武器ではなく鍬を持って平和を実現する! 中村哲さんが教えてくれたこと

米軍が1月3日、イラン革命防衛隊のスレイマニ司令官を殺害し、イランが報復としてイラク駐留の米軍の軍事拠点にミサイル攻撃し、一触即発の緊迫した状況になっています。イラクの駐留米軍が対象となったことは、イランが警告しているように日本の米軍基地もその対象になりうるわけで、中東への自衛隊派遣などもっての他と思うのはわたしだけではないでしょう。
世界の権力者たちは自分の身は安全な場所に置き、チェスのゲームのように武力行使のボタンを押し、数多くの人々の命を奪っても何の痛みも感じることはないのでしょうか。

昨年の12月4日、中村哲さんが銃撃され、亡くなられたニュースに驚きと悲しみに打ちひしがれた方々がたくさんおられると思います。私もそのひとりです。
1984年、医師としてパキスタンのペシャワールに赴任し、以後アフガニスタンで医療支援活動をしていた中村哲さんは、病気の背景には干ばつによる食料不足と栄養失調があると考え、2003年より用水路の建設を始めます。ガンベリ砂漠を潤す総延長25・5キロに及ぶマルワリード用水路を整備、砂漠は1万6500ヘクタールの緑の大地に生まれ変わり、稲穂、麦が育ち、65万人が帰農しました。
中村哲さんとぺシャワール会の活動を知ったのは、2001年のアメリカ同時多発テロと、その後のアメリカと有志連合国軍のアフガニスタンへの報復攻撃が始まった頃でした。
2001年9月11日の夜、豊能障害者労働センターに在職していたわたしは、箕面の酒場にいました。テレビ画面にビルの側面からあふれる煙が見えました。大変な事故が起こったと思いました。しばらくしてそれがテロであることを知りました。アメリカはそれを「戦争」と呼び、「正義の戦争」を掲げて報復攻撃を同盟国に呼びかけました。
わたしはそれまで、アフガニスタンのことを何一つ知りませんでした。内戦に追い打ちをかける干ばつで農地は荒廃し、危機的な食糧不足と栄養失調で明日の命もあやぶられるアフガニスタンのこどもたちと、箕面の酒場で酒を呑みながらテレビ画面を見ているわたしとの間には、とてもない距離が横たわっていました。

わたしたちはこの日本で箕面の町で、「しあわせになる」ために活動をつづけてきました。障害者がほんとうに一人の市民として暮らしていくことは難しいけれど、昔にくらべればほんの少し「豊か」になっているのだと思います。わたしたちのほんの少しの「豊かさ」はわたしたちががんばってきたからかも知れない。
けれども、その一方でわたしたちのほんの少しの「豊かさ」が、アフガニスタンのこどもたちの飢えをつくったのではないと言い切れるのでしょうか。あのこどもたちのかなしみと恨みにあふれたひとみが、わたしたちに向けられていないと言えるのでしょうか…。
わたしたちはそれまでただひたすら一日一日を暮らしていくことに悪戦苦闘していて、世界各地の紛争で無数の人々が生活の基盤を奪われ、傷つけられ、命までも奪われる過酷な現実を自分のこととして受け止めることができませんでした。
しかしながらあの夜、音のないテレビから今まで決して見ることのなかったもうひとつの世界があふれ、「助けて!」と叫ぶこどもたちの悲鳴が確かに聞こえたのでした。
わたしたちは「つながりたい」と思いました。つながれないかなしさと、それでもつながりたいと願うこころを、とどかぬこころをとどけたい…。どの大地の上でもどの空の下にいても、すべてのこどもたちがわくわくするはずの明日を恐れないですむように、わたしたちはささやかな行動を起こしたいと切実に思いました。それはそのまま、箕面の町でだれもが自分らしく生きていくことを夢みるわたしたちの活動そのものだから…。
わたしたちは、毎年開いてきた大バザーに平和の願いを込めました。北大阪の小さな町でどんなに声高に平和を叫んでも、時の権力者に届かないかも知れない。しかしながら、ひとりひとりの小さな願いが詰まったいとおしい物たちが集う市場・バザーは平和でなければ開けないけれど、さまざまな民族、文化が出会い、行き来することが平和への道の一歩であることもまた確かなことだと、中東の地域の人々が教えてくれたことでした。
そして、国際貢献の名のもと武器で押さえつける「平和」ではなく、鍬を持ち、荒れた大地を耕し、用水路をつくり、農業を復活させて生活を取り戻そうとする中村哲さんとペシャワール会の活動こそが平和をつくることなのだと知り、貧者の一灯でしかないけれどバザーの売り上げの一部をペシャワール会に送金しました。
たくさんの大切なことを教えてくださった中村哲さん、「戦争している暇はない」、「われわれは武器ではなく、鍬で平和を実現しよう」…、その活動から生まれた言葉は、世界中の平和を願うすべてのひとへの熱く強烈な遺言として、いつまでもわたしたちの心を勇気づけてくれることでしょう。中村哲さん、ほんとうにありがとうございました。

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