心に深く、大地に広く、歌は流れる・・・。 小室等4

伝えてください あの日のことを
語ってください 何が起きたかを

2005年6月19日、大阪・中の島、中央公会堂で開かれた「ゆめ風であいましょう~震災から10年感謝と希望の集い」は、ゆめ風基金応援歌のひとつ「伝えてください」からその特別な時間がはじまりました。ほんとうにこの日のために、ゆめ風基金の3人のスタッフは走り回り、そして大阪を中心とした障害者団体から当日100人のボランティアスタッフと1000人のお客さんが会場をうめつくしたのでした。
10年間呼びかけ人代表としてゆめ風基金をいっしょうけんめい支えてくださった永六輔さん、これからの10年呼びかけ人代表を引き受けてくださった小室等さんをはじめ、出演者もお客さんも、会場にいたすべてのひとが、特別な時間を共有したのでした。

この日、会場の大阪中之島公会堂に入ったぼくは、控室と舞台裏でこのイベントの進行約を担当していました。
震災後10年で、永六輔、小室等、紙ふうせんにくわえて、趙博、おーまきちまき&のむらあき、加納浩美、岡本光彰&ザ・ひょうたんなまズと、ゆめ風基金を支えてきたミュージシャンがこの日のためにかけつけてくださいました。
出演者の数も多く、また「障害者市民防災アイデアコンテスト」の応募者のプレゼンテーションと審査発表、この日に合わせて完成した「ゆめ風基金応援歌」の発表とお客さんも一緒になった合唱、これを予定時間内におさめるのはとても無理に思えました。
そこでぼくはゆめ風基金の事務局長の橘高さんに同行して、前日に大阪のホテルに入った小室さんに相談しに行きました。
小室さんはあっさりと、「ぼくの出番の時間をうんと短くしよう」と言いました。小室さんの持ち時間を削るなんて考えもしなかったぼくは、その提案に感謝しました。
当日は準備段階で音響のトラブルがつづき、リハーサルが大幅に遅れました。午後の本番に向けて時間がほとんどなくなってしまいました。
趙博さんが出演者同士の時間調整をしてくれて、小室さんも「ぼくは音合わせだけでいいよ」と言ってくれました。それでなんとか本番に間に合いました。
永さんが会場に来られ、最後の打ち合わせをしました。ぼくは「これだけの内容を時間内に収めるのはむずかしいです」と言うと、永さんは時間短縮のために「ここはこうしよう」とプログラムの進行を整理してくれました。
そして、永さんもまた「ぼくの持ち時間を大幅に短くします」と言いました。
本番が始まりプログラムが進行するにつれて、スピーディーに行きすぎて時間があまりそうな気配となりました。ぼくは小室さんにそのことを告げると、「それじゃあ、ぼくの方はこのままでいいから、永さんの持ち時間を元にもどそう」と言いました。
それを受けて今度は永さんに小室さんの提案を言おうとするとその前に「それじゃあ、ぼくの方はこのままでいいから、小室さんの持ち時間を元にもどそう」と言われてしまったのでした。
ぼくは困惑しましたが、もとより現場合わせで細かく時間を見ながらイベントを成功させる天才の永さんと小室さんのことだから、もうふたりにまかせる以外に仕方がありませんでした。
そして、とうとうプログラムの終演となり、やはり時間が余ってしまいました。いつもの永さん、小室さんなら、たしかにこんなことはなかったと思います。
小室さんは呼びかけ人代表としてこの10年、先頭に立って来られた永さんを思いはかり、永さんはその思いをひきつぐにあたいする小室さんを思うばかりに時間をゆずりあった結果、こうなってしまったのでした。
この時だけではありません。毎年何回かのイベントに出演された小室さんといい、永さんといい、このお二人に接していると、出演者としてではなくぼくたちと同じスタッフの立場で共に考えてくれることにいつも感激しています。舞台裏を担当することが多かったぼくは本番中、何回涙をかくしたかわかりません。
そのことがよく伝わっているからだと思うのです。ゆめ風基金のイベントに来るお客さんは、とてもやさしい。ぼくたちスタッフが行き届かず、普通なら怒られるような場面でも、かえって「ごくろうさま」と声をかけて下さるのです。
こうして、このイベントは終了しました。ゆめ風基金を支えてきてくれたたくさんの人びとに感謝し、明日からの活動を自らに約束した一日となりました。
後日、ゆめ風基金のスタッフに聞くと、終演後打ち上げに向かうタクシーの中で、ふたりともかなりの落ち込みようで、「間延びしてしまった、今日は失敗だった」と言っておられたそうです。この話を聞いて、ぼくはさらに感激してしまいました。呼びかけ人であるからとは言っても、ここまで出演者が主催者の立場で「失敗だった」と落ち込むお二人に、ただただ頭が下がる思いです。そこまでの思いを持ってステージを一緒につくってくださるお二人の気持ちが、お客さんに伝わらないないはずがありません。
ゆめ風基金のイベントのお客さんは日常でお金を送金しながら、一年に一度か二度、事務局が案内するイベントに足を運び、お二人を始めとする出演者、スタッフ、お客さん同士がかもしだすやさしい風を心に吹きこみ、それをだきしめることで、ゆめ風基金とのつながりを確認されているのだと思います。

心に深く、大地に広く、歌は流れる・・・。

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