島津亜矢は荒野の子。悲しさ、しかし、明るい力強さ、そして、そのまっすぐな心

久しぶりにNHKの「うたコン」や「BS日本のうた」を観ていると、昨年からの若手の演歌歌手台頭の流れが加速していると感じます。とくに市川由紀乃、丘みどりの露出が目立ち、山内恵介にいたっては氷川きよしにつづく人気を獲得しているように思います。
演歌・歌謡曲のジャンルにあったギルドが緩くなり、新人や若手の歌い手さんの活躍を番組の作り手もリスナーも後押しする感じで、下克上も相まって百花繚乱の様相にも見えます。
事実、市川由紀乃&横山剣(クレイジーケンバンド)の異色コラボによる「雨に濡れて二人」や竹島宏の「恋町カウンター」、水野良樹と亀田誠治という「いきものがかり」のヒットメーカーによる石川さゆりの「花が咲いている」など、演歌・歌謡曲のジャンルにおいても意欲的な冒険が試みられるようになりました。
もちろん、音楽シーン全体からみれば小さなムーブメントにすぎませんが、大衆音楽がすでにメガヒットを求めなくなり、「流行歌」という言葉が過去のものになった今、いろいろなジャンルの住みわけが可能になり、営業・興行などのマネージができる範囲で既成イメージを壊す戦略は新たにファンを獲得できる試みなのでしょう。
そんな状況の中、島津亜矢はまたしても孤独な旅を始めることになったとわたしは思います。昨年6月の「金スマ」出演をきっかけにTBSの「音楽の日」と「UTAGE!」などのJポップ本流の音楽シーンに登場し、演歌・歌謡曲のジャンルとはその数も音楽的嗜好もちがうファンに認知されるようになりました。ただの一ファンにすぎないわたしは事情筋の裏情報などを知る由もありませんが、これらの番組に出演を決めたのは島津亜矢本人の強い意志からと思っています。もちろん、島津亜矢チーム全体が彼女のプロデュースにかかわっているわけで、チーム全体としてその方向性を見定めたうえでのことでしょうが…。
事実その方向性から、昨年の東京オペラハウスでのSINGERコンサートが実現し、今年も開催されるとのこと、チームとしての意志をはっきりしめしてくれたことをうれしく思います。願わくばせめて大阪や名古屋でも開いてくれたらと切実に思います。
そして、CDセールスと通常のコンサートでは演歌歌手としての姿勢を変えずにいるのもまた、若手の台頭をはじめとする演歌界を見据えたプロデュースだとは思いますが、他の演歌歌手がJポップの旗手とタッグを組んだ楽曲やパフォーマンスに取り組んでいるのに比べてあまりにもオーソドックスで、なんとかならないものかと思います。
彼女彼らの最近の動きは石川さゆりは別格として本人の意向というより、それぞれのチームがしのぎを削っているという様相で、失礼ながら島津亜矢のチームがその「たたかい」の場にまったく入らないプロデュースを漫然としていることが不思議でなりません。費用の問題があるのかも知れませんが、本来はここ一年ばかりのJポップの旗手たちとの交流や共演を果たした島津亜矢にこそ、演歌の枠組みの中にあっても思いがけないコラボが実現するはずとわたしは思います。
また好評の「SINGER」シリーズでもカバーだけでなく、松本隆や水野良樹、桑田佳祐などJポップの旗手たちによるオリジナルのポップスを1、2曲制作し、それをシングルカットすることも可能なのではないでしょうか。
たしかにJポップのジャンルに進出することで、既存の演歌枠にとどまることは難しくなると思われます。いまが一番どっちつかずの状態かも知れませんが、こんな時こそリスクを拾ってでもJポップの旗手たちのプロデュース&作詞作曲による新しい演歌やポップスを島津亜矢が歌う大胆なプロデュースを望みます。

前置きが長くなってしまいました。今回の記事からしばらく、「UTAGE!」でのパフォーマンスについて書こうと思っています。
この番組はTBS系列で2014年4月21日から2015年9月28日まで月曜『テッペン!』枠にレギュラー放送されて、2016年以降は不定期特別番組として放送されている音楽バラエティ番組です。他の音楽フェス番組とちがい、番組名どおり歌手たちの宴という設定でさまざまなヒット曲を何人かの歌手による異色のコラボで通常はありえない音楽的冒険にチャレンジするというのがこの番組のコンセプトです。
何日かのリハーサルを経て、本番ではやり直しができない一回限りのパフォーマンスに全力で取り組むことで隠れた才能が発見されたり、歌手同士の交流が思わぬ表現を生んだりすることがあります。
古くは「THE夜もヒッパレー」での安室奈美恵やSPEEDがブレイクしたように、「UTAGE!」から島津亜矢がブレイクする可能性がないとは言えません。
今年の「音楽の日」は島津亜矢の出演がなく、またNHKの夏の「紅白」ともいわれる「思い出のメロディー」の出演がなかったことはとても残念ですが、「UTAGE!」は昨年の秋から今年の3月と6月の3回連続出演し、島津亜矢のポップスの可能性を見せつけました。
昨年の秋はケミストリーの堂珍嘉邦とのコラボで「美女と野獣」、今年の3月には同じくケミストリーの川畑要とのコラボでコブクロの「桜」、松本明子、元SPEEDの島袋寛子、元モーニング娘の高橋愛とのコラボで槇原敬之の「遠く遠く」、リトルグリーンモンスターのあみん、BENI、高橋愛とのコラボで宇多田ヒカルの「First love」、6月の放送では松本明子、高橋愛、AKBの峰岸みなみ、NMBの山本彩とのコラボで中島みゆきの「ファイト!」、川畑要とのコラボで山下達郎の「RIDE ON TIME」、AKBの柏木由紀とのコラボでいきものがかりの「じょいふる」と、組み合わせも歌のバリエーションも島津亜矢のコアなファンでも想像できないコラボで、到達度の高い音楽を聴かせてくれました。
NHKの「BS日本のうた」や「うたコン」とはまったくレベルのちがうコラボで、これこそ待ち望んでいた島津亜矢の質の高い音楽的冒険だと言えます。
もちろん歌唱力で言えば演歌歌手のレベルは相当高いとは思うのですが、わたしの偏見かも知れませんがどうしても演歌界でのランクやギルドなどが邪魔をして、「共演」というより「競演」になりやすく、そのさまざまな気配りがせっかくの共演をありきたりで予定調和的な表現で終わらせてしまいがちなのです。
それに比べて「UTAGE!」でのコラボにはそんな遠慮がなく、また島津亜矢が年齢やデビュー年からも先輩であることが多く、当たり前のパートナーとして受け入れられていることをとてもうれしく思います。コラボする島袋寛子やかれん、BENIなど、ポップス界では歌唱力が抜群に高いことで有名な歌手と対等どころか、メインボーカルをつとめる島津亜矢に、ポップスファンは度肝を抜かれたに違いありません。
また、島津亜矢自身もとても柔らかい心と確かな歌唱力でそれぞれのコラボでの音楽的到達度を楽しんでいる様子で、ああ、彼女が若い時にこんな風に音楽を楽しめる仲間がいればよかったのにと、つくづく思います。
ともあれ、こんな書き方はよくないかもしれませんが、島津亜矢が少し片足を離した演歌・歌謡曲のジャンルにはすでに若手の歌手たちがうごめいていて、もしかすると彼女は前のままの居場所には戻れないかもしれません。
しかしながら、その何十倍もの期待が彼女に注がれるポップスのジャンルでは、「大型の新人」で、彼女の歌唱は宇多田ヒカルとともにポップスの在り方も変える大きな可能性を秘めていると思います。
座長公演の演出家・六車俊治氏が言うように、「島津さんの歌声に感じる悲しさ、しかし、明るい力強さ、そして、そのまっすぐな心」こそが、演歌にしてもポップスにしてももっとも必要とされるものならば、「UTAGE!」での貴重な体験はいずれボーカリスト・島津亜矢を生みだすと信じています。
次回は、「ファイト!」について書こうと思います。

島津亜矢with 松本明子 高橋愛 峰岸みなみ 山本彩・「ファイト!」( UTAGE!)

大竹しのぶ「ファイト!」

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