大竹しのぶ、クミコに学ぶところが多かった。島津亜矢「SONGS」出演

6月22日、NHKの「SONGS」に島津亜矢が大竹しのぶ、クミコと共演しました。
いつか島津亜矢が「SONGS」に出演することを願っていたのですが、それが現実のものとなったことをとてもうれしく思います。演歌・歌謡曲の歌手の出場はとてもめずらしく、SONGSのスタジオに振り袖姿の島津亜矢が立つ姿に特別な感慨を持ったのは私一人ではないと思います。
昨年のトリビュートコンサートに出演した流れからとはいえ、中島みゆきを愛するシンガーとして大竹しのぶ、クミコとともに島津亜矢を抜擢したSONGSスタッフに敬意を表したいと思います。
番組では島津亜矢が「地上の星」(2000年)、クミコが「世情」(1978年、)大竹しのぶが「ファイト」(1983年)をそれぞれの曲への思いを語った後、熱唱しました。
特に島津亜矢は20年近く歌いつづけている「地上の星」ということで、今回の放送では思い入れの強さから力が入りすぎていたように思います。
わたしはかねがね、演歌のジャンル以外のアーティストとの共演を望んできましたが、クミコと大竹しのぶという、女優としても歌手としても女性としても大先輩の二人との鼎談は、想像以上の刺激を島津亜矢に与えたにちがいありません。
彼女たちの話やリハーサルの現場に立ち会い、島津亜矢は表現者として共感し、「歌を詠み、語り、残す力」の大切さを確認したことでしょう。
「地上の星」はご存知のように2000年の春から2005年の暮れまで放送されたNHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」のテーマソングとして、中島みゆきがNHKに依頼されてつくった楽曲です。
「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」は、戦後すぐから高度経済成長期まで、奇跡と言われた日本の復興と成長を実現し、モノづくりを支えたひとびとの苦難と成功をその当事者や関係者の証言を交えて紹介するドキュメンタリーで、そのサクセスストーリーは多くの人々の共感を呼びました。
200年代初めと言えばバブルが崩壊し、のちに失われた20年といわれた頃で、日本社会全体が元気をなくしていました。企業戦士といわれ、男たちは家庭を顧みず、ひたすら会社のために深夜労働もいとわなかった高度経済成長のひずみがまだこの社会を覆っていますが、がれきから築いてきたその高度経済成長を支えてきたと自負してきた多くの「サラリーマン」がその誇りすらなくしていた頃でした。
成長の神話からはね飛ばされ、終身雇用も終わり、リストラの嵐が吹き、自分が依って立つアイデンティティをなくしただけでなく、明日の暮らしに不安が付きまとうようになったこの頃、苦しかったけれど必死だった高度経済成長とその果実をなつかしく振り返るこの番組は、中・高年者に圧倒的に受け入れられたのでした。
わたし自身の体験としてもその時代のだれもがさまざまなプロジェクトをになったわけではありませんが、ひとりの人間の力は小さくても日本社会全体の成長プロジェクトの一員であったという錯覚をたくさんのひとが持っていたことも確かなことでした。
そんなひとびとの気持ちを中島みゆきは見事にすくい上げ、「地上の星」は番組をこえて100万枚の大ヒット曲になりました。
「風の中のスバル 砂の中の銀河 みんな何処へ行った 見送られることもなく」と歌われるこの歌を聴きながら、どれだけのひとが自分の人生のささやかな栄光をかみしめたことでしょう。
しかしながら、この歌にはNHKが依頼した以上のもっと深い思いもまた含まれていると思います。高度経済成長のジェットコースターに乗れなかったひとびと、乗ったものの途中で突き飛ばされたひとびと、高度経済成長の歯車になっただけでさび付いてしまったひとびと、「地上の星」はこの番組のサクセスストーリーに記述されないまま死んでいった無数のたましいに捧げるとも言えます。
願わくば島津亜矢の「地上の星」がその無念の叫びと無数のたましいを鎮める鎮魂歌、彼女たち彼たちへの挽歌にまで進化することを願っています。
島津亜矢は演歌のジャンルではすでに「歌を詠む力」も「歌を残す力」も獲得して余りある高みまで来ていますので、1970年代からのポップスやシンガー・ソングライターの楽曲に対しても「歌を詠み、語る」ところ、「歌の墓場」にまでたどり着くことでしょう。
そのための一里塚として今回の大竹しのぶ、クミコとの共演が道標となることでしょう。
クミコの「世情」は、歌謡曲が映し出す風景とは一味違う時代の風景を今に届けてくれました。この歌が発表されたのは1978年でした。1970年代の激動の大波が遠くに去り、わたしは青春のシャツを70年代の空に干したまま、新しい上着を羽織って労働時間10時間の町工場で働いていました。
「シュプレヒコールの波 通り過ぎていく 変わらない夢を流れに求めて 時の流れを止めて変わらない夢を 見たがる者たちと戦うため」。
わたしは右だろうと左だろうと労働者だろうと経営者だろうと男だろうと女だろうと、時の流れを止めて変わらない夢を見る「権力」と戦うには、変わらない夢を流れに求める純情さとアナーキーさを必要とすることを、この歌で学びました。
大竹しのぶの「ファイト!」は圧巻でした。彼女は若い頃に歌手デビューもしているのですが、女優として大きく進化した今、彼女の歌は、歌を職業としているひと以上の説得力で胸にせまってきます。それはおそらく、彼女にとって歌はステージの上で楽団とともにあるのではなく、芝居の「板」へとつづく路上の雑踏とともにあるからであり、憑りつかれたまなざしの先には、「ファイト!」をつくった時の中島みゆきの憤りと悲しさとやさしさが手招きしているようでした。
1994年に発表された「ファイト」…。この歌は広島の尾道市で障害者解放運動の道半ばで死んでいった木之下孝利さんの愛唱歌でした。2000年の事でした。
彼の葬儀に行ったとき、この歌がエンドレスで流れていました。
「ファイト!闘う君の唄を 闘わない奴ら笑うだろう ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ」…。木之下さん、あなたが広島の地から豊能障害者労働センターにいつもエールを送ってくれたことを忘れられません。
この歌は中島みゆきが「オールナイトニッポン」のパーソナリテイをしていた時に届いた広島の女性の手紙から歌にしたものですが、大竹しのぶは中島みゆきのその思い入れを密やかに鎮め、オリジナルよりもずっと静かに淡々と歌いましたが、それがかえってこの歌で描かれている女性の感情が伝わってきて、同じ広島の木之下さんを思い出し、涙がでました。
不確かな夢と後悔、無償とは言えない愛と裏切り、ひとの心をヒリヒリさせる熱情と絶望などなど、ひとりの女性の激情が時代の大きな物語と共振する中島みゆきの歌は、歌への情熱と並外れた声量と声質と歌唱力を持ち、「歌のこころ」を探し求める島津亜矢の、演歌とは違うもう一つの大きな目標であり続けることでしょう。
そして、いつか島津亜矢のために中島みゆきが楽曲を提供してくれることを願ってやみません。

島津亜矢「地上の星」
今回の「SONGS」の映像です。共演者に刺激をうけたからか、2コーラス目からの「つばめよ地上の星はいまどこにあるのだろう」のところに思わずうなりがはいっています。好みがあり、ほとんどのひとは彼女の声量と歌唱力に圧倒されたと証言しているのですが、わたしは以前のように声を張り上げないほうが去りゆく者のへの挽歌らしくて好きです。

クミコ「世情」
今回の「SONGS」の映像です。

大竹しのぶ「ファイト!」
今回の「SONGS」の映像です。圧巻です。

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