島津亜矢座長公演千秋楽2

前回にひきつづき、島津亜矢座長公演の報告です。
第二部がはじまると、ステージの真ん中でピンクのドレスの島津亜矢が白いドレスのダンサーたちに囲まれていました。客席のいたるところから「亜矢ちゃん」と掛け声がつづき、ステージの島津亜矢もダンサーも演奏者たちも、そしてお客さんたちも心が解き放たれたようでした。
舞台の構成は20日に見た時と同じで、「サ・セ・パリ」、「セ・シボン」、「パリの空の下」「パリ メドレー」3曲ではじまりました。
短いトークの後、「ニコラ」、「愛の讃歌」、「見果てぬ夢」、「I Will Always Love You」、「星に願いを」、「地上の星」までが前半といっていいでしょうか。何度かドレスを着替えて、島津亜矢は一曲一曲を見事な歌唱力で歌っていくのですが、酒井澄夫の演出はダンサーたちの踊りもからませ、まるでひとつのドラマのようで、リサイタルやコンサートとはまたちがう島津亜矢の可能性を広げてくれたように思いました。
そして後半、おりも政夫が登場し、島津亜矢とのトークの後、「見上げてごらん夜の星を」を歌って舞台を盛り上げた後、白い振袖に着替えた最初の曲が「雪が降る」だったことも印象に残りました。前半でシャンソンからミュージカル、ポップスから中島みゆきと、演歌歌手・島津亜矢のもうひとつの魅力を引き出した後に着物で登場すれば、「さあ、いよいよ演歌だ」と多くの人が思ったのではないでしょうか。
「雪が降る」を白い着物姿で歌わせるという意表をついた選曲に、宝塚の舞台で数え切れないショーをつくってきた酒井澄夫の演出の意図を感じました。そして1964年、アダモが歌ったシャンソンの名曲で、安井かずみの日本語訳が有名な「雪が降る」は、白い着物姿の島津亜矢によって可憐によみがえったのでした。ショーとしてはこのシーンがわたしは一番好きでした。
そこから後は島津亜矢のスタンダードといえる「流れて津軽」、「海ぶし」とつづきます。「海ぶし」は「亜矢ちゃん」と言わせるにふさわしく、体をふり、腕をふりながら「よいしょ、よいしょ」と掛け声を入れると、客席の「おじさん」、「おばさん」も合唱するなりゆきで、いつもの亜矢ちゃんにもどっています。
その後の「勘太郎月夜歌」、「名月赤城山」では、島津亜矢が単なる今の演歌歌手ではなく、かつては歌謡曲とよばれていた古い日本の流行り歌を歌い継ぐことのできる数少ない歌手の一人であることをあらためて証明してくれました。
最近では社会的風潮から歌われることが少なくなってきている「やくざもの」、「股旅もの」は義理と人情、権力と反逆など、もしかするとわたしたち日本人が戦後民主主義の中でいまだに決着をつけないまま来てしまったものを突きつけているといえます。
今回の2曲は戦前戦後のひとびとが焼け跡と荒野から立ち上がり、絶望と貧困の中から希望を拾い、夢を探しはじめた時代に風のように流れ、ひとびとをなぐさめた名曲たちで、島津亜矢にとって「船頭小唄」や「蘇州夜曲」、「長崎の鐘」や「哀愁列車」などとともに、これからも大切な歌であり続けることでしょう。
「名月赤城山」では、2回の芝居で身につけたより高い演劇性をもって、国定忠治の名せりふを花道に残して去っていく姿に涙が出ました。
そして、「さくら(独唱)」。この歌については以前にこのブログに書きましたが、もしかすると島津亜矢の春の歌の定番になっていくかも知れません。そういえば、この歌とかなり趣がちがいますが、「演歌桜」もまた復活してほしい歌ですよね。
そして、「感謝状~母へのメッセージ~」、「帰らんちゃよか」、「大器晩成」と熱唱が続いた後、久しぶりに「海鳴りの詩」が復活しました。この歌のイントロで島津亜矢が後ろに下がりながら手を広げるしぐさは、「帰らんちゃよか」の「今度みかんばいっぱいおくるけん」と歌う時のしぐさと似ていて、幾多の歌が生まれては消えていく銀河から星屑となった歌たちをいとおしくすくいあげる歌姫のように見えて、いつも胸が熱くなるのでした。

最後の「一本釣り」まで、とどまることのない美しい流れに時を忘れるこのショーは、宝塚色にあふれているように見えて、実はメドレーも1曲とすれば演歌とそれ以外が9曲ずつで、演歌歌手・島津亜矢の存在感もたっぷり味わえました。しかも、その選曲もとてもオーソドックスで、お客さんにもっとも喜んでもらえることを願って構成されたすばらしいものでした。
これからも毎年座長公演が実現するなら、日ごろのコンサートでは歌えないいろいろなジャンルの歌を歌わせてあげたいと思いました。
「いろいろな曲がありますけれど、突き詰めれば歌で表現することは人の心という点では共通していますし、演歌の枠だけにとらわれたくない、という想いがありました。」
「今回はあえて『演歌歌手・島津亜矢』だけではない世界に挑戦して、いろいろな歌を聴いていただきたいな、と思います。」(島津亜矢特別公演のパンフレットより)

終幕のあいさつでは、それまでの気丈な姿とはうってかわり、涙なみだ、また涙で、お客さん、共演者、関係スタッフへの感謝の言葉が涙でおぼれました。
「亜矢ちゃん、ありがとう」と、客席からの掛け声が胸にしみました。
アンコールの願いに応えてもう一度幕が上がると、「待ってました」の掛け声の洪水の中で、「俵星玄蕃」を歌いました。昨年の御園座でも歌ったそうですが、アンコールにこの歌を歌う心意気に驚き、この歌を歌える歌唱力に感動します。
それから、共演した赤井英和とのトークの後、「久しぶりですが」と歌いはじめた「王将」は以前にもましてメリハリのある歌になっていて、これもうれしいサプライズのひとつでした。この歌のあいだにすべての出演者が登場し、歌が終わり、何人かがコメントをし、終演となりましたが、いつものように島津亜矢ひとり膝を折り曲げ、マイクをその膝の上に置き、深々とお辞儀をすると、性懲りもなくまたワッと涙があふれました。
かつての河原乞食や門付、放浪芸へとさかのぼる大衆芸能のルーツを訪ねる一方、歌の未来に続くとびらを開けて旅立とうとする、これぞ島津亜矢が島津亜矢でありつづける美しい姿にほかなりません。
「玲瓏」~いつまでも美しく光り輝いていたい~ と…。

島津亜矢「名月赤城山」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です