去った夢と生まれる夢 箕面の「さんかくひろば」と劇団でこじるしー

10月27日、わたしが豊能障害者労働センター在職時にかかわらせていただいた箕面市障害者の生活と労働推進協議会(以下推進協)の機関紙「ファースト・ラン」の編集部に招待され、1993年に24時間の介護保障など、障害者市民の自立生活を獲得する運動の拠点として推進協が設立されたいきさつと、それまでの箕面の障害者市民運動について、当時のことを知る数人による座談会に出席しました。
その内容は推進協の機関紙100号に掲載される予定ですので機関紙の読者の方々にはぜひお読みいただくこととして、ここでは「去った夢があるからこそ生まれる夢がある」というコメントを記しておくにとどめておきます。
それはさておきちょうどこの日、約束の時間の前に推進協が運営する放課後等デイサービス事業所・地域交流センター「さんかくひろば」で、ジャズピアニストの石田ひろきさんのライブがあると知り、早めに家を出て聴きに行きました。
「さんかくひろば」は今年の春までわたしの娘が働いていたところでもあり、また推進協のスタッフとして「さんかくひろば」の立ち上げに尽力をつくし、道半ばで亡くなった亡き友・Kさんの夢でもありました。当時は大人になってから障害者と出会うことが多く、障害児との出会いは親の会を通じてというのが現状でした。しかしながら、障害者の生活をささえていくには子どもの時から出会い、大人になっていく時間を共有することが大切と考え、2012年8月、推進協は介護派遣事業とグループホームの運営に加えて「さんかくひろば」を立ち上げることにしたのでした。
設立当時から、閉じられた場所ではなくできるだけ開放し、利用する障害児が地域とつながっていくことを保障してきました。解放することとセキュリテイとは相矛盾するところもあるのでしょうが、ほんとうの安全は閉じ込もり立てこもるのではなく、地域のひとにできるだけかかわってもらうことにあると信じ、たこ焼き屋さんを併設したり駄菓子を販売したりと、地域の人々を呼び込む工夫をしてきました。
今回のような催しもそのひとつで、箕面市広報で宣伝したり地域の自治会の回覧板に入れてもらったりして、普通のイベントのように広く参加をよびかけているそうです。

中に入るといろいろなこどもと大人がみんな思い思いのことをしていました。ここではだれが障害を持っているのか、初めて来たわたしには全くわかりません。赤ちゃんを抱いた近所のお母さんたちも何人か来られました。中には音の出るおもちゃを鳴らす子どももいて、ふつうのライブ前とは程遠い光景でした。
石田ひろきさんはプロのミュージシャンと思えない気さくなひとで、周りがどんな状態であろうがお構いなく演奏を始めました。もう一人ボーカルの女性がいて、そのひとは歌を歌い始めるとアイドルっぽい女性という感じから大人のジャズシンガーに変身したように石川さんのピアノ(キーボード)にからみました。
赤ちゃんが泣きだしたりと、いわゆる雑音がずっと聴こえる中での演奏はかえって心地よく、「ああ、音楽ってこれがほんとうなんだ」と思いました。普通のライブ会場では小さな子どもや赤ちゃんなどは入場できなかったり、時々声を出してしまう障害者も迷惑だと言われてしまうけれど、音楽は日常の息づかいとざわめく雑音の中から生まれるものなんですよね。ここではだれも追い出されず、それぞれの聴き方で音楽を聴いていて、「音を楽しむ」という言葉どおりのライブでとても感動しました。

その2日後の29日、「さんかくひろば」の障害児者やスタッフが中心の「劇団でこじるしー」の芝居を観ました。この劇団は先に書きましたKさんの息子さんがスタッフになり、たまたま芝居をしていることから「さんかくひろば」でも芝居をしようということになったのだと思うのですが、チラシによるとすでに6回公演となっていました。
一回目からずっと台本を書き、演出しているKさんは、前回記事にしました南河内万歳一座の内藤裕敬が滋賀県の障害者との出会いから演劇体験をひろげたように、おそらく彼の劇団の芝居とちがった魅力を「劇団でこじるしー」に感じているのだと思います。
障害者による絵画や音楽、デザインは「アール・ブリュット」とか「アウトサイダー・アート」とよばれ、かなり以前からその芸術性が高く評価されるようになりましたが、最近は演劇の分野でも盛んになってきました。
おそらくそんな社会的事情と関係なく、さまざまな個性を持った障害児者との出会いが彼の演劇的野心に火をつけたのでしょう、彼女たち彼たちとつくりあげてきた舞台は、さんかくひろばでの日常性を保ちながら演劇という非日常の空間へと彼女たち彼たちを押し上げるのでした。
毎回、それほど筋書きは複雑ではないのですが、古くは「ウェストサイドストーリー」か、あるいは最近のゲームのようなのか、悪者と良者が対決するアクションが定番なんですが、実は悪者とされる一派も善良だったりして、似たり寄ったりなのが面白い。
そして、最後は良者も悪者もお互いを認め合い、仲良くなって芝居は終わります。そこが悪意の渦巻くKさんのいつもの芝居と違うところです。「さんかくひろば」のひとたちに限らず、最近話題になった「感動ポルノ」とは無縁の「ひとをとことん信じる」障害者の過激な「やさしさ」や「純な心」が、実はひとの心や社会までもぐらっと動かすことがあることを、この役者たちは知っているのだと思うのです。
今回はカミナリ族にへそを取られたアイドルとその仲間たちがカミナリ族と対決し、へそを取り返す物語でした。わたしはこの劇団の芝居を何回か見てきましたが、どんどん役者が育ってきてアクションもセリフ回しも立ち姿も舞台美術も本格的になってきました。
ちなみに実はわたしの娘も役者になっていて、前回の公演で急きょ代役で出たのがきっかけでしたが、かなり不思議な怪優で、もしかするとこれからも芝居をやるかも知れないなと思いました。合気道をやっている関係で剣をもった立ち回りはそれなりに様になっていましたから…。
続けさまに縁のある「さんかくひろば」の催しに参加し、自分の死が身近に感じる今日この頃、ひとしきりKさんを偲びながら胸にこみ上げるものがありました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です