島津亜矢の紅白出場と「UTAGE!」ファミリーの仲間入り

今年も島津亜矢の紅白出場が決まりました。島津亜矢さん、おめでとうございます。
わたしはそれほど紅白に思い入れはないのですが、テレビが大好きなわたしは年末恒例の番組としてそれなりに紅白を楽しんでいました。巷に流れる歌に世情や自分の人生を重ね合わせるのが好きで、まさしく歌は世につれ世は歌につれのごとく、年の終わりに紅白歌合戦を観て、今年はどんな歌と歌手が流行ったのかを再確認するという感じでした。
たとえば最近では「SEKAI NO OWARI」や「いきものがかり」など、紅白にも出演することでより広く知られるようになりました。ちなみに今年の初出場では「あいみょん」と「Suchmos」に注目しています。こんな音楽が若い人たちに支持され、受け入れられることは年々息苦しく感じる世の中だけど、そんなに捨てたものでもないとも思うのです。

さて、島津亜矢についてはここ最近の3年以前は、「今年こそは」と願いながら、発表された出演者リストに彼女の名前がなく、がっかりする年が続きました。今年は結果的に実力派の演歌歌手が2人も不出場になりましたが、その中で島津亜矢の出場を決めてくれた紅白のスタッフに感謝です。
わたし自身は先に書いたように紅白に特別の想いは持っていませんが、歌手・島津亜矢にとってはやはり特別の番組であることに間違いはなく、営業的にもまだその影響力はあるようですし、心優しく律義な彼女にとってなによりもファンの方が紅白出場を喜んでくれることが一番の喜びであるのでしょう。
演歌一筋の伸び盛りの歌手2人の不出場と島津亜矢の出場がどんな意味を持っているのかわかるはずもないのですが、最近のJポップの歌唱力がより多くの人々に認知され、幅広いファンを獲得してきたことが評価されたのかも知れません。その意味でも紅白のスタツフが島津亜矢に依頼する歌が彼女のオリジナルなのか、それとも昭和の歌を残すために美空ひばりの「乱れ髪」、「愛燦燦」を天童よしみと住み分けするのか、よりサプライズとして北島三郎の「風雪ながれ旅」か、まさかJポップの現役の歌手のカバーはないでしょうから洋楽をもう一度依頼するのか、注目されるところです。ある意味、その選曲が今年の島津亜矢の紅白の立ち位置を教えてくれるかも知れません。
紅白出場は本人にとってファンにとってもうれしいことには違いありませんが、一方で彼女の歌手人生においてもっとも輝かしい足跡を残すことになるこれからの10年、紅白に囚われず彼女の想いのままに歌いつづけてほしいと願うばかりです。

さて、随分時間がたってしまいましたが、TBSの音楽バラエティー番組「UTAGE!」に出演した島津亜矢について書いておこうと思います。
今回はまず最初に島津亜矢、川畑要、三浦祐太朗がハーモニーを担当し、峰岸みなみ、TEE、二階堂高嗣のボイスパーカッションを担当し、スペシャルゲストの高橋洋子が「残酷な天使のテーゼ」をアカペラで歌いました。島津亜矢はアルバム「SINGER4」で高橋洋子の「魂のルフラン」をカバーし、卓越した歌唱力を発揮しています。というのも、彼女「瞼の母」や「大利根無情」など、宿命に抗いながらも破滅していく青年のはかない心情を歌える数少ない歌手で、ジャンルはちがっても演劇的で、滅びの美学がひとの心を打つこれらのアニメソングの世界は彼女のもっとも得意とするところです。
3人のハーモニーは川畑要が証言していたようにキーが高く、島津亜矢がリードする形でボーカルを際立たせてその役割を見事に果たしました。このようなセッションに島津亜矢はほんとうに解放され、水を得た魚のように自由になれるのでしょう、楽しくてしかたがない様子でした。演歌ではなかなかハーモニーのある歌唱がなく、彼女の実力がわかりにくいのですが、Jポップのジャンルではリードボーカルはもちろんのこと、むしろ彼女の「ベース」の役割というか、音楽をつくる側での彼女のすごさを感じます。
その次に歌ったのは、川畑要とのコラボでオフコース時代の小田和正の「言葉にできない」でした。「言葉にできない」は松任谷由美とならんで1980年代のニューミュージックをけん引した小田和正の、シンブルで切ない高音の歌唱が心に残る数多くの楽曲のひとつです。
この歌は小田和正と同じような高音がきれいで歌唱力のあるひとたちのカバー曲の定番のようになっていますが、川畑要と島津亜矢の場合は少し趣がちがっていました。
前にも書きましたが川畑要はR&B、ソウルミュージックを得意とするボーカリストで、島津亜矢はソウルミュージックの資質があり、この2人のコラボは島津亜矢の潜在能力を引き出すことに成功しています。
川畑要をリードボーカルにして島津亜矢が演歌でつちかってきたうなりやこぶしがシャウトに変わり、横揺れのリズム感とハーモニーは川畑要のリードボーカルを引き立たせました。ともあれ、川畑要と島津亜矢の「言葉にできない」はニューミュージックではなく、まさしくR&Bになっていたと思います。
すっかりこの番組の定番になりつつある川畑要と島津亜矢のコラボですが、最初は演歌歌手とのコラボということで川畑要も戸惑ったかもしれませんが、彼女のボーカリストとしての才能を認め、この頃は楽しみにしている節もあります。
彼に限らず、この番組の常連の島袋寛子、BENIや、アイドルの中で歌唱力が評価されている山本彩、高橋愛など、女性ボーカリストたちが島津亜矢の歌唱を熱心に聴いている様子から、おそらく司会の中居正広の後押しがあって出演することになったと思われる島津亜矢をボーカリストとして受け入れてくれたのではないでしょうか。その点でも、狭い演歌の世界のギルドにはばまれていた島津亜矢にとって自由に自分を表現できる場として、とても貴重な番組だと思います。
さて、その後に歌った「White Love」は1997年のSPEED最大のヒット曲で、オリジナル歌手の元SPEEDの島袋寛子と島津亜矢、山本彩と柏木由紀の4人が当時のSPEEDのダンスもコピーしながらの異色のコラボとなりました。異色にしたのは何といっても島津亜矢の島袋寛子とのツインボーカルと振り袖姿でのダンスでした。
1990年代、日本の音楽シーンを根底から変えてしまった安室奈美恵・小室哲哉コンビと双璧をなしていたSPEED・伊秩弘将のコンビは、相乗効果でダンスミュージックによるJポップ旋風を巻き起こしました。SPEEDは1996年のメジャーデビューからあっという間に頂上に上り詰めましたが、その中でも島袋寛子はデビュー当時小学生で、大人を凌ぐその歌唱力は圧倒的なものでした。
わたしはダンスミュージックが苦手で、小室哲哉や伊秩弘将が席巻する音楽シーンにはとうとうなじめないままになってしまいましたが、その傾向は一過性のものではなく、確実に日本の音楽を変え、いまに続いていると思います。
ともあれ、島津亜矢の「White Love」は思ったほどの違和感がなかったことも事実ですが、ただ、ソウルミュージックのような横揺れではなく、縦のりのダンスミュージックはその後にBENIと歌った安室奈美恵の「Don’t wana Cry」と同じく、さすがに島津亜矢には無理があると思いました。
それは演歌歌手としての島津亜矢ではなく、ブルースからロックという流れの音楽よりも、ブルースからジャズ、あるいはブルースからR&Bの流れの方に島津亜矢の才能があり、その流れの底流に島津亜矢による「来るべき演歌」も流れているように感じるからです。
しかしながら、出演者たちが視聴者のリクエストに応えてまさかと思う企画にチャレンジするのがこの番組のコンセプトのひとつで、今までの放送ではまだ「ポップス歌手をしのぐ驚異の歌唱力を持った演歌歌手・島津亜矢」という立ち位置でしたが、今回はじめて無茶ぶりともいえる企画にチャレンジさせてもらうことでこの番組のファミリーとして受け入れられたということだと思います。
この番組はしっかりと出来上がったパフォーマンスではなく、常連の舞祭組のように、他の番組ではありえない最悪とも言えるパフォーマンスをも放送することで物議をかもすこともあります。「UTAGE!」では番組のホスト役という役割もあり、彼らが稚拙な中にも努力する姿がこの番組のウリにもなっています。
ある意味、彼らの存在が出演歌手のプライドを捨てさせ、普通ならしないチャレンジをすることになるとも言えます。その中から、ありえなかった冒険やコラボから素晴らしいパフォーマンスが生まれることがあり、島津亜矢の場合はその中でも決して外さない信頼感が番組スタッフや中居正広にあるのでしょう。
ちなみに、島津亜矢以外でとてもよかったのはTEEの「酒と泪と男と女」です。この歌は島津亜矢もアルバムに収録していることもあって、とても熱心にTEEの歌を聴いていました。この番組でよく披露するボイスパーカッションといい、癖になる声とそんなに熱唱しないのに聴く者の心に深く届くブルース・ホップシンガーと思いました。

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