「天神さんの古本まつり」

昨日は「天神さんの古本まつり」に行ってきました。この催しは大阪古書研究会が1998年から開かれているもので、豊能障害者労働センターは最初から参加させてもらっています。本来は古書店の方々が協同で古書の市場の活性化をすすめるために、決して少なくない費用を出し合って目録をつくり、大阪の古書文化の聖地といえる大阪天満宮の協力を得て毎年開いているもので、縁あって豊能障害者労働センターが参加させていただいてきたのは稀有の出来事です。

豊能障害者労働センターのリサイクル事業は1994年から始めたのですが、1995年の阪神淡路大震災の救援バザーをきっかけに大きな事業になりました。最初は大阪府箕面市内、それから少しずつ範囲を広げて、いまでは付近の町はもとより兵庫県の一部にまでバザー用品の回収のお声がかかり、それを5つのお店とバザーで販売して障害者の所得をつくりだしているだけでなく、それらのお店はすべて障害者スタッフが切り盛りしていて、働く場をつくりだす大切な事業になりました。古本の回収も多く、それらたくさんの本をどのように販売するのかが問題となっていました。というのも、1995年にリサイクルショップを少しずつ開いてきたのですが、どうしても衣類や雑貨などが中心で、本はなかなか売れないのでバザーなどで10円、20円で販売するしかなく、回収の手間の割にほとんど商売にならない状態でした。また、回収した本の中には値打のありそうな本もありましたので、それらは売らないまま倉庫に眠っていました。

1998年のことでした。当時のスタッフのひとりが大阪かっぱ横丁の古本屋さんに値打のありそうな本を持っていきました。そのお店の店主・Sさんに豊能障害者労働センターの活動を説明すると好意的に話を聞いて下さり、かなり高い値段で本を引き取ってくださいました。そして、お店が終わった後事務所に来て下さり、ストックしているたくさんの本を高い値段で買って下さったのでした。それからしばらくして、またストックしておいた本がたくさんになったので連絡すると事務所に来て下さり、「これらの本を私が引き取ってもいいのですが、今度わたしたちが開く古本まつりに出店して直接売ったらどうですか? 特別出店で、費用はいらないですよ」と言われました。わたしたちは耳を疑いました。大阪古書研究会に参集する古本屋さんに素人集団が参加できることも、しかも豊能障害者労働センターの活動を応援しようと費用の負担を免除してもらうなど、ありえないと思いました。言葉を無くしたわたしたちに、「わたしの方から仲間に協力してもらうように言いますので、準備の会議に来て下さい」と、Sさんは続けて言われました。わたしたちもすぐに会議でお言葉に甘えて参加させていただくことを決め、準備会に行き、会員のみなさんにお礼とお願いをしました。「わたしたちには本の値打がわかりません。」とSさんに相談すると、「いいじゃないですか。思ったように値段をつけたら」と言われ、わたしたちは古本屋さんではこれぐらいで売ってそうだと思う値段をつけましたが、バザーなどでつけている値段とは一ケタちがい、「ほんとうにこんなに高くていいのかな」と不安に思いました。今でこそ古本屋さんと変わらない店構えになりましたが、当初は本棚もろくになく、あり合わせの棚をつくり、いよいよ初日を迎えました。その日はあいにくの雨でしたが、たくさんのお客さんであふれました。わたしは今でもその日の雨の音と、お客さんたちが神社の境内の砂地を踏むひたひたという音を覚えています。音楽などはいっさいかからないのですが、ただひたすら雨音と足音が奏でるハーモニーはどんなBGMよりも素敵な音楽でした。それはこのおまつりにためにやってきた無数の本たちとお客さんたちとの出会いの音楽でした。わたしたちのお店に来られたお客さんに聞くと、全国からこのお祭りに来られていることがわかりました。活字離れが言われて久しいですが、こんなにも本を愛する人たちが全国にいるのだと思いました。あるひとから別れた本がまた別のひとと出会うことができる古本は、新刊よりもはげしくその本を必要とするひとを待ちつづけているのでしょう。ひともまた、誰かから手渡されたその本が自分の人生の道しるべになる、そんな切実な願いをかなえてくれる本を求めて、このおまつりに来るのだと思います。バザーの値段よりは高くても、それを必要とするひとには決して高い値段ではなく、文庫本を中心に何十冊も買っていくお客さんがあいつぎ、信じられない売り上げになりました。それから毎年、豊能障害者労働センターはこのおまつりに参加させていただき、今ではわたしもふくめていきさつを知っている当初のスタッフはほとんどいないのに、若いスタッフが古本屋さんの仲間になっていて、愛されていることがとてもうれしいです。また、このおまつりがきっかけで、豊能障害者労働センターは箕面で独自に古本市を毎年2回開いています。

天神さんの古本まつりも、今年で14回になりました。時の過ぎて行くのはほんとうに早いものですが、今も変わらずにぎわうこのおまつりは、秋の天神さんの風物詩になっています。そして、いまもまた、お客さんの足音がひたひたと境内に静かに響いています。

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