友情こそが生きる力 「劇団でこじるしー」第7回公演

10月9日、箕面市立メイプルホール小ホールで、「劇団でこじるしー」の第7回公演がありました。
「劇団でこじるしー」は箕面市障害者生活と労働推進協議会が運営する放課後等デイサービス&地域交流センター「さんかくひろば」から生まれた劇団です。
「さんかくひろば」の卒業パーテイで寸劇上演をしたことがきっかけで、利用者とスタッフの有志、地域の人が参加し、2013年に旗揚げ公演をして以来、とくに障害のある子どもたちの飽きることのない芝居への情熱によって年を追ってパワーアップしてきました。
「障害のある人もない人も集まってひとつの演劇作品をつくろう」というコンセプトをかかげたこの劇団は、障害者のグループの学芸会や文化祭の出し物として見られがちです。
しかしながら、この劇団は「劇団」と名がつくのにふさわしく、学校の文化祭の発表会的要素がまったくなく、芝居のクオリティは別にして、たとえばわたしが年に一度楽しみにしている「唐組」など、一般の劇団の公演を見るのと同じぐらい刺激的で官能的な芝居を見せてくれるのです。
それはおそらく、学校の文化祭や福祉施設の発表会などとちがい、出演者の演技が誰にもチェッされず、あくまでもその芝居を物語り、構成する登場人物を演じる役者としてわたしたち観客に圧倒的なパワーでせまってくるからです。
そこではすでに、この劇団の出自である「障害者の自己表現」とか「障害のある人もない人も共につくる」というコンセプトから大きく逸脱し、「どうにも止まらない」彼女たち彼たちの「芝居力」、「表現力」によって100人を超える観客を劇的空間に誘い込むのでした。
身体表現と演技力もさることながら、役者全員が日常においても、また非日常の芝居においてもお互いを全面的に信頼していることが伝わり、この劇団がいい意味で徒党集団であることを証明しています。
また、ひとりひとりの実際のキャラクターに合わせたキャスティングと、自分自身を演じる役者たちの道しるべといった方がいいかもしれない台本は、テレビでいま流行りのアイドルやバラエティー番組を取り込んだ、その時その時の旬の流行り言葉を連発し、「ごっこ」を越えたアクションを繰り広げながら、障害者劇団だからこそ気づかせてくれる社会の裂け目を容赦なくえぐる問題作を世に問うてきました。
今回の芝居「HEY YO YOKAIにようかい?」は大きな西洋式の棺がある妖怪養成学校が舞台で、首が伸びなくなったろくろ、成長とともに二つ目になったしまった一つ目小僧、顔があるのにのっぺらぼう扱いされている少女、飛べないキョンシー兄弟、貞子の座を狙って競っているキムサダと貞子ちゃんが、砂かけを武器にしている砂かけ師匠のもとで修業しています。
間違っているかもしれませんがおおまかなあらすじをたどると、実はその学校は棺を境界にしたあの世とこの世の出入り口で、この世の番人が師匠、あの世の番人がトイレの花子さんになれないひつぎのなぜこ(「なぜ」と質問すると大きなエネルギーを発する)で、なぜこはひつぎに棲み、年の数だけ叩くと棺を開けるのでした。
この物語ではあと一人、ホラー人形になれないチャッキーという名の孤独な少年がいて、少年は幼いころに母親と死に別れていて、その母親とは花子さんで、花子さんは邪悪な妖怪を封じ込め、あの世で身体のない思念体となっていました。
母親に会い、どうしても伝えたいことがあると養成学校に潜り込んだチャッキーは、邪悪な妖怪に身体と心を乗っ取られ、人間にも妖怪にもなり損ねている仲間の妖怪狩りに手を染めます。
チャッキーがあの世にいる母親に会うためにわざと邪悪な妖怪に身体を乗っ取られ、仲間を裏切ったことを知ったまぜこは、気絶するチャッキーを抱えてあの世に連れ去ります。
そのことを知った仲間の妖怪もまた、チャッキーを助けようとみんなであの世に行くのでした。
バトルの末に、もう一度邪悪な妖怪を封じ込めた母親とチャッキーが再会し、母親が「世界でお前が一番好きだよ」と告げると、チャッキーは「あの時にどうしても言えなかったんだ。ぼくも母さんが世界で一番好きだよ」といいます。そして、なぜこに乗り移った母親・花子とチャッキーは強く抱きしめあいます。このシーンでは、思わず涙が出ました。
しかしながらその再会はまた、きちんと別れが言えなかったチャッキーと母親のほんとうの別れでもありました。母親は邪悪な妖怪を封じ込めたまま、思念体から本当の死を受け入れます。
そして、みんなはまた棺をくぐりぬけてこの世にもどってくるのでした。
落ちこぼれの妖怪たちの養成学校という舞台設定も、人間で妖怪でもないという人物設定もとても面白く、障害を個性とする多様な街や社会を求めるこの劇団の思想が役者たちの怖いものなしの演技によって具現化されていました。
また、あの世とこの世の境界線で繰り広げられる裏切りと友情、悪意と善意、生と死、母親との別れと少年の自立などなど、さまざまな感情がぶつかり溶け合い、赦しあい、助け合いながら、とてつもなく楽観的な人生の荒野を、彼女たち彼たちは疾走するのでした。
笑いあり、涙あり、アクションありの痛快純情活劇集団「劇団でこじるしー」の第7回公演「HEY YO YOKAIにようかい?」は、またひとつ、記憶に残る伝説をつくりました。

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