あいみょんと島津亜矢 「君はロックを聴かない」

2月16日、TBSの「UTAGE!」に、島津亜矢が出演しました。
「UTAGE!バレンタイン2日後SP~紅白愛の歌合戦~」と題した今回の放送では2011年のAIの「ハピネス」を島袋寛子、高橋愛、BENI、TIA、峰岸みなみとアカペラでコラボし、二曲目は2017年のあいみょんの「君はロックを聴かない」を歌いました。
一曲目の「ハピネス」では、この番組の常連といえる女性ボーカリストとの共演は、初出演の頃に島津亜矢に感じたであろうちょっとした違和感もなくなり、島津亜矢の歌唱力への絶大な信頼感が感じられ、しなやかで透明感にあふれたアカペラのハーモニーがとても心地よく響きました。
わたしはコーラスというか合唱のだいご味はそれぞれの声が響きあい、共鳴することで、「もうひとつの声」が聞こえてくる瞬間にあると思っています。「神の声」かもしれないそのもうひとつの声は、歌っているひとたちがそれぞれの心の声をその空間に捧げることで重なり合い、まじりあい、溶け合う瞬間に現れます。今回の共演は、合唱がレクイエムや讃美歌など祝祭音楽として教会などで広まったことなどをあらためて思い返させてくれる素晴らしいコーラスでした。
二曲目のあいみょんの「君はロックを聴かない」は、島津亜矢の冒険に新しい道を指し示すきっかけになる一曲だと思います。乏しい音楽経験の中で、わたしが一昨年の米津玄師とともに特別に新しい才能を感じたアーティストがあいみょんでした。
あいみょんは、1995年生まれのシンガーソングライター、作曲家、作詞家で、2015年に「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」でインディーズ・デビューしましたが、その過激な歌詞が話題となったようです。わたしは習慣としてラジオを聴くことがなくなり、新しい才能にいち早く触れる機会はなく、2017年に「君はロックを聴かない」のヒットで新聞やテレビで彼女の存在を知りました。2018年には「マリーゴールド」が大ヒットし、米津玄師とともにこの年の紅白に出演しました。
スピッツ、浜田省吾、吉田拓郎、河島英五、尾崎豊など、男性のシンガーソングライターを好み、旋律より歌詞を重要視し、特にフォークソングが好きで、ギターの弾き語りだけで好きな女性に対する男性の揺れ動く感情を歌う男性目線の歌も多いようです。
「君はロックを聴かない」はまさしくそうで、男の子が女の子に激しい恋心を抑えながらも、「君はロックを聴かないけれど」と、最近は若者たちのあふれる情熱や激情を代弁できなくなりつつある「ロック」をたとえに、世代の違う女の子にその切ない胸の内を一生懸命伝えようと言葉を重ねるのでした。

君はロックなんか聴かないこと知ってるけど
恋人のように寄り添ってほしくて
ロックなんか聴かないと思うけれども
僕はこんな歌であんな歌で
また胸が痛いんだ

そういえばわたしもまたこの歌のような恋心とはちがいますが、落ち込んでいる若い人をはげまそうと、自分が若かった頃に傾倒していた寺山修司の詩やレコードが擦り切れるほど聴いていたジョン・コルトレーンやジャックスなどの話をしたりするのですが、もとより20以上も年が違う若い世代にわたしの青春の墓碑銘が伝わるはずもなかった痛い経験を少なからずしてきました。
世代や性別など、乗り越えられない荒野に立ち尽くし、ストレートに打ち明けられなくて、自分が親しんだ「ロック」のドーナツ版を一枚と言わず何枚か聴かせて、屈折した恋心を隠せないでいる年上のお兄ちゃんの切なくも格好悪い心情をシンプルなメロディーにのせて歌うあんにょんの弾き語りは、大げさな愛の歌やバラードよりも聴く者の心に痛く突き刺さるのでした。
あいみょんの歌を聴いていると、初期の中島みゆきのようだと感じるのはわたしだけでしょうか。二人ともギターの弾き語りで覚えやすいメロディーにハッとする歌詞で、とくに女性から圧倒的な支持を得ていますが、それだけでなく、わたしは歌が誕生する心の場所に共通したものを感じます。
実際、あいみょんの歌からは恋の切なさや生きる辛さがビンビンと伝わってくるのに、それでも自分らしく生きるしかないと自分に叱咤激励しているようで、潔さと愛がフルスピードで走り抜けた後、取り残された言葉だけが未練にも恨みにも後悔にもたどり着けずに彼女のギターのコード譜に引っかかり、歌になっているようなのです。そこには中島みゆきがそうであったように、日常の隙間に紛れ込む音楽が時代をこっそり隠していて、個人の心情が社会のありようの鏡になっています。

さて、島津亜矢の歌はなにぶん数多くのヒット曲を優れたボーカリストで歌いつなぐ中の一曲で、歌唱時間も短かったことから、島津亜矢のもっともすぐれた才能のひとつといえる「歌を詠む力」が充分に発揮されたとは言い難く、あいにょんの歌の誕生する場所にまでたどり着くまでには至らなかったのではないかと思います。
しかしながら、島津亜矢がどれだけあいみょんを認識しているのかはわかりませんが、少なくともこの番組をきっかけに「第二の中島みゆき」と言ってもいい無限の可能性を秘めたこのシンガーソングライターと同時代を伴走することになるのは間違いないと思うのです。この若い才能による島津亜矢のオリジナルの「新しい歌謡曲」が誕生する途方もない夢を見てしまうのですが、あいみょんの歩いていくだろう音楽の道と、島津亜矢がポップスから探し当てようとしている「音楽の原石」をたどる道とはどこかでつながっていると思います。
その意味では、18日のNHK「うたこん」で歌ったXジャパンの「Forever Love」よりも、わたしは「UTAGE!」で歌った「君はロックを聴かない」のほうがはるかに刺激的で、音楽的な可能性を秘めていると思います。
それにしても、「UTAGE!」にはますます若い才能が集まってきていて、「演歌」歌手としては島津亜矢だけになってしまいました。
それだけポップスのシンガーとして注目されている証拠ではありますが、ポップスの名曲バラードに偏りがちなのが少し心配です。それだけのことなら、最近の演歌の歌い手さんたちがポップスを歌うのとあまり違いはなく、わたしは島津亜矢という稀代の歌手の中にうずもれている時代の宝物を見つけてくれる音楽の作り手やアーティストが現れることを願ってやみません。

あいみょん - 君はロックを聴かない 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

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