福祉的就労の場の組織改革と、「社会的雇用」の場の制度化を

れいわ新選組の舩後員靖彦議員と木村英子議の議員活動中の介護保障について、参院議運委理事会は当面参議院が費用を負担することとし、政府に対し速やかな制度見直しを求めることになりました。維新の会の松井一郎氏や吉村氏をはじめ、ネットでの書き込みなどで障害者議員の介護保障は議員報酬で負担せよという主張がありますが、選挙で国民から請託をうけたミッションや約束を実行してもらうための議員報酬と経費を自分の介護保障などに使ってはいけないとわたしは思います。
一方木村英子議員は、当面の対応として参議院で費用負担することに「致し方ない」と理解は示しつつも、すべての障害者に就労や就学を権利として認め、「重度訪問介護」制度を見直し、就労や就学にも利用できるようにという趣旨の質問主意書を提出しました。
これを受けて厚生労働省は、7月9日に障害福祉課と障害者雇用対策課で、障害者雇用福祉連携強化プロジェクトチームを立ち上げ、障害を持つ人の通勤・就労中の支援のあり方をどうするかの検討を始め、重度訪問介護の見直しまでは手をつけていないが、今後の議論次第で、重度訪問介護以外の新たなサービスを作るのか、重度訪問介護の中で対応することになるのか、検討していくことになるとしています。

わたしは木村議員の提案は正論とは思うのですが、「重度訪問介護」を就労にも適用することでは解決できない、障害者の就労の権利にかかわる根本的な問題があると思います。
「重度訪問介護」は24時間介護を保障し、重度障害者の生活を支える重要な制度ではありますが、「訪問」という名前にあるように在宅サービスの制度には違いないからです。もともと高齢者の介護サービスとの関係で、時間に区切られた介護ではなく24時間の介護保障を要求して闘ってきた当事者の長い運動によって実現した制度でもあります。
ほんとうは、就労や就学もふくめた重度障害者の生活すべてに24時間の介護保障を求めるべきと思います。今回の論議で、障害者の就労に公的な介護保障がないということをはじめて知った方もおられると思います。
障害者の就労について国は「障害者雇用促進法」に基づき、法定雇用率(昨今国自体が水増ししていたと問題になりました。)によって障害者の雇用を義務付けし、雇用率を達成していない企業からは障害者雇用納付金(法定雇用率に不足する数一人につき月額50,000円)を徴収し、雇用率を越えている企業に障害者雇用調整金(一人に付き月額27000円)を支給しています。実際のところ、雇用率を達成している企業は50パーセントに満たない状態です。
障害者の就労をささえるための制度はそれ以外に介護保障や環境整備、仕事のサポートなどがあり、充実しているように見えます。しかしながら、雇用率を達成している企業が50パーセントに満たず、就労している数は50万人という現状からわかるように、就労から遠ざけられた在宅障害者が就労を希望すれば作業所などの福祉的就労の場しか用意されていません。言い換えれば国は、ほとんどの障害者を「働く権利」のあるひととは考えていないのです。
障害者権利条約の批准により、障害者の就労に差別をしてはいけないことになったと思うのですが、そもそもなんの運動もなしに介護を必要とする障害者が企業の就職試験を受けることはほとんどありません。わたしが豊能障害者労働センターに在職していた時、市役所への就労の交渉では、ごくあたりまえに自立通勤できて、職場で特別な介護を必要としないなど、いわゆる軽度の障害者の就労ですら運動の中で勝ちとらなければならなかったのですから、重度の障害者の一般就労は夢のまた夢でした。
もともと一般企業への就労を拒まれるわけですから、障害者の就労に公的な介護保障がないというのは、その必要がなかったと言うわけです。重度障害者といってもそれぞれ違うわけですが、それでも生活を支えるために24時間介護保障を必要とするひとが就労の場で介護を必要としないはずはなく、その意味では木村議員の提案を掘り下げれば、就労の場においても「重度訪問介護」と同等の介護保障を就労の権利として制度化することなのではないでしょうか。重度障害者を排除してきた企業と国ですから、そう簡単に制度化するとは思えないので、もしそれよりは安易な「重度訪問介護」を就労の場でも認めるとすれば、今度は職場で仕事をすることへのサポートはしてはいけないということにならないか心配です。
ともあれ、一人の障害者が生活に必要とする介護保障と就労の場で必要とする介護保障が、必要とする障害者の要求にこたえるという意味では違いはないのですから、就労の場で必要となる介護は身辺介護とともに仕事のサポートも入って当然です。
そして、就労の場の介護保障は企業が負担すべきと言う旧来の原則の下では、企業が介護を必要とする重度障害者を積極的に迎え入れるはずがありません。障害者の一般就労が極端に少ない理由はそこにあり、一般就労を増やすには企業と公的セクションが協力しあい、就労の場の介護保障と環境整備に大胆な公的な助成が必要なのではないでしょうか。
さて、船後議員と木村議員の問題提起から、一般企業での障害者の就労支援や介護保障の在り方を検討することになったことはすばらしいことで、今回ほど政治の力をダイレクトに感じたことはありません。願わくばこの制度改革によって障害者の雇用が進むことを期待してやみません。

わたしは今回の議論をさらに深め、一般就労の介護保障の制度化と合わせて、一般企業への就労が困難とされる障害者が通う作業所(就労継続支援事業B型の事業所・旧授産施設)などの「福祉的就労の場」の組織改革をして、月14000円の工賃から施設利用費を徴収され、生活の基盤を高齢の親など家族に頼らざるを得ない重度障害者の「働きたい」という願いに応える労働の場、一般企業に拒まれる障害者をありのままに受け入れながら、生活していける給料を共につくり出す労働の場、一般就労でもなく福祉的就労でもない新しい第三の雇用の場へと制度化できないものかと思います。
わたしが在職した豊能障害者労働センターは、1982年から「福祉か雇用か」という制度の壁も知らないまま福祉的就労の場の認定を受けず、ただがむしゃらに障害のあるひともないひとも共に働き、給料を分け合いながら活動を続けてきました。その活動は国際的にはILOの示す「保護雇用」と呼ばれたり、また箕面市が豊能障害者労働センターの活動を認知し、障害者の賃金補助を含む「障害者事業所」を制度化した「社会的雇用」のモデルと呼ばれるようになりました。
わたしは障害者の就労支援が福祉から雇用という一般就労をめざすだけでなく、福祉制度と雇用制度が協働して重度障害者の就労に大きな道を開く「社会的雇用」の制度化を強く望みます。

障害者に対する「社会的雇用」の課題と展望
東アジア諸国における保護雇用の取り組みをとおして
社会政策学会誌「社会政策」第7巻第1号(2015年07月25日)

障害者の働く権利を確立するための 社会支援雇用制度創設に向けての提言(案)
日本障害者協議会(社会支援雇用研究会) 2015年12月

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