里山能勢に友部正人が現れた。5月14日「ピースマーケットのせ」3

この日のセットリストです

1.彼女はストーリーを育てる暖かい木
彼女は海辺の町にいて 今日も流木を拾いあつめる
それは彼女が愛した男たちの骨 彼女が育てた物語にくべる薪
2.歌は歌えば詩になって行く
いつかこの食べきれないほどの悲しみを
沈みゆく炎の船に託す時が来るだろう
3.はじめぼくはひとりだった
生きていることは愛なんかよりずっと素敵なことだった
話しかけるのもぼくならば それに答えるのも僕だった

4.愛について
父のいない子は愛について考え続ける 夫のいない母も愛について考え続ける
愛について考えることでふたりは結ばれている

5.マオリの女
テフラは一人の女ではなくて ゴーギャンにとってはマオリそのもの
だからテフラが悲しい歌を歌えば それはマオリの歌となる
6.クジャックのジャック
離れたほうがよく見えるから 離れたほうがよく聞こえるから
男の子は世界の中心から離れた所にたたずむ大人になりました

7.公園のD51
どうしてこんなにきれいにしちまうんだ 塗り直された町の商店街
走る特急列車の窓の中 まばゆいイルミネーションの真ん中で

8.モスラ
東京だけが照らされて 僕らの町は真っ暗だ
東北モスラ 東北モスラ

9.ニューヨークシティマラソンに捧げる
ニューヨークシティマラソンのコースには ランナーのための劇場がある
今僕はその楽屋口から 君の待つ場所へと戻るところ

10.ただそれだけのこと
その時ぼくは聴いたんだ 若い男がこう叫ぶのを
僕は白人じゃない ただそれだけのこと

11.銀の汽笛
この世に住みついた罰として 愛を牢屋に閉じ込めた
誰かに夢中にならぬように 鉄格子を三本はめた

12.隣の学校の野球部
夜明けにカラスが鳴いている カラス鳴け鳴けもっと鳴け
隣の学校の野球部が 怒鳴る声よりもっとまし

13.朝は詩人
風は長い着物を着て 朝の通りをめざめさせる
僕は朝と手をつなぎ 夜まで眠ることにした

14.一本道
ひとつ足を踏み出すごとに 影は後に伸びていきます
悲しい毒ははるかな海を染め 今日も一日が終わろうとしています

15.From Brooklyn
ひとつの車両に幸せな ふたりが一組いれば
それだけでこの電車は 幸せを運んでいるんだと思える

アンコール
16.遠来
ぼくらはいつもどこか遠くから ぼくらのいる星を眺めている
そして僕も君もこの地球の上で 分かり合えないまま距離ばかりを大切にしている

17.夕日は昇る
ねえ、知ってるかい 日暮れにおりて来た太陽が
また昇りはじめて 雲の中にかくれて夜が来た

書き出してみると言葉の宝石のようにきらきらした言葉が歌になる奇跡に立ち会っていたのだと感じる一方、これらの言葉が決して言葉遊びではなく、その言葉たちの後ろにいろいろな事柄が隠れていることに気づきます。
もちろん、それはとても個人的なこともありますが、たとえば「彼女はストーリーを育てる暖かい木」には東日本大震災が、「歌は歌えば詩になって行く」には、テレビから流れる大事件を傍観者のように見ながら日常の食事をする怖さが、「はじめぼくはひとりだった」では、他者と出会うことで襲われる孤独が言葉のスクリーンから浮かび上がってきます。
「愛について」は戦後すぐ、シングルマザーとして毅然と生き、わたしと兄を育ててくれた亡き母におんぶされた時の震えるうなじと悲しみの形をした背中を私に思い出させてくれました。
「モスラ」は福島原発事故を、「ただそれだけのこと」はトランプを大統領にしたアメリカで黒人9人が白人の警官に殺された事件を歌っています。
一方で、「クジャクのジャック」や「隣の野球部」の歌は軽快なテンポでアイロニーにあふれた歌になっていて、「乾杯」など友部正人の歌にあった「トーキングブルース」を思わせます。

あっというまに最後の曲も歌い終わり、アンコールで歌ってくれたのは「遠来」と「夕日は昇る」でした。ステージで言ってくれましたが、気持ちよく歌えたというお土産として、この2曲か選ばれたのでした。

コンサートの後、カフェ「気遊」さんで打ち上げをしました。実は友部さんに連絡を取ってくれたのも「気遊」さんでした。気游さんの紹介ならばと友部さんが来てくれたわけで、最初から最後まで応援してくれた「気游」さんに感謝です。
振り返ってみると、やはり能勢のアクセスの問題を軽く考えたわたしの企画の甘さを数多くの方々の応援で何とか成功へとこぎつけたのが実情です。
応援してくださったみなさん、そしてなによりも能勢に来てくださった友部正人さん、ほんとうにありがとうございました。

友部正人「遠来」

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