そして、この一票を獲得するために死んでいった人々のために…。

いよいよ今日は衆議院選挙の投票日です。
今回の選挙では消費税や教育無償化、北朝鮮問題のただなかでの安全保障論議、憲法9条をふくむ改憲論議などが争点とされています。
しかしながら、わたしは戦後当たり前に思ってきた平和憲法と民主主義の危機を前にして、わたしたち国民が国の未来を担う子どもたちにどんな社会を用意できるのかを考える選挙なのだと思います。
選挙結果がどうなるのかが注目されますが、わたしはそれよりも投票率が50パーセントを割らないかとても心配です。とくに選挙権を得たばかりの18歳のひともふくめて、若い人たちの投票率が30パーセント代とすでに3分の1になっていることが、いちばんの危機だと思うのです。それほど政治は若い人に夢も希望も期待も届けられなくなっているからでしょう。
おりしも、AKBのCD約600枚が山中に捨てられていた事件がありましたが、AKBの総選挙の投票権を求めるためだけに購入されたCDは、少女たちの歌唱力とはまったく関係のないところでランク付けするという人権侵害ゲームの残骸で、そこには音楽業界のひずみだけでなく、刹那的で非寛容な政治をふくむ今の社会のありようを証明していると思います。そんなにしてまで自分の好きなアイドルをAKBという小さな社会の中の上位に立たせたいと願う切ない気持を、今の政治が受け止めることができるはずはないのでしょう。
しかしながら、「セカイノオワリ」やインディーズのバンドからジャニーズやAKBのアイドルまで、若いひとを虜にするムーブメントの方にこそ若い人の「政治的関心」があることは間違いなく、今の政治が彼女たち彼たちの心に届くビジョンをつくらなければその若者たちの未来も国の未来も救えないのだとしたら、わたしもまた途方に暮れてしまいながらもアタックする糸口を見つけなければと思います。

最近映画にもなりましたが、1913年のイギリスで、エプソム・ダービーのレース・コースに1人の女性が身を投じた事件がありました。イギリスでの女性参政権を求める抗議の自死でした。実は彼女をふくむ女性たちの粘り強くかつ過激な人権運動があり、この事件はより社会に訴えようとした彼女のいのちをかけた行為だったのでした。当時は彼女たちの運動は迫害をうけましたが、1918年に35歳以上、1928年に21歳以上の女性の参政権が獲得されたのでした。
世界ではイギリスもふくめて1900年から1920年代に女性参政権を求める運動が起こり、参政権を獲得しましたが、日本でも同時期に運動がすすめられました。
1946年、戦後最初の選挙ではじめて女性の参政権が認められ、晴れ着をきた女性や、子供をおんぶした女性たちが投票所に駆け付けました。
女性の参政権が戦後民主主義によって与えられたのではなく、さまざまな迫害をうけながら参政権獲得の運動が続けられた果てに獲得されたことを、わたしは最近まで知りませんでした。

明治44年生まれのわたしの母は、戦前結婚したものの夫と死別し、戦後、旅館の仲居をしていたころ妻子ある父と知り合い、兄と私を生みました。
愛人であることを拒み、経済的援助を受けずにシングルマザーとして、わたしたちを育ててくれました。
近所の工員さんを相手に、今でいうモーニングサービスでご飯とみそ汁を提供し、夜は深夜1時ぐらいまで働き、また嵐の朝を迎えるという暮らしで、片手に山ほど盛られた薬を飲み体を痛め、命を削りながら、わたしを高校まで行かせてくれました。
そんな彼女は、わたしたち子どもが政治の話をすると、「シーッ」と声を潜め、「特高警察がひそんでいるから、めったなことは家の中でもいったらだめ」と起こるのでした。「おかあちゃん、いまもう特高なんかないで」といっても信じてくれませんでした。
そんなわけで、わたしの家では長い間、政治の話はタブーでしたが、ずいぶん経ったある時、彼女が当時の社会党にずっと投票していたことがわかりました。
それからまたずっとのち、私が20歳になり投票権を得たころ、当時すこし流行っていた投票拒否運動の話をして、傲慢にも知ったかぶりして「投票に行かないことで抗議する」とうそぶくとすごく怒り、「あんたはどこでそんなことを学んだか知らんけど、投票に行かないなんて絶対だめや」といいました。
それ以上、その話はしませんでしたが、すでになくなって20年になりますが、その時の母親の気持ちを察すると涙が出てくるのです。
たかが一票というけれど、戦前選挙権を与えられていなかった母親が感じていた世のなかの理不尽さを誰に話すこともできなかった悔しさを知る由もないのですが、世の中の在り方への意思表示を、はじめて投票用紙という小さな紙に書いたとき、彼女が何を思い何を夢見たのか…。
いまでも、世界の国々で一票を投じるのにいのちがけという地域もあると聞きます。
ですから、もしこの手紙を読んでくださったひとで、投票所の行かれていない方へのお願いです。
投票しに行きましょう。あなたのために、あなたの未来のために、あなたの子どもたちのために、そして、この一票を獲得するために死んでいったたくさんの人々のために…。

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