音楽は時代を越えて人々の願いを伝えてきたのですね。

片山映子さんと井上なおみさんのジョイントコンサート・音楽の花束Vol.5
11月16日、亀岡市の「かめおか桂ホール」で開かれた片山映子さんのソプラノ歌唱と井上なおみさんのピアノ演奏のジョイントコンサートに行きました。
ソプラノ声楽家の片山映子さんとの出会いは、2016年の「ピースマーケット・のせ」の時、ご近所の田尻いつみさんのピアノと娘さんの綾乃さんのヴァイオリンの3人ユニットで出演してくださったのが縁でした。それから何度も彼女が出演するコンサートに参加しました。また、自治会館で月に一度、田尻さん母娘と3人で「歌の会」を開いてくださったり、私の妻が主催した能勢のCafe「気遊」でのコンサートも懐かしい思い出になりました。振り返ってみると、10年のお付き合いになっていて、時のたつのは早いものとつくづく思います。田尻綾乃さんはプロのヴァイオリニストとして活躍されていて、町議会議員となった難波希美子もふくめて、「ピースマーケット・のせ」はあの時、ひとつの役割を果たしたのだと改めて思います。
もっとも今の世間の風潮では、里山能勢に1000人を超える人が集まって地域を耕し、世界の平和を願うイベントはできないかもしれません。とても悲しい事ですが、世界も日本も多様で平和で心豊かな社会は「お花畑」と言われ、分断と格差、偏見と忖度、妬みと自己責任で他者を傷つけ、傷つけられることさえ当たり前のような社会になってしまったかのように言われます。
しかしながら、あきらめずにその現実もまた小さな試みを重ねて変えていける希望もまた音楽は育て、教えてくれているように感じます。
片岡映子さんの硬質な声は残響でひろがるというよりは聴く者の胸により遠くくっきりと届き、歌詞がとても聴き取りやすいのが特徴です。小さな会場でも大きな会場でもその声にはとても張りがあり、またご自身の感情移入よりも歌詞に隠れている空気感や情景の色彩を呼び起こすような歌唱がかえって聴く者の心をふるわせるのでした。その分、ごまかしの効かない歌唱なので、のどのメンテナンスにはかなり気をつかわれているように思います。
今回のコンサートはピアノ演奏の井上なおみさんとのジョイントコンサートで、片山映子さんのピアノ伴奏も井上ひろみさんがされていました。井上なおみさんのピアノソロは派手な演奏ではありませんでしたが、一音一音に心を込めた演奏の中に彼女の音楽への厳しい情熱を隠しているようで、それが、ショパン、バッハ、リスト、ラフマニノフという選曲にも表れていて、偉大な演奏家でもあった彼らの秘められた旅路を追いかけているような切迫感がありました。片山映子さんの歌唱の伴奏は少しまた趣がちがい、歌唱の後をついていくようなひかえめなピアノでした。
今回が5回目というこのユニットは片山映子さんの少し硬質で伸びのある歌唱と井上なおみさんの寄り添うようなピアノが重なり、聴くものをやさしく包み込み、コンサートのタイトル通り「音楽の花束」を聴く者ひとりひとりに届けてくれました。
26歳で非業の死を遂げた金子みすゞの瑞々しい言葉がいつもわたしたちを勇気づけてくれた
演奏された曲はどれも素晴らしかったのですが、個人的には思い出のある金子みすゞの詩を2つの作曲で聴き比べをするコーナーが印象に残りました。というのも、わたしには金子みすゞには特別の思いがあるからでした。
童謡詩人として約500編の詩を残した金子みすゞは、没後半世紀はほぼ忘却されていましたが1980年代以降に脚光を浴びました。代表作に「私と小鳥と鈴と」、「ほしとたんぽぽ」、「大漁」などがあります。
豊能障害者労働センターは1998年、障害のある人もない人もかけがえのない個性を持ちながらともに生きる社会を願い、「プラスWe」Tシャツをつくりました。それ以後毎年、新しいメッセージをTシャツに託してきたのですが、2000年ぐらいだったと思います。大阪の紀伊国屋書店で「みんなちがってみんないい」という大きな言葉とともに金子みすゞの特設展示をしているのを見て、驚きと共に「これだ」と思いました。それまで、障害者の問題を人間の問題として広く伝えるにはどうすればいいのか考え続けていたわたしにとってその言葉はまさに「天啓」でした。
すぐさまセンターのみんなにこの言葉をコンセプトにTシャツを作ろうと提案しました。その頃、何度目かの金子みすゞブームが訪れた時でしたが、今ほど広く知られていませんでした。わたしたちは応援してくれていた学校の先生にこの言葉を英語にしてもらい、Tシャツのメッセージとしたのでした。今では多様な社会の実現を目指す言葉として広く知られるようになりました。また、「ほしとたんぽぽ」の「見えぬものでもあるんだよ。」も広く知られています。彼女の生涯を思うとほんとうに切なく悲しくなりますが、彼女の詩はひらがな言葉で心の中に深く届き、いつまでも新しい発見と温かい想いが残ります。
言葉と歌とピアノとわたしたちとホール…、秋の音楽の花束はいとおしい心たち
今回歌われた三つの歌は「私と小鳥と鈴と」、「このみち」、「ほしとたんぽぽ」でした。はじめに詩を詠み、それから二人の作曲家による二つの曲を歌いました。金子みすゞの瑞々しい詩がゆっくりしたテンポや軽やかなテンポ、言葉の底に沈んでいくようなメロディと草原を駆けていくような明るいメロディで歌われ、詩も歌も二重にも三重にも楽しめた面白い企画でした。
ほかにも「愛の賛歌」をピアフの原詩で歌い、サンサースのオペラ「サムソンとデレラ」の中のアリア「あなたの声に心は開く」では、声楽家としてのすごみが垣間見られました。
わたしは最後に歌われた「わたしの好きな月」と「落葉松」に感動しました。
また、井上なおみさんのピアノソロも多彩な選曲で。ショパンの「革命」やラフマニノフの「エレジー」、そしてモーツアルトのトルコ行進曲も楽しめました。
ここに書いた感想はクラシックのことを全く知らないわたしがそのまま感じたので、クラシックを聴きなれている方からはお叱りを受けるかもしれませんが、そこはご容赦ください。
最後に演奏会場となった亀岡市の「かめおか桂ホール」は個人の方が運営されているホールで、森林の再生を願って国産の木にこだわった木造のホールでした。
公共施設とちがい、運営される方の並々ならぬ情熱…、地域の文化拠点として一人でも多くの人に音楽のすばらしさを伝えたいという願いがこめられた素敵なホールでした。
ウィーンの森の木から造り出されたベーゼンドルファ社製のピアノがホールの空間をふところ深く包み込み、片山映子さんと井上なおみさんの音楽をより深めてくれました。


