守る自然と育てる自然。企業誘致よりも持続性の高い経済効果
里山の暮らしが守ってきた自然は、再生可能な経済資源。町長選挙に想う。
衆議院選挙がはじまっています。能勢町では能勢町長選挙もあり、20日には町長選挙、27日には衆議院選挙の投開票日と、いつにもまして選挙の季節となりました。
国政選挙では裏金問題や旧統一教会の問題など、自民党政治に対する厳しい批判の中で、自民党単独で過半数を割るだけでなく、公明党を含む与党の過半数割れがあるのかないのかに注目が集まっています。
政治とお金の問題をきっかけに、本来は安倍政治、自民党政治から脱却し、誰ひとり取り残されることのない、安心と助け合いの政治に向かうのか、政権交代があってもなくても、まだこれまで以上に規制を緩和し、コストカットとイノベーションによる経済成長神話を追いかけるのかを問う選挙でもあると思います。
昨今のAIを始めとする技術革新・新しいイノベーションで「失われた30年」を取り戻し、世界に通じる経済成長を取り戻すことがほんとうに可能なのでしょうか。そもそも今の時代では経済成長とは富の偏在と無数の貧困を生み出すことにもなりかねません。少子高齢化、人口減少、防衛費の増額と社会保障の行詰まり、物価高でよくならない暮らしなどなど課題は満載で、たしかに政治によって変えられることはいっぱいある一方、気候危機など世界が抱える困難な現実もあります。
経済成長と社会保障に影響する止められない人口減少を少しでも食い止める努力が特に政治に求められることなのでしょうが、一方で止められない人口減少に合わせたわたしたちのあり方、未来社会の姿を探し、つくり、育てる政治もまた必要なのではないかと切実に思います。
経済成長が破壊した持続可能な地方経済
振り返れば、戦後の人口爆発と国策でもあった高度経済成長の下で地方の町村から人口が流出し、東京をはじめとする大都市に集中しました。それまで自然とのかかわりの中で育まれた農業、林業、畜産業、漁業など豊かな自然の恵みを生かす経済は、減反政策に代表される国策によっても破壊されてきたとも言えるでしょう。
「失われた30年」で理不尽な境遇に置かれたのは就職氷河期で非正規雇用労働者か、正規雇用労働者になれても少ない収入しか得られない当時の若者でした。あしたは今日より悪くなるかもしれないと自己責任で暮らしていかなければならず、少し間違うと社会から排除される不安を持ち、自分たちの汗から絞り出した税金が高齢者や障害者などに渡されることに不満を募らせているひとたちも多いかも知れません。
人が集まり、企業が集まり、若い人たちがかがやいて見える都市が雇用の場を用意してきた都市型の高度経済成長のもとで、かつて地方経済の中心だった農業、林業、漁業などの一次産業、自然との対話で暮らしをいとなんできた長い歴史はとだえようとしています。今までは細々とつづけられてきたもの、高齢化と後継者不足、耕作放棄地の増加、気候危機などの問題をかかえ、自営業単位の経営では持ちこたえられない限界にきていると思います。
しかしながら今に至り、それらの矛盾を都市型経済成長で乗り切ってきた時代は過ぎ去り、いよいよ都市型の成長を追い求める経済自体も行き詰ってきているとわたしは思います。世界都市・東京シティのインフラが急速に進む中で、生活の場としての東京は少しずつ疲弊し、今はまだ人口集中の場として機能していますが、少し遠い将来には人口減が心配されるようになり、日本社会全体の人口減の象徴的な問題となると思います。
長い視点に立てば、今はまだ目立たないが行き詰っている都市経済から地方経済へと、いずれひとの流れがゆっくりと還流しはじめるときが来るではないかと思います。すでにその兆候が現れていて、直近では数は少ないですがコロナ禍のパンデミックを経て人口が密集する場からゆっくりした自然環境を持つ地方に移住やUターンを実行した人や希望する人がポツリポツリと現れています。
成長神話の出口で待っているのは、人と人が助け合う恋する経済・夢みる町
これからは国全体の人口減少とともに都市経済が縮小し、コンパクトな国・社会へと変わらざるをえないでしょう。戦後の混乱期からより強くより早くと突き進んできた高度経済成長によって捨て去られた自然の再生力を取り戻す経済、よりゆっくりより広く、そんなに華々しくなくても助け合いによる安心・安全な社会へと移行していく大きな流れが始まっているのではないかと思うのです。わたしの住む能勢町もまた消滅自治体のひとつとされていますが、その大きな流れの中にあると思います。
その中でも能勢町は自然の再生力を生かした農業、林業とその加工商品の生産拠点として、とても魅力ある地域だと思います。中核都市・大阪市へとつながる北大阪の池田、豊中、箕面、茨木、そして、能勢電鉄の始発駅がある川西市とそんなに離れていない所で、農産物やその加工品の大きな需要先と流通市場があることで意欲のある就農者が集まりやすい地域です。都市型経済と里山経済とをバランスよくミックスしながら、徐々に里山経済を発展させていけば、近い将来、地理的にも技術の蓄積からも、意欲のある就農者の受け入れ先として注目される地域だと思います。その結果、町の賑わいや人口増があるとすればそれがノーマルで、少なくとも人口を労働力としてとらえて労働人口の増加を願う少子化対策も外国人の受け入れ施策も、女性や外国人へのストレスしか生まないのではないでしょうか。
能勢町も今はとにかく我慢の時で、町外の雇用の場に依存しながらも自然を生かした経済をなんとか維持していくことで、今は「守るべき自然」が、将来は暮らしと経済を成り立たせる宝物になると思います。地産地消とオーガニック学校給食、特産品のブランド化と自然体験型の教育・保育支援、空家のリノベーション、地域電源の充実、公共乗り合いタクシーや福祉交通システム、体験型の観光・宿泊・体験型の移住支援、また伝統芸能・淨るりの町として、財政的にとても困難な選択肢を選ぶことになりますが、行政施策のやるべきこと、やりたいことがたくさんあり、人口はすくなくても独自の豊かな経済と文化を発信するロールモデルになる可能性を秘めていると思います。
都市型経済成長を前提とした企業誘致は、来るべき新しい里山経済環境の下では自然と言う経営資源をなくしていくばかりなので、たとえば農業公社などに施策を集中させた就農支援と個別事業助成、個人では持ちこたえられなくなった農地や山林、耕作放棄地を町内外の意欲ある就農者とマッチングさせたり、国への要望をふくめて可能な限り今ある自然の宝物を将来の経済資産として生かすための行政施策を住民参加で実現したいものです。
能勢町長選挙も衆議院選挙も、わたしたちの願いをかたちで現す大事な選挙です。将来の厳しい現実を担う子どもたちの夢を育てるためにしっかり考え、想像して、みんなの町長さん、みんなの議員さんを選びたいと思います。
みんなで選挙に行きましょう!
街は勝手に生きている
生きてた人を置き去りにして
それなら僕は森に還ろう
森からもう一度出直そう
(友部正人「銀座線をさがして」)