住民参加による、でんきをつくり、利用する楽しさ

「能勢・豊能まちづくり」は、とても心が躍る、魅力的な事業

 少し前になりますが、10月29日、難波希美子さんの企画で「みんなでエネルギィー!」と題した集まりを持ちました。能勢町淨るりシアター研修室で、株式会社能勢・豊能まちづくりの代表・榎原友樹さんに講演をお願いしました。
 前に紹介しましたが、2020年7月、能勢町、豊能町、一般社団法人地域循環型まちづくり推進機構の3者の共同出資による「株式会社 能勢・豊能まちづくり」が設立されました。主な事業として、エネルギーの地産地消と地域雇用、経済循環の創出、再生可能エネルギーの利用促進をすすめ、持続可能で住み続けられる地域づくりを目指しています。
 ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー不足と価格上昇で、世界各地が深刻な状況になっています。日本政府は原発の再稼働と新規建設をすすめようとしていて、東日本大震災の教訓から定めた40年で廃炉にするという規制を取り払おうとしています。
 成長神話がすでに壊れていると思える経済状況でもなお、技術開発とエネルギー消費型の経済成長を夢見る社会は、その恩恵を享受する者と排除されてしまう者との経済格差を広げる形でしかないのではないかと思います。それは日本社会のみならず、紛争や暴力が増殖し続ける世界各地の切実な問題でもあると思います。

より遠くより早くから、より近くよりゆるやかに

 一方で、気候危機に立ち向かう世界各地のミレニアム世代以降の若いひとたちが緩やかなネットワークを築き、資本主義の限りない成長への欲望からも、全体主義、独裁国家へと変質し、夢破れた社会主義への絶望からも解放され、新しい民主主義社会のもとでの対話と助け合いによって、エネルギーや遍在する富を分け合う時代へのかすかな希望もたしかにあります。
 そんな時代を夢見ることは幻想だと片づけられてしまうかもしれません。それでも、思うのです。より遠く、より早く、メタバースやAI、ICT、DXによる新しい植民地獲得と支配で成り立つ未来社会の内部で、より近く、よりゆるやかに、富を分け合い助け合う地域社会を育て、耕すことはほんとうにできないものなのでしょうか。
 安全で安心な暮らしと顔の見える経済をはぐくみ、気候危機も経済格差も非暴力も平和も少しずつ当面の目標を共有し、実行することで遠い目標へと共に近づくことは甘く非現実的な夢でしかないのでしょうか。
 戦争と殺戮の20世紀を上塗りする21世紀に終わらせず、誰もが望んだ平和と人権の世紀へと後の世代につなげる最後の機会を失わなわないために、やれることは残っていないのでしょうか。
 先日学んだオーガニック学校給食を実現することもそうですが、電気をはじめとするエネルギーを地域でつくり、地域で共有する試みもまた、ローカルに循環する地産地消の経済が世界を支配する経済を穿ち、荒野に咲く一輪の花のように新しいもう一つの経済へと密やかに育つことができるのではないかと思います。
 榎原友樹さんのお話は、そんな夢と冒険が能勢で広がる期待にあふれたものでした。

エネルギーの地産地消から地域の自立と助け合い経済へ

 現在、能勢町ではエネルギー消費に年間8億円を費やし、そのお金を能勢町外に流出させています。地域に電気会社を持ち、運用することは地域にそのお金を還流し、さらに余った電力を町外に売ればお金が町内に入ってきます。地域での雇用創出も生まれ、地域活性化にも大きな貢献を果たすことになります。
 国が先祖帰りをしようとしている今、人口減少と高齢化、農業の後継者不足と空き家の増加、気候危機と、切実な課題に直面する能勢町において、原子力や化石燃料にたよらず、再生可能な自然エネルギーの供給をすすめる事業は、持続可能なまちづくりとして、とても大切な試みなのだと思います。
 「能勢・豊能まちづくり」は、自然再生エネルギーの電気を買い集め、それを販売しています。すでに能勢町のすべての公共施設の電力を供給し、少しずつ一般住民や事業所への供給も進めています。また、能勢町役場の屋根を借りた自前の太陽光発電や、国崎クリーンセンターからの供給、一般住民の屋根に設置された卒FIT太陽光発電など、徐々に地域電源の供給元を開拓しています。
 また、能勢町の公用車のEV化や、省エネの提言、電気にこだわらない森林資源の活用など、エネルギーの地産地消にかかわる案件に積極的に参加し、事業化を試みる実行力のある組織で、今のところスタッフは4人しかいないので派手な営業はかけられないものの、着実に、しかもスピード感をもった運営は株式会社ゆえかも知れません。
 また、9月30日には豊中高校能勢分校の生徒さんたちと共に廃校になった旧東中学校にある太陽光パネルを再生するワークショップを開き、能勢分校で通学に利用する電気自転車の充電に利用できるようにしました。この会社の優れたところは、電気に関する様々なアイデアを住民や高校生たちからも受け入れ、その事業を進めるためにまた住民の参加を求める姿勢にあります。
 榎原さんのお話を聞きながら、住民参加による「でんきをつくり、利用する楽しさ」を提案する「能勢・豊能まちづくり」は、とても心が躍る、魅力的な事業だと思いました。

自然エネルギーとの共存で、安心安全で平和な未来を

太陽光発電については設置運営に住民とのトラブルも数多くあり、能勢町においても設置場所について検討し、新規の事業者に対して規制指導する再生エネルギーのゾーニングをすすめています。
 伝え聞くところでは、それを踏まえた条例の作成を検討しているとのことですが、能勢町行政とまちづくり会社によるゾーニングだけが進められている印象があり、たとえば住宅地や農地、山林地区などそれぞれの立地条件に即した規制をともなった条例の枠組みの中でゾーニングのあり方も考えなければならないと思います。
 わたしは地域で発電所を持つことは光の部分だけではなく、影の部分もまた住民が共有しなければと思います。太陽光発電のトラブルが起きないためには能勢町のこと、日本のこと、世界の気候危機のことを視野に入れた上で、設置場所もさることながら、設置の方法や運営についても規制するべきところは規制し、自然エネルギーとの共存を図る努力が求められます。
 ちなみにわたしはつい最近、「能勢・豊能まちづくり」から電気の供給を受け、また屋根に設置した卒FITの太陽光発電による売電も契約しました。しかしながら、榎原さんの説明を聞き、オール電化からの切り替えの場合は電気料金が上がると知り、電気の節約に努めています。難波さんのような信じられないほどの省エネは年齢のこともあり無理があるのですが、それでも生活スタイルが少し変わり、楽しみが増えたような気がしています。

「エネルギーを変える。まちが変わる」 株式会社能勢・豊能まちづくり

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