島津亜矢2 4月30日、島津亜矢のコンサート

4月30日、島津亜矢のコンサートを観に新歌舞伎座に行きました。
わたしは今まで新歌舞伎座に行ったことはありません。歌舞伎は苦手だし、よく演歌歌手が来るけれども、ロックコンサートには行くことがあっても演歌歌手のコンサートに行くことはまったくなかったからです。
移転した上本町の駅に着くと、「島津亜矢」というのぼりが立っていて、エレベーターで6階まで上がると、すぐに目に入ったのが弁当の売り場でした。11時開演の意味は一部と2部の間に30分の休憩があり、その間に弁当を食べるという段取りになっていて、お客さんは慣れたもので、次々と弁当を買っていくのです。わたしもそれにならい、弁当を買って会場に入りました。27日から4日間6公演の最終公演でしたが、ほぼ満席でした。
まわりを見ると、わたしがいつも行くライブの客とはまったくちがっているのですが、よく考えてみるとこちらのお客さんの方がほぼわたしと同年代でなじんでいて、いつも行くライブではわたしのほうがいかに浮いているのかがよくわかりました。
実はこの日、豊能障害者労働センターの若いスタッフと行く予定だったのですが、体調が悪いということで一人で行ったのですが、彼がいたらまず金髪でTシャツとジージャンでひとり浮いていたことでしょう。

いよいよ開演時間となりました。いつものライブでは緞帳は開いたままでライトが入り開演するところ、これも久しく経験していないことですがどん帳が上がり、彼女が歌い始めました。実は島津亜矢のコンサートは今回が2回目で、2月だったか八尾の市民会館に行っているので、同じツアーなので内容が同じかと思ったのですが劇場版ということでかなり違っていました。
一曲歌った後、今回の震災のお見舞と公演中止にしようか話し合ったことなどを話しました。どの歌手もそれは同じだと思いますが、彼女も自分のできることは一生懸命歌うことだと信じて、この公演をすることにしたそうです。すると客席から「亜矢ちゃんの歌でみんなをはげまして」と声がかかりました。
八尾のコンサートでは意外になかったのですが、この日はおじさんたちの「亜矢ちゃん」という掛け声が客席のいたるところから響き渡る中、彼女は次々と歌を熱唱しました。

島津亜矢は藤山一郎をして「日本の演歌の財産」と言わしめ、あの演歌が大嫌いだった作曲家・高木東六までもが「すえおそろしい」と絶賛した天才歌手です。
15才で「はかまを抱いた渡り鳥」でデビューして以来、作詞家・星野哲郎の最後の弟子として大切に育てられてきました。わたしは寺山修司に教えられ、若いときから星野哲郎のことは好きでしたし、寺山修司が星野哲郎のことを「ちまたの詩人」として評価していたことを思い出します。
けれども、こんなことを書くと島津亜矢ファンに怒られそうですが、もし寺山修司が島津亜矢をプロデュースしたとしたら、きっとちがったアーティストとして世に出したかもしれません。
たしかに彼女がデビューした25年前にはすでにJポップスの市場が拡大し、演歌は若い人からは敬遠され、中高年の固定ファンに受け容れられなければ続けられない状況だったと思います。
かつてオダギリジョーが「Jポップスなんて、すきだとかなんだとかどうでもいいことを繰り返していて大嫌いなんです」と言ったのと裏返しに、演歌といえばあいも変わらずのテーマをあいも変わらずの方法で作られた歌をあいもかわらずの歌い方で歌わされている歌手たちが固定ファンの奪いあいをしているのが現状ではないでしょうか。たしかに、演歌歌手の方が切実な現実を感じているからでしょうか歌を丁寧に歌っていますが、歌そのものがマンネリとなっている現状があるように思うのです。
島津亜矢もまた、そのぬかるみでかくとうしているのが現実ではないでしょうか。星野哲郎がいたからこそ、そして長いスタンスで彼女を大切に育ててきた製作スタッフがいたからこそ彼女の25年があったこともたしかなことですし、それにもまして多くのファンがその25年を粘り強く支えつづけてきたから島津亜矢の今があるのでしょう。島津亜矢の歌を聴くと、そのことが胸に迫ってきます。星野哲郎の詩はペンで書かれただけでは完成していないのです。その詩は島津亜矢という稀有の声と、歌いだすとどこまでも美しくセクシーになる肉体を通りぬけてこそ、聴くものの心に届くことを、星野哲郎は知っていたに違いないのです。
巷の詩人として彼女の未来を見守りつづけた星野哲郎への尊敬と感謝の気持ちは、星野哲郎の数々の名曲を歌い続ける島津亜矢のステージの中心にあって、聴く者の胸にぐっとせまってきます。

2部の最初、ドレス姿で舞台にせりあがって登場すると、いつものようにジャンルを超えた楽曲を歌うのですが尋常ではない歌唱力で、これがあの泥臭いといわれる演歌歌手の歌声なのかと耳を疑ってしまいます。
いろいろな島津亜矢評の中で、嫌いというひとのコメントがとても面白くて、そのひとつに「演歌ではない、なにかオペラを聴いているみたい」というのがあって、言い当ててるなと感心しました。彼女の歌は、もしかすると演歌のジャンルをはるかに超えたものがあるのかも知れません。なにかもっと、世界に大地と海があるかぎり歌いつがれるワールドミュージックとして、世界のひとびとに届く歌…。
ただ声量があるとか、歌唱力があるとか、そんなことばでは言い尽くせないのです、きっと。ですから外国で、たとえばブルーズの本場やアフリカ大陸、ギリシャの海岸やポルトガルの酒場で歌えば、それもドレスでポップスではなく振袖で「演歌」を歌えば、絶賛されるとわたしは思います。もちろん、いま被災地で彼女が来るのをどれだけのひとが待っているかと思うと、胸が痛くなります。
また、余計なことばかりを書いて紙面が終わってしまいました。
この続きはまた次回に。

島津亜矢2 4月30日、島津亜矢のコンサート” に対して2件のコメントがあります。

  1. 村越博志 より:

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    友人T井氏から紹介されて、以前にもお便りした者です。唐さんから島津亜矢と興味深い内容が続いていて大変喜ばしいことです。私も寛ちゃんと状況劇場に熱狂していた時期があり、今もその想いは失われておりません。すでに私の血肉となっています。島津亜矢さんと聞いて「?」。すぐにYOU-TUBEで確認し、区内の図書館に5枚リクエスト。女王・美空ひばりは別格として、ちあきなおみと松山恵子、最近では平原綾香を聴いていますが、心を動かされる日本の女性歌手が少なく困り果てています。私のアンテナの方向や感度が悪いせいもあるのかもしれませんが。
    リクエストした5枚のCDはいずれもカバーアルバムですが、まずはこれを聴いてみてから、またご連絡したいと思っています。
    まずは、御礼方々・・・・・・・・・・・・・の、M越でした。

  2. tunehiko より:

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    M越さん、いつもはげまし、ありがとうございます。T氏とは三上寛がらみの友人でもあります。
    島津亜矢さんのファンはおそらく三上寛はアウトかなと思うので、ある意味M越さんがもし島津亜矢を少しでも気に入って下さったら、とてもうれしいです。ちなみにカバー曲はあまりにたくさんあるのですが、2004年バージョンの「船頭小唄」はお勧めです。わたしは実はDVDを注文してしまいました。

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