ピアソラのタンゴと映画「ブエノスアイレス」金関環&古川忠義 桜の庄兵衛

6月24日、豊中市岡町の「桜の庄兵衛」で開かれたコンサートに行きました。
ヴァイオリンの金関環、ギターの古川忠義が出演し、「雨あがりつばめ飛び交う コンサート」と題されたこのコンサートは、演奏の合間、MCの枠を超えた二人の掛け合いが超一流で、笑いが絶えないコンサートでした。
普段、クラシツクコンサートが苦手なわたしですが、苦手な理由のひとつに「聴く作法」が疎ましいということがあるのですが、2人のコンサートはそんなことを気にする必要がなく、聴き手のわたしたちは演奏の合間の掛け合いにただただ笑い転げました。
わたしのようにクラシックをほとんど聴かない者でも楽しめるようにコンサートをプロデュースするその巧みさは素晴らしいものでした。
もちろん、演奏の巧みさや楽曲に対する真摯さは素晴らしく、一般のコンサート会場では味わえない「桜の庄兵衛」という稀有の場にふさわしく、音楽が生まれる瞬間に聴く者をいざなうコンサートでした。
「音楽は聴く人のためにありますから」と言う金関環は阪神大震災の時、被災地で「音楽が役に立つのか自問しながらだったが被災者が集まり、目を閉じ、頭を深く垂れて聴き入ってくれた。みんな本当に音楽が必要なんだ」と痛感し、音楽観も変わったといいます。
ギターの古川忠義とは20年以上の付き合いで、年に何回かは一緒に演奏しているといいます。たしかに、古川忠義との絶妙かつ軽快なパフォーマンスは長い付き合いと信頼関係によって裏付けされたものなのでしょう。
2人とも、「クラシック音楽を一人でも多くの方に親しんでもらいたい」という思いから、クラシック奏者としてのさまざまな決まり事を破り捨てたバラエティーやパフォーマンスを通して、豊穣な時を蓄え、未来への希望を奏でるクラシック音楽の入り口を用意するサービス精神に圧倒されました。
一緒に行った豊能障害者労働センターのFさんは、「今までで一番楽しめた」と絶賛していましたが、わたしも今年は今まで心を張りつめてきたこともあり、まだひとつ箕面でのチャリティコンサートを抱えているものの、ほんの一瞬心を休め、リラックスして音楽を楽しむことができました。そうなんですよね。音楽は言葉通り、楽しむものなんですよね。

休憩をはさんで2部のはじめは古川忠義の映画音楽のギター演奏で始まりました。「禁じられた遊び」が終わり、「ひまわり」のテーマソングの演奏では一人漫談の見事な語り口で物語を語り、ここでも爆笑が会場にとどろきました。
その後、金関環が登場し、アストル・ピアソラの「タンゴの歴史」を演奏しました。
アストル・ピアソラはアルゼンチンの作曲家・バンドネオン奏者で、タンゴにクラシック、ジャズの要素を融合させた巨匠です。元来タンゴは踊りのための伴奏音楽でしたが、ピアソラはそこにバロックやフーガといったクラシックやジャズを取り入れた独自の演奏形態を産み出しました。当初は保守的なタンゴファンや演奏家に「踊れないタンゴ」と言われ、なかなか受け入れられなかったようですが、それでもなおピアソラは自分のタンゴを追求し続け、自身が学んだクラシックの知識を生かして「聴く」ためのタンゴを世界に広めました。
わたしの少ない知識でも、タンゴは男と女が抱き合った状態で繰り広げられるストイックかつエロチックなダンス音楽、時には激しく時には切なく、胸がしめつけられるような激しい恋を彩る情熱的でセンチメンタルな音楽と思います。
そして、ピアソラのタンゴと聞いてすぐ、わたしは1997年のウォン・カーウァイの映画「ブエノスアイレス」を思い出しました。
「恋する惑星」や「欲望の翼」など90年代の香港映画をけん引したウォン・カーウァイが、ブエノスアイレスを舞台にゲイの男2人の激しい恋と人生模様を描いた「ブエノスアイレス」、この映画のもっとも官能的なシーンとして覚えているのが、レスリー・チャンとトニー・レオンがお互いの体の隙間をなくすように強く抱き合って踊るシーンでした。この時に流れる音楽がピアソラの「Tango Apasionado」だったと思います。
この日に演奏された「タンゴの歴史」は、そのタンゴの発展の有様を20世紀初頭から表現した名曲で、 第1楽章の「Bordel(ボルデル)1900」、 第2楽章「カフェ1930」、 第3楽章「ナイトクラブ1960」、第4楽章「現代のコンサート」の4曲で構成されています。
1900年、ブエノスアイレスのいかがわしい売春宿や酒場での明るく陽気なダンス音楽として誕生したタンゴは1930年にはカフェに進出します。甘くメランコリックな旋律で、退廃的な空気に満ちていました。
1960年、ピアソラ自らが登場し、それまでにあった既製のタンゴを破壊し始めます。この楽章はその新しいタンゴの萌芽があらわれます。
そして現代、タンゴはストラヴィンスキーやバルトークをはじめとするクラシックの作曲家にも影響を与え、タンゴ以外のジャンルの演奏家によって演奏される音楽となりました。
金関環は、ピアソラが生涯をかけてタンゴを愛するゆえに作曲家としてもバンドネオンの奏者としてもさまざまな実験を繰り返しながら、タンゴがあらゆる音楽と融合し、新しいタンゴが生まれることを夢見ながらタンゴと格闘した道のりを追いかけ、わたしたちにその足取りを教えてくれました。
思えば金関環のヴァイオリンも古川忠義のギターも、既成のクラシックにはない自由さと、それを裏付ける潔さのようなものを感じます。そしてクラシックもジャズも歌謡曲も、そしてタンゴも大衆音楽そのもので、音楽はそれを必要とする心から生まれ、それを必要とする心に届くということを体と心で感じたコンサートでした。
金関環さんのコンサートはとても人気があり、今回のコンサートでも早くにチケットが完売になっていました。早くに申し込んでなかったら参加できないところでした。

「桜の庄兵衛」さんのご協力で、わたしたちが7月11日に開くチャリティーコンサートのチラシを入れてくださいました。また、チケットも5枚も買っていただき、感謝です。

Astor Piazzolla - Tango Apasionado

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