島津亜矢の「UTAGE!2019年夏」 新しい音楽、新しい時代。

8月22日、TBSの特別番組「UTAGE!」に島津亜矢が出演しました。
彼女がはじめて「UTAGE!」に出演したのは2017年の9月で、この日はケミストリーの堂珍嘉邦と「美女と野獣」をコラボした他、「イミテーションゴールド」などを歌い、初出場ながらこの番組の常連の出演者とも自然に溶け込みました。
実際のところ、彼女の出自でもありホームグラウンドでもある演歌・歌謡曲の世界だけでなくポップスの世界でも、他の歌手の歌をじっくりと聴く機会がほとんどないのが実情でしょう。ましてや彼女が今のように音楽番組でポップスを歌う機会がほとんどない頃でしたので、よほどのウォッチャーでない限り、彼女の演歌を聴く機会はなかったに違いありません。
「UTAGE!」の場合は自分の出番だけに集中するのではなく、番組の始まりから終了まで、他の出演者のパフォーマンスをじっくりと聴くことがほぼ義務付けられています。というのも「UTAGE!」というタイトル通り、この番組は壮大な宴会芸が披露される大広間(大広野)で、いまをときめくアイドルから実力派のボーカリストが集結し、この番組ならではの意外性と刺激に富んだコラボレーションでお互いを高めあい音楽をつくっていく、そのプロセス、メイキングをも「宴の場」で披露し、それを出演者全員と会場のお客さん、そして視聴者が共有、共振する…、そういう番組なのです。
当時はまだ一般的には「ポップスも歌える実力派の演歌歌手」扱いされていた感もありましたが、中居正広とこの番組制作チームは島津亜矢をオールラウンドのボーカリストとして迎え入れてくれました。その意味では初めてのコラボの相手だったケミストリーの堂珍嘉邦には、ちょっとした緊張感を感じさせましたが、テレビ的には前でAKBの柏木由紀他のダンスが前面に出る演出で、このチームのしたたかな演出力を感じたものでした。
それ以後、年に2回から3回、特別番組として放送されるこの番組に島津亜矢は出演し、ケミストリーの川畑要とのデュオの他、島袋寛子・高橋愛、Little Glee Monsterのかれん、BENI、高橋愛、峰岸みなみ、三浦祐太朗、TEE、二階堂高嗣、山本彩など、多彩なボーカリストとのコラボが定着しました。それはまた、島津亜矢自身にとって音楽的な冒険としてはおそらく「紅白」よりも刺激的で貴重な経験だと思います。
「UTAGE!(宴)」の歴史は古く、おそらく人々が農業により定住した村落をつくりはじめたころから、神々に豊作を願い、感謝する神事から発展していったと思われます。
やがて村の風習で何かというと山や海辺に集まり、男女が互いに歌を唄い合って交歓し、たくさんのカップルが生まれたと言います。この東アジア共通の習俗は日本では「歌垣」と呼ばれ、わたしの住む能勢にも歌垣山という小高い山に里の村落から若者が集った記録が残されています。
この番組は、まさしくその現代版と言えるもので、絶えず今までとはちがう音楽的チャレンジを時には一人で、また時には数人のユニットを組んで新しいパフォーマンスに挑戦しなければならないのです。そのために実力のあるボーカリストでなおかつ好奇心とチャレンジ精神に富んだひとでなければ出演が難しい番組でもあります。そのぶんこの番組の制作チームや視聴者の要求を実現し、自分の新しい才能を見出し、より素晴らしいボーカリストへと変身・進化する歌手を輩出する番組ともなっています。その事情は島津亜矢にも当てはまり、もしかするとこの番組では歌うことより聴くことで、ボーカリストとして才能を伸ばすためのとても大きな果実を手に入れているのではないかと思います。

さて、今回は荒井由実(松任谷由美)の1975年の楽曲「ルージュの伝言」を森口博子がカホン、峰岸みなみがベース、高橋愛がパーカッション、山本彩がギター、そして島津亜矢がスティールパンと、それぞれ楽器を演奏しながら歌いました。
わたしは1980年代、音楽とは無縁の生活をしていて、この頃のおしゃれで都会的な歌謡曲の匂いがする松任谷由美とは縁がありませんでした。村上春樹はエッセイなどで80年代の音楽に傾聴していたそうで、わたしは彼の小説のファンですが、どこか無国籍で都会的なエッセンスについていけないところもあるのは、わたしに80年代の音楽体験が欠落していることと関係あるのかも知れません。
「ルージュの伝言」はアイドルソングの曲調でありながら、実は日本の女性運動が潜伏期をへて社会的な影響力を放つようになった時代背景のもと、女性が男に依存しない生き方を選ぶちょっとした決意を歌い、自分の言葉で異議申し立てをしていく物語を描いて見せた楽曲だと思います。
一夜限りのセッションで毎回楽しませてくれる企画ですが、わたし個人の感想では少し緊張感が強すぎて歌うというよりはゴールをめざす陸上スポーツのようで、メンバーは少し変わりますが以前の「遠く遠く」や「ファイト!」の方が楽しめました。
2曲目はケミストリーの堂珍嘉邦とのデュオで、ソウル、R&Bの第一人者・久保田利伸の1996年の楽曲「LA・LA・LA LOVE SONG」を歌いました。この曲はあのトレンディドラマ「ロングバケーション」の主題歌でもあります。堂珍嘉邦とは初出場以来の共演でした。わたしは実は島津亜矢はメインボーカルよりも、メインボーカルを受け止めるサブボーカルやバックコーラスを担った時に彼女の才能の輝きをもっとも強く感じます。
今回も原曲でフィーチャリングをつとめたナオミ・キャンベルのパートを歌い、存在感を示しただけでなく、わたしには堂珍嘉邦がとても安心して歌えたのではないかと思います。もうずいぶん前に獲得した肉感的な低音で語りのような部分を正確なピッチで刻み、堂珍嘉邦の高音に返していく歌唱力はさすがで、「音楽をつくる」役割を見事に果たしてくれました。
3曲目はソロでMISIAの昨年のヒット曲「アイノカタチ」を歌いました。GReeeeNの作詞作曲で「義母と娘のブルース」の主題歌でした。
この大ヒットドラマは、余命宣告を受けた父親が娘の人生を託せる女性として主人公の綾瀬はるかに結婚を申し込み、有能なビジネスウーマンで恋愛などしたことがない彼女が不器用に結婚、子育てをする中で死んだ夫に「愛」を感じ、最初はそっぽを向かれていた娘との間にも「愛」や「絆が」生まれる、といった話でした。
この歌の最初の歌詞で「いつのまにか気づいたんだ 愛にもしカタチがあって それがすでにあたしの胸にはまってたなら」という切ない想いは、死んでしまった夫への愛と娘への愛が、最初はビジネスのマニュアルのようでしかなかったのが、まるで鋳型に「ほんとうの愛」が充填されていくこのドラマの行き先を教えてくれているようでした。
実のところ、わたしは歌づくりにおいても歌唱力においても日本の女性ボーカリストのトップを走るMISIAが苦手でした。その理由はだれもが感動する名曲バラードを連発されると、実人生はそんな感動巨編ばかりではないだろうと思ってしまうのです。
そう思うと、「アイノカタチ」は今までの名曲主義から少し離れた手触り感のある楽曲で、島津亜矢がカバーすると「死」を隠した素晴らしいポップス挽歌になることが、今回の歌唱が証明してくれたように思います。
今回も気になった楽曲がたくさんありましたが、長くなるので又の機会にさせていただきます。

すでに10月に「UTAGE!2019年秋」の放送が決まったようです。
ひとりのファンとして、島津亜矢の出場がかないますように…。

2019.08.22 峯岸南.山本彩.島津亜矢.高橋愛 .森口博子「ルージュの伝言」@ UTAGE

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