豊能障害者労働センターのリサイクル事業は、箕面市民のコモンウェルス
ずいぶん前になりますが、豊能障害者労働センターの障害者スタッフとその親御さんなど、箕面の友人たちと滋賀県の余呉湖へ旅行に行ったことがあります。その時、わたしはすでに労働センターを退職し、妻の母親と同居していました。妻の母親は車いすを利用していて、そのうえ家のガレージで妻が始めたリサイクルショップが思いのほか繁盛し、母親もわたしたちも長い間旅行に行けないのを見かねて、箕面の友人たちが誘ってくれたのでした。
その時に、豊能障害者センターと一般企業の違いを教えてほしいと言われました。福祉作業所との違いもふくめて、福祉行政と労働行政の問題から話すとますますわからなくなりそうで、どう説明したらいいか迷いました。
豊能障害者センターは一般企業から排除された障害者が自ら経営を担いながら、障害者の就労を進めるためだけに事業をします。それをつきつめれば一般企業では人件費は経費・コストで、もちろん収益は人件費を含むコストを差し引いて計算されますが、豊能障害者労働センターでは障害者の人件費は最終的な利益で経営成果になるのです。
友人たちはそれぞれ一般企業で働いていて、中には経営陣に参加しているひともいたのですが、「あっ、そうか。やっとわかった」と言ってくれました。人件費をコストではなく、経営成果ととらえることは、豊能障害者労働センターを含む箕面の障害者事業所制度の根幹にかかわることなのです。
もともと、豊能障害者労働センターは1981年の国際障害者年を機に、障害者市民の奪われた人権を取り戻し、障害者が当たり前の市民として受け入れられる地域社会をめざす市民運動の中から誕生しました。そして、障害者の就労が困難な現実を変えていくために、市役所の福祉の窓口に応援してもらえないかと話をしに行きました。すると「素晴らしい取り組みだけど、それは福祉ではありません」という返事が返ってきました。「障害者の就労問題を考えるのは福祉ではなく労働行政で(当時は)、市町村行政ではないんです」。
授産施設(現在の障害者就労継続支援事業A型、B型)では、指導するされるの関係であっても一緒に仕事をしているのに、健全者職員は指導員として給料を得て、障害者はそのころで月1万円ほどの工賃(授産分配金)しか手に入らないのはおかしいのではないか。
障害者も健全者も指導するされる関係ではなく、給料を分けあってみんなで助け合って給料を分け合い暮らしていこうという考え方はまっとうだと思うのですが、その当時も今も、障害者を保護訓練指導する健全者の給料やその他の管理費にしか福祉助成金は出ないだけでなく、そのお金を障害者に配ると違反行為になります。
従来の福祉施設ではない豊能障害者労働センターは、当初は行政からの助成なしで活動をはじめました。脳性まひで車いすを利用している2人の障害者を含む5人で粉せっけんの配達から始め、たこ焼き屋から衣料品の店、お好み焼きと定食の店、ファンシーグッズの店、箕面市広報の点訳、そして一大事業となったリサイクル事業とカレンダーやTシャツの通信販売、国際NGOと自然災害の被災地と人たちとの提案型コラボ商品開発、畑事業などなど業態を拡大、変化させながら箕面市内を中心とした地域社会に認知され、現在では45人の障害者スタッフがどの事業においても働くだけでなく、事業経営に参加しています。
1990年の箕面市障害者事業団の設立を経て、ほかの障害者事業所も合わせて障害者の就労を進めるためだけに活動する障害者事業所制度が誕生し、現在に至っています。
前回の記事でも書きましたが障害福祉制度としては独自かつ画期的な制度で、国の労働政策が変わらない中で箕面市ひとりが背負うのが限界だというのも理解できないわけではありせん。しかしながら障害者事業所の活動は障害者が運営をにない、地域の生活の場のただ中で市民と直接つながることで生まれる助け合い経済は、生活支援の事業所や福祉的就労の場では実現しない社会的な波及効果を生んでいることもまた事実なのです。
その波及効果を、例えば豊能障害者労働センターのリサイクル事業について検証しようと思います。
リサイクル事業においては市民からのリサイクル商品の提供にはじまり、それらを仕分けし、値つけをし、それを各店舗に展示し、販売するプロセスのどの分野においても障害者スタッフがその役割を果たし、売り上げ金は4000万円に達しています。
その波及効果は
1. 市民からの提供品は日常で使用せずゴミとして放出されるものも多く、リサイクル事業はごみ収集の軽減とデッドストックを市民経済によみがえらせる二重の効果がある。
2. 市外からの提供品も数多く、それらは送料まで提供者が負担する良質の品物で、換金率の高い品物が多く、収益に寄与している。
3. 四か所のお店と移動販売と、今年は断念したが春の大バザーなど、市民がもたらした売り上げは4000万円にのぼる。市民がゴミになってしまう寸前の品物を提供し、それらの品物を市民が買うことで生み出した4000万円は、市民参加の事業で「無」から生み出されたものである。
4. お店や倉庫の家賃も総額500万円を越えていて、障害者の事業所への協力を惜しまない地主、家主に還元している。
5. 以上のことから、市民の貴重な税金が投じられた障害者事業所への助成金は、単なる障害者の賃金を保障するだけでなく、リサイクル事業への参加によって税金とはちがう市民の直接投資により地域経済の原資を生み出す。
リサイクル事業で動く大きなお金は、どこから生まれるのでしょう。ここには一般経済にはない、多様なかけがえのないひとびとが共に働き、共に生きる地域経済、顔の見える助け合い経済がもたらす果実が小さいながらも実を結んでいます。
箕面市行政は福祉施策として障害者の就労をすすめる障害者事業所への助成金を出していますが、直接障害者に給付される個人給付や生活支援の助成金と違い、障害者事業所への助成金はそれ自体が社会的投資の意味を持っています。事業所の経営主体でもある障害者はその助成金をそのまま受け取るのではなく、自らの事業資金として市民社会に投資します。その事業によって市民はデッドストックを地域経済に生かし、ごみを減らし、その商品を買うことで障害者の給料をつくりだすのです。その事業にかかわるコストは障害者の給料の他、共に働く健全者の給料までつくりだし、さらには家賃など地域経済に貢献します。そして、残ったお金はさらに市民事業に再投資されるのです。
こここから生まれるコストも再投資する事業資金も、行政から出る助成金から生まれた、いわば市民社会全体の富・財産、つまり「コモンウェルス」(共的な富)と言えるのではないでしょうか。
ここ数十年の間、地域社会の共有財産はことごとく私有化と公的化に奪われてきました。民間委託や民間の活力を生かすといわれる公共政策は私有化されてはいけないものまで、時にはいのちにかかわるものまで私有化され、一方では私的な富から共的な富まで、強力な国家が公的な富として奪ってきました。
わたしは、箕面市の障害者事業所制度が市民社会の共通の富を生み出し、その富を市民社会に生かす結果になっていることを、リサイクル事業が証明していると思います。
ただ、残念なのはその大切な富の一部を、障害者の労働施策を遅々として進めない国によって奪われていることです。もし、今自立生活している障害者が別の手段で生活費を得るとすれば、福祉的就労では生活できず、一般企業はやとわないのですから生活保護を受けるしかありません。その金額はかなりのものだと思います。また、家主もまた家賃収入による所得税を国に納めますし、そのうえ、豊能障害者労働センター自身が所得税を収めているのです。
わたしは、箕面市はこの制度を見直す前に、箕面市の長年の努力を何もしない国が吸い上げることに抗議し、「障害者就労特区」を要求すべきではないかと切実に思います。