演歌の地殻変動がはじまった今、島津亜矢の立ち位置は?

7月9日、16日はNHK-BSの「新BS日本のうた」で2週続いて島津亜矢二番勝負と銘打ち、島津亜矢をメインにした歌とバラエティーで構成した番組が放送されました。
9日は今や若手男性歌手の人気を二分する三山ひろし、山内恵介の共演によるコミカルな寸劇を交えたバラエティーの構成でした。
16日はなんといっても中村美律子との共演で、名曲「無法松の一生」をテーマにしたオリジナル寸劇「無法松物語~松五郎と吉岡夫人~」を熱演しました。
「金スマ」から「SONGS」、「音楽の日」とつづいたメインストリームでポップスを歌い、すそ野の広いターゲットに届けた歌唱はそれぞれ好評でしたが、その領域では「ネクストブレイカー」という位置づけは致し方なく、今後も複数のテレビ局での音楽番組に出演する機会が増えることを願わざるを得ません。
聞くところによるとポップスのカバーアルバム「SINGER4」が発売されるようですから、それにちなんで各放送局へのアプローチとドラマやCMとのタイアップにも期待したいと思います。以前、セキスイハイムのCMだったでしょうか、島津亜矢がカバーした「ニューヨークニューヨーク」が流れたことがありますが、ごくごく短く、島津亜矢の名前も出てこなくて、うれしい反面がっかりしたことがあります。
さらに、多忙を極めるスケジュールは承知の上で、たとえば「SINGER4」発売記念コンサートをツアーでなくても東京、大阪、名古屋、福岡などスポットで収録曲を中心に開き、ゲストに収録曲のソングライターを一人迎えてコラボをしたりとか、本人には申し訳ないですが勝手な妄想は広がるばかりです。

しばらくテレビではポップスが続きましたので、BS放送の二週連続の島津亜矢特集は演歌ファンだけでなく、島津亜矢自身もほっとするというか、生き生きとしていたように思います。
それはともかく、「新BS日本のうた」の「スペシャルステージ」は従来2人の歌手による共演が中心でしたが、最近はその日の別の出演者一人二人が登場し、歌も交えたバラエティーコーナーになることも多くなりました。
その理由の一つに、遅ればせながら演歌界の地殻変動があると思います。つい1、2年前までは島津亜矢よりも上の世代のベテランの歌い手さんを核にして、島津亜矢をはじめ中堅から若手の歌い手さんと組み合わせることで用をなしてきました。
しかしながらここ2、3年は三山ひろし、山内惠介、福田こうへい、市川由紀乃、丘みどり、椎名佐千子、杜このみなど若手の歌い手さんの台頭が目覚ましく、せっかく共演しているのですから若い歌い手さんたちのパフォーマンスも同時に見たいというお客さんの要望を組み入れたのだと思います。この流れはNHKの地上波番組「うたコン」と連携したもので、ベテラン歌手はBS朝日の五木ひろし「日本の名曲 人生、歌がある」、BS日テレの「歌謡プレミアム」、BSジャパンの徳光和夫「名曲にっぽん」などへの出演にシフトしている状況です。
この流れは今後もっと鮮明になっていくと思われる中、島津亜矢の立ち位置がとても気になるところです。
実をいうとわたしは少し前まで、若手の歌い手さんの勢いに島津亜矢が吹き飛ばされるのではないかと心配していました。
彼女の場合、北島三郎をリスペクトし、星野哲郎の薫陶を受けて演歌の王道を歩いてきました。この道にはヒット曲を持つベテラン歌手が何人も前を歩いていて、いくら人気商売とはいえその人たちを押しのけて演歌をけん引するだけの営業力とプロデュース力に劣る個人事務所であることや、すでにレコード会社にもその能力はなく、どう考えても歌がヒットするツールに乏しいことは否定できません。
そんな危惧を吹き飛ばしてくれたのが「金スマ」出演で、たったそれだけのことで島津亜矢を取り巻く状況が様変わりになり、営業不足をもろともせず演歌枠のヒットチャートで善戦しています。最初は「I Will…」他、ポップスのアルバム「SINGER」シリーズ3枚が再度売れ行きを伸ばし、その流れが「心」にも来たというところでしょう。
そんなわけで、いまのところ従来の演歌枠の中ではベテラン勢の出演が少なくなった分、島津亜矢が若手を引っ張る位置に立っているというところです。
今回の「新BS日本のうた」の2週にわたる島津亜矢特集は、こうした流れの中で実現したもので、長年島津亜矢を推してきたこの番組のスタッフの努力によるものと推察できます。
同じ企画の氷川きよし特集に次ぐもので、番組全体が島津亜矢を盛り立てる演出でした。9日に出演した美川憲一、16日に出演した中村美律子という先輩歌手も島津亜矢を盛り立ててくれました。とくに中村美律子はずっと以前にこの番組で「瞼の母」を共演し、大きな反響を呼びましたが、その時は「スペシャルステージ」での競演でした。
今回も寸劇「無法松物語~松五郎と吉岡夫人~」で見事な共演を見せてくれましたが、今回の場合はあくまでも島津亜矢を盛り立てることに専念されていて頭が下がりました。
くわしくは違うのかもしれませんが、中村美律子が島津亜矢に好意を持つようになったのは昨年の10月放送のこの番組の「演歌名人戦」がきっかけだったように思います。都はるみにしても中村美律子にしても、きっと以前はとっつきにくい存在だったのが、島津亜矢の歌唱力と歌を深く詠もうと努力する真摯な姿勢を目の当たりして、こだわりなく島津亜矢という歌手を認めてくれるようになったのではないでしょうか。
ともあれ2週続いたこの番組で島津亜矢がとても気持ちよく歌い、寸劇を楽しんでいたのが印象的でした。演歌・歌謡曲の歌唱はまた一段と丁寧で、横に上半身を揺らしながらのメリハリのある歌声に、最近ポップスで「まだまだ」と感じていたのが払しょくされました。島津亜矢はポップスを歌えば歌うほど、演歌の歌唱がどんどん進化していくように思います。
また以前は少し硬かった印象は完全になくなり、他の共演者にも遠慮せず、それでいて依然と変わらない心配りが感じられ、その立ち振る舞いを見てとてもうれしく思いました。きっと島津亜矢だけが変わったのではなく、周りの人たちも変わったのだと思います。

島津亜矢 スペシャルステージ 共演 山内惠介 三山ひろし/2017

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