨今の理不尽な出来事を憂う想いや平和を願う想いが高まり、あやこさんと共にフォークシンガー・ソングライターとして教育関係、市民講座、平和集会、ライブハウスなどで活動されています。「PEACEMARKET・のせ」に参加されたのも、わたしたちの切ない夢に深く共感して下さったからにちがいありません。

歌もまた風化しない希望の物語、時代が求めるフォークソング

 2015年にアルバム「希求」を制作、その後も精力的にアルバムを制作し、歌ってきたこの7年の間、日本社会と世界各地で数々の紛争や自然災害が勃発しました。そして2019年から続く先の見えない新型コロナ感染症のさ中のウクライナ戦争などにより無数のいのちが奪われ、壊され、傷つけられるこの悲惨な時代が何によって、そして誰によって引き起こされているのか、長野さんは問いつづけ、その憤りと悲しみを歌に託してきました。
 今回のコンサートは、「希求」から「ふらわーちるどれん」へとたどり着くプロテストソングの行方をたどるものでした。「心許なきこの国で」、「希求」から始まり、「私が私と言えるよう」で一部が終わり、二部はあやこさんの独壇場、人間の世界をするどく批判し見つめる人形「ザベス」のコントで始まりました。あやこさんの「コップ半分の酒」を久しぶりに聴き、「それぞれの木は空へ」、「同じ丘に立って」、「だいじょうぶ」と続くとあっという間に最後の曲「ふらわーちるどれん」にたどり着きました。
 新しいアルバムに収録された曲はいずれも刺激的で、「歌もまた風化しない希望の物語」として、刹那的な音楽ビジネスとはかけ離れた道をたくさんの友と歩き始めることでしょう。個人的には独り言をつぶやくような「旅路」が、わたしの今の心情に深く突き刺さりました。

 思い返せば1960年代から70年代にフォークソングが席巻した時代は、第二次世界大戦以後の枠組みに若い世代の異議申し立てが世界各地で噴出し、政治的には資本主義と社会主義が国家のあり方を二分する中で、若い世代が新しい民主主義を開拓しようとしていましたし、文化的にはアートも音楽も演劇もこれまでの既成システムを壊し、若い世代自らがつくりだす新しい文化が国境を越えて共振し合う時代でもありました。世界は変わろうとしていて、その担い手として若い世代の感性と実行力に希望と幻想を持てた時代でした。
 しかしながら、波が引くように政治の季節は終わり、高度経済成長というジェットコースターに乗り損ねまいと日本社会が時速200キロのアクセルを踏み始めた頃、世界は戦後すぐからすでに深い溝でえぐられた国境線で区切られ、成長神話による富の集中と「自己責任」のもとで格差が進む資本主義社会と、個人崇拝と秘密警察を背景に独裁と粛清による恐怖政治へと進んでしまった社会主義社会との分断は長く、現在まで続いています。
そして、世界各地の紛争が日常茶飯事となってしまった今、わたしたちひとりひとりの人生と全くかけ離れたところで資本主義・新自由主義国家と権威主義国家の全面的な軍事衝突がいつ起こっても不思議ではないところに来てしまいました。
 長野たかしさんが静かな、けれども大きな決意でふたたびプロテストソングをつくり、歌い始めたのもまた、同時代を生きてきたわたしたちがもう一度異議申し立てをしなければ、わたしたちのいのちもこれからを生きるひとたちのいのちも危うくなり、切ない夢もささやかな幸せもこれからを生きるひとたちに手渡せないのではないかと思うからなのでしょう。

来るべく飢餓の時代に助け合い、共に生きる勇気を耕す愛の歌

 わたしはもう少し遠い未来には、次の次の次の…、次の世代の若い人たちによる新しい社会民主主義がやってきてほしいと思います。夜明け前が最も暗く、鳥の鳴き声がいつもの朝を告げ、窓辺の青い暗闇に柔らかい光が届く時代がやってくると信じて…。
 これから未来、100億をこえるいのちがこの星で生きなければならない時代、限りある地球資源を食いつぶしたり、イノベーションの暗闇から生まれる仮想肉などで飢餓をなくすことが許されない以上、限りある資源を分け合い、助け合って共に生き、気候危機と向き合い、ひとりひとりの自由と夢と人権を支える、新しい社会民主主義の形を作り出す以外に生きられないと思うからです。
 長野さんの新しいアルバム「ふらわーちるどれん」のあとがきに「過去の私(たち)の人生は、もう変える事はできません。だから残された日々を精一杯、死とともに旅路に着くことにしました。」とあります。わたしもまた、隣り合わせの死とともにある残りの人生を静かに旅し、来るべき未来の邪魔をせず、すこしだけ未来への小さな道しるべを数少ない友と描けたらいいなと思っています。
 長野たかし・あやこさんの歌の奥の奥、時代の底辺でもがき苦しみ、夢見る歌心とあふれる愛に包まれた、幸せな時間をいただきました。
 長野たかしさん、あやこさん、出演者の方々、主催者の方々、応援スタッフの方々、PA(音響)の方、手話通訳の方々、そしてあの場に立ち会ったすべての方々に感謝します。

我が町の町議会議員・中西けんじさんが友情出演
みんなのアイドル・ザベスが歌う
アンコールで五つの赤い風船の「遠い世界に」

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