国会議員は単なる個人事業主? 重度障害者の議員活動を必要とするのは国会

参議院選挙で当選したれいわ新選組の舩後靖彦議員と木村英子議員は、重い障害がある人の生活全般をサポートする「重度訪問介護」のサービスを受けています。今の国の制度では通勤や仕事中にサービスを利用することはできず、2人は支援の継続を求めていました。参議院の議院運営委員会の理事会は今後の対応を巡って協議し、民間の企業で働く人との公平性などについて意見が出ましたが、当面の間は参議院が費用を負担することを決めました。将来的に費用をどこが負担するかについては参議院と厚生労働省で協議を続け、年度内に結論を出すとしています。2人は仕事中を対象外とする制度そのものの見直しを求めていて、参院議運委理事会は政府に対し、速やかな制度見直しを求めることで一致したようです。
2006年の障害者自立支援法や国連の障害者の権利条約などをふまえ、障害者の生活をサポートする制度は大きく変わり、現在に至っています。その中で「重度訪問介護」は、重度と言われる障害者の自立生活を支える重要なサービスで、わたしの友人や知り合いの障害者もこの制度を利用して自立生活をしています。
障害者自立支援法の導入による自己負担をめぐっては、働く場から遠ざけられ、年金収入からねん出するのは理不尽ではないかと障害当事者から指摘されましたが、とにもかくにも家族や協力者たちの無償介護から脱却し、国が障害者の介護保障を持続可能な制度設計のもとで実行することになったという点では画期的なものでもありました。
しかしながら、その後障害者総合支援法と改名され、幾度かの改正があってもなお、重度といわれる障害者の就労に関しては福祉施策からも労働施策からも見放されたまま現在に至っています。半世紀にわたり障害者の就労の権利を獲得する運動が主張しつづけ、実現していない就労の場での介護保障の問題が、今回、船後さんと木村さんが国会議員となったことで大きな論議となり、新しい制度の創設もふくむ障害者の働く権利を確立する大きな一歩となることを期待します。その意味で、重度障害者が国会議員の仕事ができるのかという声もある中で、初登院の前にすでに政治家としての大きな仕事をなしとげつつある2人に敬意を表したいと思います。
さて、当面参議院で介護費用を捻出することになったことに、日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は「どなたにも適用できるよう制度全体を変えるならいいが、国会議員だからといって特別扱いするのは違う」と述べ、自己負担で賄うべきだとの考えを示しました。松井氏は「国会議員は高額所得でスタッフも付く。政治家は個人事業主だから、事業主の責任で(費用支出に)対応すべきだ」と主張しました。
制度全体を変えるべきという主張はもっともですが、「政治家は個人事業主だから自己負担すべき」という主張を平然と公表するこの人を、政治家として許しがたいと強く思います。国会議員は選挙で国民から請託をうけたミッションや約束を実行してもらうために必要とされる所得を得ているのであって、自分の介護保障などに使ってもらってはいけないという、ごく当たり前のことを忘れているのではないでしょうか。
極論ですが、もし松井氏が言うように議員報酬から介護費用を支払うのであれば、それを払わなくてもよい議員の所得が高すぎるわけで、「身を切る改革」を党是とされるのならその相当分を返上してもらわなければ筋が通りません。
この問題の報道では、公明党の山口代表はまっとうな意見を述べられましたが、自民党も無駄遣いはやめようと発言しています。障害を持つ議員が国会ですべての議員と対等に活動するための費用を無駄遣いとは何事でしょう。このひとたちの発言は重度障害を持つ議員を選挙で選ばれた対等な国会議員として(無意識かもしれませんが)認めない、はなはだ人権侵害にかぎりなく近い発言だと思います。
「国会議員を特別扱いしない」というのもおかしな論理で、この2人の政治家としての活動にまで支障をきたす介護保障制度の貧困を50年も障害者に押し付けてきた政治責任は、国会と国会に席を持ってきたすべての議員にあり、それを早急に見直すことを提案するこのふたりの議員を必要とするのは国会にあるのですから、「国会議員を特別扱い」するのではなく、「国会を特別扱い」しなくてよい、障害者の就労をサポートする制度改革を実行してほしいと思います。

話を戻して、「障害者の就労保障」ですが、2人りが求めている「重度訪問介護」をはじめとする福祉制度を限りなく労働の場に持ち込む方がいいのか、わたしにはよくわからないのです。というのも、障害者の就労問題は本来労働行政と福祉行政が協働するべきではないかと思うからです。「重度訪問介護」という名称が表しているように、常時介護を必要とする障害者の在宅福祉サービスからの延長に外出時の移動介護が含まれているので、本来の就労の場での介護保障を労働行政が打ち出すべきではないかと思います。
2人が言うように、就労の場の介護保障は雇用の場が行うことになっている今の制度では、一般企業が障害者を雇用するには敷居が高く、自力で通勤できる比較的軽度と言われる障害者でないと就労は難しいと思われるからです。
このことについては、40年ほど前に箕面市の豊能障害者労働センターの運動にかかわる中で、箕面市独自の制度のもとで「就労の場の介護保障」がかろうじて実現したものの、国の制度としては確立されないままになっています。
これを機会にもう一度、障害者の就労の権利と豊能障害者労働センターの活動について次の機会に考えたいと思います。

それと、気になることとして、維新の会や自民党のように今の政治のプレイヤーの中からも今回のような発言が出たりするのですから、ネットでは誹謗中傷が繰り返されることでしょう。2人がそんなことを気にするとも思えませんが、「ひとりの敵がいたら味方は100人いる」という名言を信じて、めげずに活動を続けてほしいと思います。

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