歌の旅人・友部正人と「祝!春一番コンサート」

5月5日、今年も箕面のKさんと毎年恒例の「祝!春一番コンサート」に行きました。
車いすを利用しているKさんは車の運転ができるので、箕面駅で待ち合わせをして、会場の服部緑地野外音楽堂に向かいました。彼の車は上に降りたたんだ車いすを直せるようになっていて、近くの駐車場に車を止め、車いすを出す時と運転席から車いすに乗り移る時に少しだけ手助けする程度で、車いすもアシスト付きで自分で移動するため、ほとんど介護を必要としません。わたしにとっては車で連れて行ってくれる友人というわけでとてもありがたいのです。
毎年一人で行っていたこのコンサートですが、彼と行き始めて今年で4回目になります。
といっても11時から7時ぐらいまでずっとというのはさすがにきつく、いままでは昼から参加するようにしていました。
今年は彼の体調がよく、昼の弁当とお茶を箕面のスーパーで買っておいて最初から参加することができました。3日間連続で開催されるコンサートですが、3日つづけてみる時間もお金もないため、おのずと3日間にわたる多数の出演者の内、お目当てのミュージシャンが出演する日に行くことになります。
少し前は友部正人、木村充揮、山下洋輔、坂田明などがどの日に出演するか見て、当然みんな一緒に出ているわけがなく、悩みながら行く日を決めていました。
ところが、「祝!春一番コンサート」のもうひとつの楽しみは、それほど音楽に詳しくないいわたしにとって、テレビなどの音楽番組では出会えない、「自分たちがやりたい音楽と自分たちが聴きたい音楽」をつなぐグラスルーツな場所で、素晴らしいミュージシャンと出会えることです。
そこで出会った曾我部恵一やヤスムロコウイチは、どの日に行くか悩むぜいたくをまた一段とふやしてくれました。そして今年、わたしにとってのきら星に吉元優作が加わりました。
今年は音楽を純粋に楽しむだけでなく、もう開催まで10日もない「ピースマーケット・のせ」のラストを飾る「友部正人コンサート」のための宣伝と、友部さんご本人への挨拶も兼ねて参加したので、特に会場の11時までに行き、チラシをまけたらと思っていました。ところが会場に着くと、友人の増田俊道さんが入場を待って並んでいるひとたちにチラシを撒いてくれているではありませんか。さらに、豊中の山口光枝さんがそれよりも早くから撒いてくれていて、とても勇気をいただきました。わたしも参加し、3人でほぼ入場するひとにチラシを撒くことができました。増田さん、山口さん、本当に感謝です。

11時に「ぐぶつ」から始まり、豊田勇造、光玄、良元優作、友部正人、ヤスムロコウイチ、三宅伸治とつづき、最後の小川美潮まで、たっぷり7時までシャワーを浴びるように音楽が心と身体に溶け込んでいきました。
なかでも、やはり友部正人!
友部さんは2時くらいの一番暑い時に登場しました。
歓声が上がり、ステージ前の広場にファンが座り込みました。
圧倒的な存在感は、プロデューサーの福岡風太さんが呼び込みで話したように、1971年の春一番当時からのミュージシャンが亡くなっていく一方、年を重ねるごとに次々と新しいひとたちが参加してきたこのコンサートが、一般の音楽シーンにはない「あこがれ」でありつつづけていることと重なるのです。
このコンサートに出演することが何かになるわけではないのに、ハードボイルドでありながら底抜けに優しく、音楽だけでないそのひとのすべてを受け入れ、出演者、スタッフ、観客がともにつくりあげる「市民の市民による市民のための音楽祭」に出演することがもうひとつのステイタスになっているこのコンサートそのものの存在感を、友部さんが体現しているからなのだと思いました。
あまり声の調子がよくないようでしたが、そんなことをまったく問題にしない観客の前で歌いはじめた友部さんの立ち姿は、ほんとうに春一番にふさわしいものでした。
そして、うれしいことに演奏の間に2回も能勢のコンサートのことを話してくださり、彼にとってはめずらしいことで、感謝感謝でした。
友部さんの歌を聴きながら、わたしは歌が誕生する泉へといざなわれていくように感じました。そこにはおよそ人間が歌を発明して以来満天の星屑の何倍ものおびただしい歌たちが眠っているのでした。友部さんはその泉から歌と言葉の破片をいとおしく掬い上げ、今また歌を必要とする心に届けてくれるのでした。
若かった頃はひりひりとした醒めた熱情がほとばしる「青い歌」が、漂流する時代を生きる孤独な若者に勇気を届けてくれましたが、1990年代以降ますます過酷になる時代を生き抜くためには「物語」が必要で、友部さんの歌はまるで一本の映画の片隅に取り残された小さな物語のようで、わたしたちはその物語の彼方にささやかな希望を見つけることでしょう。
半世紀に届く長い年月の間につくられ歌われた歌は時代を越えてまじりあい、いさぎよさと瑞々しさにあふれていました。とりわけこの日の2番目に歌った1990年代の名曲「月の光」が、わたしの心のもっとも柔らかい所にやさしい痛みを届けてくれました。

月の光よ、見ていておくれ
ぼくたちの姿をとらえておくれ
一人の人の手足じゃないぼくたちを
一人の人の顔じゃないぼくたちを
友部正人「月の光」1999年

その他のどの出演者も春一番らしく素晴らしい演奏でしたが、中でも久しぶりに豊田勇造の歌が聴けたことも収穫でしたし、先ほど書いたようにヤスムロコウイチと今年初めて聴いた良元優作に惹かれましたが、なんといってもトリの小川美潮はこの日の最高のパフォーマンスの一つでした。小川美潮さんは能勢の「気遊」で一度聴きましたが、メルヘンともシュールレアリスムともジャズとも思える広がりのある歌と、シンプルで緩くポップで明るい小川美潮の歌の世界は不思議な魅力にあふれていました。
その小川美潮のユニットに、小島良喜とともに井上陽水のツアーで何回か聞いている今堀恒雄が入っていて、どんな演奏を聴かせてくれのかと思っていましたが、かなりのロックサウンドでびっくりしました。今堀恒雄のギターはもちろんでしたが、小川美潮のボーカリストとしての力量にも圧倒されました。
暑い一日で、暑さに弱いKさんが大丈夫かなと思いましたが、日陰を求めて移動し、途中では会場の外で涼みながらでしたが、最後まで楽しむことができました。

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