ささやかなマスクづくりとガンジーの糸車と中村哲さん

いよいよ非常事態宣言が出されました。
都市部を中心に新型コロナウイルス感染者数が一気に増え、感染経路もわからない現状から、東京都や大阪府、民間の業者や経済団体、マスコミなどの催促包囲網の中で、遅すぎたという意見もふくめて緊急事態宣言に賛同する人が多いのも事実でしょう。
世界であっという間に蔓延し、感染者数が4月7日現在で140万人、亡くなった人も8万人に及ぶ惨状を目の当たりにすれば、非常事態宣言は感染がこれ以上広がらず、死者を出さないためにわたしたち自身相当の覚悟が必要というメッセージなのでしょう。
罰則を伴わないものであっても非常事態宣言は国民の私権を制限するもので、今回の安倍政権の慎重な対応はたとえそれが補償を渋るものであったとしても妥当なものであったのかもしれません。しかしながら非常事態宣言を出さないまでも自粛要請に伴う休業補償や所得補償を同時にされていたら、事態は少し違っていたのではないかと思います。そして、非常事態宣言のもとでも補償がないのならこんなに理不尽なことはありません。
一か月をめどに8割の接触をなくすという言い方よりも、所得補償をしてでも仕事に行くなという強いメッセージを出さないと感染爆発は免れないという声が高まる中、30万円の現金給付が全体の2割程度の所帯にしか届かず、また所帯単位でなく個人給付にしないとたとえば夫のDVから逃れている女性には届かないと思います。
また、国や自治体から求められる前に客足が途絶えて休業に追い込まれるお店や営業不振で立ち行かなくなった個人事業主や零細企業、さらには私権を制限されることを受け入れ、未曽有の困難を乗り越えるために自主的に休業するお店に報いる休業補償がされないとしたら、国や政治の役割とは何なんでしょうか。
とにもかくにも日本人の国民性に期待する自粛によってこの困難を乗り越えることができるのなら世界に類のないすばらしいことなのかもしれませんが、お店や映画館、ライブハウスなど日銭が入らず途方に暮れるお店や従業員、さらにはライブや舞台で収入を得るミュージシャンや役者など数えきれない人々の犠牲の上に成り立つ状況を政治の力で打ち破り、早急に補償を具体化してほしいと願うばかりです。
先日の記事にも書きましたが、新型コロナウイルスの恐怖は感染する恐怖だけではなく、誰かを感染させる恐怖でもあります。すでに自粛だけでは抑えきれず都市封鎖に準ずるような強権の発動もやむなしという声も上がっています。国や自治体を批判しているうちに「強権の発動」を求めてしまう恐怖はずいぶん前に読んだつげ義春の「ねじ式」を想起させ、心の震えが止まりません。
地域の子どもたちや大人たちの居場所として、妻がやりくりしているリサイクルと手づくりの店「せ~のっ!」では、近所のひとたちと妻がつくった手づくりのマスクが大ヒットしています。売り上げもさることながら、作り手もそれを買い求めに来るひとも、これをきっかけにグローバルな市場経済をかけめぐる商品やお金とちがい、作り手がまた買い手となり、買い手がまた作り手となる「顔の見える経済」を共につくりだしていて、コロナショックの後の世界経済もローカルな経済も、案外マスクづくりのようなささやかな作業が「もうひとつの市場」をつくり、ともに生きる希望をたがやすことになるのかもしれません。
わたしは昔工場で働いていたことが嘘のように不器用で、はたで見てただただびっくりするばかりですが、そういえば箕面の豊能障害者労働センターで活動していた頃、2001年のアメリカ同時多発テロで世界が騒然としていた時、ガンジーの糸車に着想して「善きことはゆっくりとやってくる」というメッセージとともに「こころTシャツ」をつくったことを思い出します。
植民地時代のインドでは、農民が作った綿をイギリスが安価で買い入れ、それをもとに英国の機械で作られた綿布を製品として輸入していました。ガンジーは、独立運動のビジョンとして、糸車をまわし、綿から糸を紡ぎ、手作業で綿布にし、自らの服を作ることをすすめました。一連の手作業を通してインドの人々の仕事を取り戻すことを実践して見せたのでした。
昨年暗殺されてしまった中村哲さんのアフガニスタンでの用水路づくりもまた、毎日600人の農民たちが働き、スコップや鍬などによる手作業から始まったこともガンジーの糸車と同じく、ハイテクならぬローテクが労働をシェアし、利益や給料もわけあい、「より早く」から「よりゆっくり」、グローバリゼーションからローカルネットワーク、都市集中から地方の再生へと、長い間世界を席巻し続けてきたネオリアリズム・新自由主義からの解放が実現するために、今も奪われつづける無数のいのちと未曽有の苦しみという、こんなにも大きな代償をはらわなければならないのでしょうか。

ささやかなマスクづくりとガンジーの糸車と中村哲さん” に対して2件のコメントがあります。

  1. S.N より:

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    tunehiko 様
    新型コロナウイルスのニュースを連日見ていてどのように自分なりに折り合いをつけていけばいいのか思い悩んでいました。この記事を読ませていただいて、自分なりに考え思っていたことが少しは整理できそうです。ありがとうございました。
    新型コロナウイルスの試練によって、世界がよい方に変わっていけばいいですね。これは、人類に対する人知を超えた警告のように思います。
    あと、島津亜矢さんが新・BS日本のうたで歌った「今あなたにうたいたい」が素晴らしかったですね!
    私の妻も家族や友人に手作りマスクを作って配っています。
    いつも楽しみにしていますのでこれからもよろしくお願いします。
    どうぞお体を大切になさってください。

  2. tunehiko より:

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    S.N様
    ご無沙汰しています。どうされているかなと思っていました。
    わたしの住む大阪もどんどん状況が悪くなり、これからどうなるのか心配です。人生の黄昏に、もうひとつこんな大きな出来事がまっているとは思いませんでした。自分が「高齢者」であることもいやというほど自覚させられました。友達に会いたいと思うことがいま慎まなくてはならないなんて、ほんとうにかなしいことです。島津亜矢さんの新歌舞伎座公演楽しみにしていたんですが、残念です。

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