「KISS!PEACE」Tシャツと「平和市」・PEACE MARKETへの道5

2006年3月21日、大阪府箕面市で開かれた「平和市」というイベントを箕面市の友人たちと開きました。わたしは今回の「PEACE MARKET・のせ」の実行委員会に参加させてもらったのは、この時の経験があったからでした。
「平和市」は「平和は暮らしの中からつくっていくもの」という思いで集まった市民たちが実行委員会をつくり、「平和」にかかわるさまざまな市民の活動や願いを「市場」に持ち寄ろうと企画されました。当日は70をこえる出展者によるフリーマーケットやパネル展示、ステージでの歌や踊りで、とてもいい雰囲気のイベントになりました。
市民が自分の意志で不用品を会場に持ち寄って販売するフリーマーケットは、売り手側と買い手側に一方的な商品が流れる新品の市場とはちがい、市民が売り手にも買い手にもなる市場、物とひと、物と物との出会いの場を生み出します。
それぞれつくられた場所も時もちがい、またそれぞれちがった場所と時に別のだれかに使ってもらおうと世に出た物たちが、時と場所をこえて雑然と集う市場を、わたしたちはバザーやフリーマーケットと呼んだり、リサイクルショップと呼んだりします。
それらの物たちがここに来る前にたどってきた無数の時間と、立ち会ってきた無数の人間の願いと夢、別れと出会いがかくれんぼしている市場…。長い歴史から見ればその一瞬を刻むことさえむずかしいひとりひとりの人間が一生かけて見つづける未完の夢をリレーするために、人間の歴史は古くから「市場」を必要としてきたのかもしれません。

阪神大震災の時、わたしは大阪府箕面の豊能障害者労働センターのスタッフとして、被災障害者救援のための大バザーを開きました。被災地に救援物資を届ける役割を持っていたわたしたちは、全国各地から送ってもらった物資を毎日届けていたのですが、刻一刻必要とする物が変化し、仮の倉庫も事務所の中も救援物資でいっぱいになってしまいました。一方で、「お金は難しいけれど、バザー用品だったら提供できるし、手伝いもできるよ」と地域のひとびとが提案してくれました。
救援バザーを開くと伝えると地域はもとより、豊能障害者労働センター機関紙「積木」の全国の読者から毎日信じられないほどのバザー用品が届きました。なかでも被災地のひとびとからたくさんのバザー用品が届いたことにわたしたちは驚き、涙が出ました。
フリーマーケットとバザーは成り立ちがちがうけれど、バザーもまたその語源・バザールが中東の市場を意味するように、ひとびとが物を持ち寄り、願いをわかちあうために必要とした市場であり、人間の知恵であることをその時に学びました。そして思いました。世界中のひとびとによびかけ、こうしている今も世界のどこかでひとびとが傷つき死んでいく紛争地で大バザーができたらどんなにすばらしいだろう。世界中から物を持ち寄り、すべての武器を捨てて平和を願い、つくりだすために開かれる市場…。
そんなことができるはずがないと思った時、反対にバザーやフリーマーケットは平和でなければできない、そのバロメーターなのだと気づきました。豊能障害者労働センターの大バザーはそれ以後毎年、平和への願いと人々が共に助け合って生きる街や社会を願う大バザーとして広がり、箕面の風物詩のひとつとなっています。
「平和市」は箕面の親しい友人たちと半年以上も前から準備しました。そして1995年の救援バザーの時に見たはるかな夢を思い出しました。もちろん世界の紛争地でバザー開くなど現実的ではないでしょう。しかしながら、北大阪の小さな地からはじまり、平和への願いを持ち寄る「市場」をひとつでも多くつくりだしたい。それは「平和を守る」ことから「平和をつくりだす」ことへと一歩踏み出すことなのだと思ったのでした。

「平和市」に触発されて、わたしはその頃に制作していたTシャツのテーマを「KISS!PEACE」と決めました。
以前にジョン・レノン&オノ・ヨーコの1968年のメッセージ「WAR IS OVER」をプリントしたTシャツをつくった市民グループがありました。
ベトナム戦争がより激化していた時代にジョンとヨーコが世界に発信したこのメッセージは世界中の空と海をかけめぐり、当時炊事場もトイレも共同のアパートの六畳一間で心を縮ませながらひっそりと暮らしていたわたしにも届きました。
「戦争は終わる、もしあなたが望むなら」と歌う名曲「ハッピー・クリスマス」のメッセージは世界の現実を知らない軽薄で甘ったるいものと吐き捨てるひとたちもたくさんいる一方で、こんなにわかりやすいメッセージが届かない世界の現実をこそ変えていかなければならないと考えるひとたちもまた、たくさんいます。そうでなければこの歌がいまやもっともポピュラーなクリスマスソングのひとつになるはずがないと思うのです。
誰も傷つくことも、また誰も他人を傷つけず、武器を持つよりも友情をと明快なメッセージを込めて、市民グループ「今こそ世直しを市民連合」がつくった「WAR IS OVER」TシャツはわたしのTシャツづくりの原点で、いつかわたしもTシャツを一枚のキャンバスにして自分の思いを発信できたらと思っていました。
それから半世紀すぎた今も世界各地でテロとその報復がくりかえされ、かけがえのないひとつひとつのいのちが死者何百人、何千人という数字だけを残して消えていきました。「戦争は終わる、もしあなたが望むなら」というメッセージが届かない世界の現実を前にして、だからこそこのメッセージはより深くわたしたちの心をとらえてはなしません。
2006年に制作した時は「WAR IS OVER」Tシャツを復刻させて商品化しようとも思ったのですが、著作権の問題もあったのと、わたしの人生に大きな影響を与えたジョンとヨーコのメッセージを受けて、つたないまでもわたし自身の言葉で伝えていきたいと思いました。ポップで力のある平和メッセージにしようといろいろ考えたものの、なかなか思いつかなかったところ、「平和市」の準備を友人たちと進めるうちに、とつぜんひらめいたのでした。こうして「KISS!PEACE」Tシャツが生まれました。
あれからまた10年の時が過ぎ、場所を里山の地・能勢に変えて、共に準備する新しい友と出会い、「PEACE MARKET・のせ」を開くことができるのを感謝しています。その中には箕面の友人たちも参加してくれました。
そして、わたしは万感の思いをこめて「KISS!PEACE」Tシャツを復刻することにしました。仕事をやめて能勢の市民運動にいそがしい毎日をおくりながら、ブログのタイトルだけだった「恋する経済」をわたしのささやかな仕事場の名前として、このTシャツ制作販売から出発しようと思っています。
「KISS!PEACE」というのはちょっと気恥ずかしいですが、このメッセージが一人でも多くの人の心に届くように願っています。
小さな事業なのでチラシを作るかどうか迷っていたのですが、やはりチラシが必要という友人たちのアドバイスをもらって今制作中の他、WEBでも情報発信していこうと思います。2000円でお届けしますが、以前と同じようにお店やグループで委託販売していただける方には、精いっぱい収益をお渡しできる委託特別価格でお届けできます。

John Lennon Happy Xmas (War is Over)

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