島津亜矢が歩んできた地道で厳しい努力 ソウルはソウルにしてあらず

6月11日のNHK総合「うたコン」に島津亜矢が出演しました。この日の放送はコラボの特集で、杏沙子、石丸幹二、こぶしファクトリー、ジェジュン、島津亜矢、純烈、鈴木愛理、TiA、徳永英明、NEWS、野口五郎、氷川きよし、BEYOOOOONDS、藤あや子、三山ひろし、May J.、武田真治、フラッシュ金子、MUSIC CONCERTOなどの出演者がいろいろな組み合わせでコラボしました。
島津亜矢はMay J.と鈴木愛理との3人で和田アキ子の「古い日記」を、石丸幹二とMISIAの「アイノカタチ」を、そしてアメリカで活動するソウルシンガー・TiAと「I Will Always Love You」を共演しました。
TiAは、日本の女性シンガーソングライターで、2004年にファーストシングル「Every time」でエピックレコードよりデビュー。続く2ndシングル「流星」が人気アニメ「NARUTO」の主題歌に抜擢されるなど、スマッシュヒットを連続。1stアルバム「humming」は日本ゴールドディスク賞を受賞しています。現在はニューヨークに拠点を移して活動し、また最近はカラオケ番組に出場し、その歌唱力が高く評価されています。
「I Will Always Love You」は島津亜矢にとって、はじめてに近いソウルミュージックの歌唱で高い評価を得た曲ですし、TiAもまたこの歌をよく歌っているようです。
その2人の共演ということで、少なからず期待が集まりましたが、他のコラボに比べると評判通りと言えるかも知れないでしょうが、わたし個人としては少し残念なパフォーマンスだったと感じています。
わたしはファンの方々には叱られるかも知れないのですが、たびたび書いていますように、島津亜矢のポップスの歌唱は大きな可能性を持っていて、今はまだ長い道のりの途上だと思っています。
若い頃の彼女の演歌の歌唱は声量を活かした朗々とした歌唱で、ややもするとハードに歌い切ってしまい、聴く者の心にやわらかく「歌を残す」には若さが邪魔をしていたと思います。最近の島津亜矢は声量でガンガン押し切るのではなく、まるで一本の映画や芝居を観ているようにしなやかでせつなくて、音程とリズムがしっかりしているのに歌のまわりを心が先を急いだり遅れたりしながら、音の葉となったひとつひとつの言葉が聴く者の心を震わせる、いわゆるセクシーで肉感的な歌を披露してくれます。
彼女の長い歌手歴が残してきたオリジナル演歌の隠れた名曲をもう一度歌いなおしてもらえないかと思うぐらい、その音楽的な進化は目覚ましく、その最終段階としてポップスの歌唱の経験が彼女の演歌を大きく進化することでしょう。
実際、彼女のオリジナル曲は人生訓を説く演歌が続いていて、わたしはもう少しプロデュースに工夫があればとも思うのですが、それでも今年の新曲「凛」を歌う彼女の歌唱は見事で、NHKまでもがポップスやクイーンなどのロックバラードを要求するほどになっても帰るべきところを見失わない島津亜矢の底知れない歌手魂を感じさえするのです。
というわけで島津亜矢はポップスを歌うことで今までの演歌、1970年代から歌謡曲を極度にいびつな形にしてしまった演歌については、もうこれ以上の進化はないという高みにまでたどり着いたと思います。あとはもう少し年月をあたためれば、いつかはきっと新しい演歌・島津演歌が生まれると信じています。それはおそらく、ポップスをふくむ歌謡曲が「新しい日本の歌」へとすそ野を広げ、演歌もまたその荒野で新しい生命が吹き込まれることでしょう。
まだポップス歌唱が途上とはいえ、バラードを中心とする名曲を歌うことから始まった島津亜矢のポップス音楽の冒険はずいぶん進化し、若い頃の演歌の歌唱のように声を張り上げたり、演歌のこぶしに似ているシャウトを不自然に入れてしまうことが徐々になくなってきました。
その意味では、今回のTiAとのコラボでは、TiAの歌唱にはややあざとらしさが目立ち、いわゆるソウルっぽいというかゴスペルっぽいというか、「いかにもシャウト」や「タメ」を乱発するのに対し、いままでと変わらないアプローチでこの歌を「すなおに」歌ったのが印象的でした。
もともとこの歌は1992年に映画「ボディーガード」の主題歌で、ホイットニー・ヒューストン最大のヒット曲となりましたが、実は1974年のドリー・パートンの同名曲のカバー曲でした。ドリー・パートンのシンプルな歌を、ホイットニーは映画と自分自身の実人生の物語を重ね合わせ、特別なソウルバラードに大きく変貌させました。それはたしかに見事としか言いようがないのですが、歌唱力を自他ともに認める歌手たちがこの歌を歌う時、こぞってホイットニーの歌唱をお手本にしていて、もっと違う歌い方があってもいいのではないかと思います。
実際、この歌は愛するひとへの永遠の愛を誓う歌ではなく、ある意味不倫の恋を清算する歌だと思うのですが、ソウルシンガー・ホイットニーの独特の歌唱がそのまま見本となり、心から湧き出る感情表現としてではなく意味もなくシャウトしたりして、わたしには聴きづらいことが多いのです。今回あらためていろいろな歌手の歌唱を聴きましたが、かろうじて韓国歌手・Aileeの歌唱には独自の表現を感じました。
というわけで、どちらかと言えば力の入ったTiAの歌唱に影響されないで歌い終わった島津亜矢は立派と思いました。しかしながらその分、コラボとしてのパフォーマンスはやや不協和音で終わってしまったのではないかと思います。
今回の放送ではMay J.の活躍が目立ちましたが、この歌もMay J.とのコラボだったらもう少し違った歌になったと思います。
島津亜矢以外では、ジェジュンの歌唱力が光った他、徳永英明と野口五郎がとてもよかったです。演歌歌手でデビューした野口五郎は、ある意味正統派の歌謡曲の可能性を教えてくれているように思います。三山ひろしは1950年代の春日八郎の映像とのコラボは少しかわいそうでしたが、三橋美智也よりも春日八郎のカバーがあっていると感じました。
さて、これはまた違う方面から叱られそうですが、氷川きよしのポップスは「トップの演歌歌手はポップスも最高に歌える」という自負というより過信が感じられ、島津亜矢が歩んできた地道で厳しい努力は、その領域からはすでに解放されていることを痛感させました。
他の人のことは置いておいて、島津亜矢のことですから、これからもいろいろな歌手との共演から多くのものを吸収し、自分なりのポップス、ロック、R&B、ソウル、そして演歌をつくりあげていくことでしょう。

島津亜矢 I Will Always Love You

Ailee- I will always love you .20140412

Whitney Houston - I Will Always Love You LIVE 1999 Best Quality

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