金森幸介さんと友部正人さんとCafe気遊さん

夕陽を追いかけて奴の歌が聞こえる もう引き返さない
12月14日、能勢のCafe気遊で金森幸介&友部正人のライブがありました。こんな夢のようなライブが実現できるのはおそらく気遊さんなればこそで、実際、どちらも長い音楽活動で二人だけの共演は初めてということでした。
わたしは一大ムーブメントだった関西を中心としたフォークどころか、なにしろ流行りの歌と言えばテレビやパチンコ屋から流れてくる森進一など歌謡曲しか聴いたことがありませんでした。かろうじて友だちの包囲網に囲まれて強制的にファンになってしまったビートルズと、朝のテレビ番組で知ったジャックスぐらいしか聴くことがなかったのでした。後に個人的にも親しくさせていただいた小室等さんも、山田太一のドラマなどで知ったぐらいでした。
そんなわたしがその朝の番組で中津川フォークジャンボリーに飛び入り出演した三上寛を見て一瞬にしてファンになり、先代の豊中市民会館のこけら落としのコンサートに出演すると聞き、人生ではじめてのライブに参加したのでした。
三上寛の追っかけをしていた頃、いろんなフォークシンガーが共演していたのですが、その中でわたしの心に届いたのが友部正人さんでした。今は亡きピンクさんが何周年かのコンサートを庄内のホールで開いた時、ゲストで友部さんが出演したことや、フォークブームのさ中、いつもややぎこちないトークと、繊細な心の中を分け入り時代の万華鏡を潜り抜ける景色を見せてくれる歌と、そして歌い終わるとまた静かに去っていく感じを思い出します。
金森幸介さんは2019年にやはり気遊さんで開かれた渋谷毅さんとのジョイントで初めて知りました。先述しましたように、音楽だけでなくあらゆる事も物も人も知らない偏向で内向的なわたしは、恥ずかしながら同じ時代を生きながら金森幸介さんの歌も名前も全く知らなかったのでした。
それを許してもらった上で、彼の歌も歌う姿もなにもかもにびっくりし、感動という手垢のついた言葉とはまったく無縁なまま心がふるえ涙が止まらなくなりました。
とびっきりの詩人がつぶやくように歌う歌が、こんなに心の迷路を潜り抜け、闇の中をゆっくりと流れる時、彼の歌は救済の音楽なのだと思いました。実際、このひとはいったい誰に歌っているのか、誰のために歌っているのかますますわからないのです。
それから何度も気遊さんで彼のライブが開かれ、わたしはそのたびに参加しました。その間にはコロナがあり、自分がむやみに歩いてはいけない年寄りであることを痛感し、あまり能勢以外に外出することがなくなりました。音楽を聴くのも遠くて豊中、亀岡までで、近場のライブで楽しむことしか選択肢がなくなくってしまいました。
その意味で、都会ではなく人があまり歩いてもいない里山能勢の気遊さんで、金森さん、友部さん、渋谷毅さん、木村充揮さん、ヤスムロコウイチさんたちの歌を聴くことができるのはほんとうに幸運なことで、能勢に引っ越して来てよかったとつくづく思います。
ぼくは君を探しに来たんだ ぼくは海を離れ山を越えてやって来た
冬空の隙間を縫うように金森幸介さんのギターの弦が静かに震え、やがて決められた大きさになって歌が聴こえる…、そんな風にライブは始まりました。
ビュービュー 風が吹いて
ガタガタ 窓が鳴って
天気のはなしじゃないよ
誰かの心のはなし (金森幸介「心のはなし」)
以前にもたしか書きました。
「金森幸介はくせになる」。たとえば風の破片、森の秘密、川のつぶやき、海の沈黙、遠い記憶、記述されなかった歴史、過ぎ去ったものへの愛と圧倒的な自己肯定感、だいじょうぶと励ましてくれる静かな勇気…。金森幸介の歌はそんなふうにその場に立ち会った数十人の心と同時代の人生にいつのまにか溶け込んでいくのでした。
休憩をはさんで、友部正人さんが初めに新しい歌を歌いました。
立ち止まるために街はある
でもだれも立ち止まれないから街だけが残る
間違っているかもしれませんが、たしかこんな歌詞から始まりました。友部正人さんのびっくりするところはいつも新しい歌を刷り上がったばかりの新聞記事のように歌ってくれることです。長い経歴を残しながらいつまでも歌い続けるその歌はまだ終わってはいない。未完であること、歳を重ねるほど輝きが増す青春という「魂の叙事詩」…。
街は勝手に生きている
生きていたひとを置き去りにして
それならぼくは森にかえろう
森からもう一度でなおそう(友部正人「銀座線を探して」)
曲想も歌い方も、なにもかも真逆に思える金森幸介さんと友部正人さんですが、二人とも稀有の詩人であることは間違いのないところで、彼らの言葉と歌に立ち会うことができたひとりひとりのひとたちに届けるささやかなギフト、取り返せるはずもない青春、語られることがなかった愛の物語、置き忘れてしまった瑞々しい心のふるえ…。
いいニュースよりも悪いニュースの方が多かった今年、そしてこれからの世の中の行方もわたしの人生の行方も危なくなった今年の終わりに、それでも生きていてよかった、来年一年をまた楽しく生きなおそうと思えたライブでした。
こんな素敵な時間を用意してくれたCafe気遊の井上さんと、いつもながらのナチュラルでピュアな音響でライブを届けてくれた村尾さんに感謝です。


