猪名川町立「静思館」

先週の金曜日・10月21日、久しぶりに時間ができたので、妻に連れられて猪名川町の「静思館」に行きました。車に乗れないわたしたちは、電車とバスとひたすら歩く能勢暮らしですが、この日も一時間に一本のバスに乗り、能勢電車の山下駅前に到着、そこから能勢電車でひと駅の日生中央駅、そこからまた一時間に一本のバスで猪名川町役場、そこからすぐのところにある静思館はほんとうに静かなたたずまいでした。自由に入れる感じで、吸い込まれるように赤門まで行くと、管理人の方が掃除をされていました。「見せていただいていいですか」と言うと、「どうぞ、案内します」と言って下さり、とてもくわしく説明して下さいました。今は「静思館」と呼ばれるこの建物は、明治五年この地に生まれ育った冨田熊作という人物が昭和七年に日本中の良材を取り寄せて京都から宮大工を呼び寄せ、数寄の粋を尽くして造り上げた建物です。今のお金で10億円の工費だそうです。

雨水をためるタンク              かまど

まず目に入ったのがこれ、雨水をためるタンクです。外観をみると純和風建築なのにこのタンクがどんと目に入った段階で、当時の最新の技術を取り入れたモダンな建物でもあることが分かります。管理人さんの話では、このタンクにためた水を防火用水の他、庭の滝水にしていたそうです。わたしはそんなにたくさんの古民家を観てきたわけではありませんが、この建物は資産家が贅を尽くして立てたものには違いがないのですが、ヨーロッパ文化にも精通しているひとが造った建物で、装飾のようなものはほとんどなく構造や建具が和風建築のシンプルなデザインで作られています。洋式のテーブルやいすも自然に溶け込んでいて、ほんとうにセンスのいい建物だと思いました。

この家は建てたのは古美術商だった富田熊作というひとで、富田熊作は古美術貿易商「池田合名会社」に十二歳で勤め、明治三十六年に東洋古美術貿易商の「山中商会」に入社しました。「山中商会」は顧客にイギリス王室やロックフェラー、さらに日本の美術に多大な影響を与えたモースやフェノロサという人物を顧客にしていました。富田熊作はその「山中商会」のロンドン支店長となり、スイスの大富豪であるアルフレッド・バウアーのために日本の浮世絵や中国の陶磁器などを集めたものは「バウアー・コレクション」として世に知られています。大正十一年に五十歳で「山中商会」を退社して京都で個人的に古美術商を営みます。そしてこの建物を建てて晩年を過ごしていましたが昭和二十八年八十二歳で亡くなりました。

茶室横のテーブル席        手前テーブル 奥座敷

外国人の来客、商談などもあり、茶室にテーブルとイスをもうけるなど、純和風の形式にとらわれない発想がおもしろいと感じました。裏にはそれぞれの用途別の蔵が4つあるのと、井戸水をくみ上げる給水塔があり、ここから水をめぐらして昭和初期では初めてかもしれない水洗トイレがあったり、書斎を床暖房にしていたりと、当時では画期的な快適空間をつくりながら江戸時代の和風様式を楽しんでいた家だと思いました。貸し館業務もしていて、ミニコンサートや寄席なども開かれています。このロケーションで音楽を楽しむのはまた格別でしょうね。親切な管理人さんの丁寧な案内で、ゆっくり楽しむことができました。

給水塔 親切な管理人さん

猪名川町のホームページより四季折々の豊かな里山の風景に、すっぽりと抱かれたような茅葺の家「静思館」この静思館は、猪名川町で最も大きい民家の一つとされている「旧冨田家住宅」を町に譲り受け、文化向上に役立てているものです。「旧冨田家住宅」は資産家として知られた冨田熊作氏(故人)が約2,500㎡の敷地に昭和7年から3年の歳月をかけて建てた和風建築物です。茅葺き、総檜造りの母屋と四つの土蔵など、建築面積535.1㎡の広壮な屋敷です。冨田氏が全国各地から良材を集め、江戸時代の豪農の屋敷を模したもので、町が文化施設としてよみがえらせたものです。表門を入ると広い中庭の奥に土間の玄関があり、6~10畳の和室が7室と離れの内庭に面して茶室も設けられています。内部には当時の面影を伝える家具類や道具類がそのまま残されており、訪れる人の郷愁を誘います。静思館という名前は、来館者に憩いと静思の場としていただくにふさわしい、緑と清い空気に恵まれた自然環境にある建物であることから名付けられたものです。猪名川町では、古きよき時代の民家を町内外の人に観覧していただくほか、グループ活動、社会教育の場としても広く開放しています。

猪名川町立 静思館〒666-0244 兵庫県川辺郡猪名川町上野字町廻り22Tel/Fax: 072 - 766 - 0013阪急バス、ふれあいバス:上野下車すぐ開館時間: 午前9時30分~午後4時30分休館日: 月曜日・祝日施設の利用料和室・茶室 1時間700円観覧のみの場合は無料です。町外居住者は、2倍の使用料となります。

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