世界を変える若い力、音楽に力があるならば。堀江トリオ

200年の時をくぐりぬけて届いた愛と祈りの音楽

 11月25日は、堀江トリオのコンサートに行きました。
 このコンサートは、ともに歩む「結みのお」の主催で開かれました。「結みのお」は2009年に誕生し、現在200人の会員が集い、誰もが生き生き暮らせるように助け合い活動やバザー、イベントなど地域の交流を深める活動をされています。
 コンサートは11回目ということで、ちなみに11月4日は箕面市在住のヴァイオリニスト・横山亜美さんがピアニスト・武田直子さんと共演し、子どもが自由に参加できるコンサートがあり、また23日には「劇団でこじるしー」の公演と、11月に3度も紅葉狩りとはちがう箕面詣でをしてしまいました。
 堀江トリオを聴くのは今回3回目で、これまでの2回はいずれも豊中市岡町の桜の庄兵衛で開かれたコンサートでした。特に2度目は、桜の庄兵衛さんが米蔵をコンサート会場に再生されたこけら落としのコンサートでした。
 チェロの堀江牧夫さん、ヴァイオリンの堀江恵太さん、ピアノの堀江詩葉さんの堀江兄弟妹によるコンサートは、桜の庄兵衛でもチケットがとりにくい人気のコンサートで、こけら落としの時はいつもお願いしている昼の部は即完売で、夜の部に変更してやっととれた次第でした。
 クラシックのことを全く知らないわたしでも彼女彼らの演奏を聴くと、その満ち溢れる若さと瑞々しい演奏に圧倒されます。もちろん、演奏力もクラシックの演奏家が避けて通れない膨大な時間を費やした練習に裏付けられたものがあるのでしょうが、それよりも、どこまでも遠く走り抜けていく若さとその未来が、年老いたわたしの生きてきた時代を一気に飛び越えて、新しい時代の息吹を感じさせてくれるのでした。
 そして、わたしもまた10代の終わりから20代へと、時代の砂浜に足跡だけを残して走り抜けた青春のきらめきと数々の別れを思い出し、懐かしさと切なさに胸が痛くなります。

吉田馨さんのこと、桜の庄兵衛さんのこと

 わたしにクラシックのすばらしさを教えてくれたのはドイツで活動するヴィオラ奏者の吉田馨さんで、彼女が演奏するコンサートに参加したことがきっかけで、幾多の名演を届けてくれる桜の庄兵衛さんとの出会いもありました。2015年のことでした。
 そのときよりは少しだけクラシック音楽になじむようになりましたが、いまだにクラシックの作曲家も楽曲もほとんど知らないのが正直なところです。それでも、曲がりなりに室内楽の演奏会に何度も参加できるようになったのは桜の庄兵衛さんのおかげで、とても感謝しています。
 さて、3度目になる今回の演奏会では、詩葉さんのピアノに強い印象を持ちました。これまでは牧生さんのチェロと恵太さんのヴァイオリンに気持ちが傾きがちで、詩葉さんの美しいピアノが広がる風景を描くという印象でしたが、今回の演奏ではピアノが前面に踊り出るような存在感がありました。そういえば勘違いかも知れませんが、わたしが詩葉さんのピアノソロを聴くのは今回が初めてのような気がします。
 この日の演奏の第一部は、ベートーヴェンが1797年に作曲したピアノ三重奏第4番「街の歌」の第一楽章で始まりました。すでに名声を高めていた20代後半の若きベートーヴェンの満ち溢れる才能がその後、時代と音楽の風景を変えていくことになる予感が、彼女彼らの演奏によってよみがえりました。
 本人たちそれぞれの多彩な演奏活動の中で、堀江兄弟妹のユニット「堀江トリオ」がどんな立ち位置なのかは知るすべもありませんが、今回の演奏を聴かせてもらい、あらためてこのユニットがそれぞれにとってやはり大きな意味を持っていると感じました。
 第一部はその後、ピアノソロ、ヴァイオリンとピアノ、チェロとピアノでよく知られた楽曲の演奏が続きました。もっともわたしには知らない曲がほとんどでしたが…。

メンデルスゾーンの短すぎる人生が放つ青春のきらめきと若き演奏者たち

 休憩を挟んで第二部は、メンデルスゾーンのピアノ三重奏第一番を第四楽章までフル演奏しました。
 第一部のベートーヴェンを聴いて予想していた以上の演奏でした。わたし個人の印象ですが、とにかくピアノとヴァイオリンとチェロがお互いを高めあい、何億粒の音粒たちが聴く者の心と体に押し寄せるようでした。時には海のようにやさしく、時には山のようにけわしく…。
 この楽曲は38歳という若さで亡くなったメンデルスゾーンの30歳の時の作品だということですが、生き急ぐように早くに亡くなってしまった数々の才能の中でも、このひとの音楽ほどわたしに決して明るくなかった青春の疼きと渇きをよみがえらせる「痛い音楽」はありません。この楽曲ともう一つ有名な弦楽四重奏ホ短調は、残り少ないと思えるわたしの人生を切ない青春と枯れそうな恋心で彩ってくれることになるでしょう。ほんとうに8年前にクラシック音楽のごくごく一部にしても、出会えてよかった、間に合ってよかったとつくづく思います。
 わたしは音楽を癒やしで語ることはあまり好きではないのですが、時と記憶の芸術である音楽が世界のいたるところで起こる紛争や災害のがれきの下から立ち上り、ひとつぶの涙さえも、また理不尽に奪われたかけがえのない愛おしい命までもひとつひとつの音に変え、若き演奏家たちが悲惨な現実の向こう側にあるかもしれない一本の希望の弦を撃ち震わせる時が来ることを信じてやみません。
 音楽に、クラシック音楽に力があるとすれば、彼女彼らの演奏は、世界各地の様々な分野で芽生えつつある「世界を変える」若く大きな力の一つになることでしょう。
 今回もまた専門的なことをまったく知らないまま感じたことを書いてしまい、演奏家にも主催者にも申し訳ないと思います。お許しください。

ありがとう、箕面文化・交流センター

 コンサート会場の箕面文化・交流センターは来年から建て替え工事のため取り壊しとなり、結みのおコンサートも吉田馨さんたちのチャリティ・コンサートも来年からは違う会場で開くことになります。
 箕面駅前サンプラザの8階にあったこの会場で、わたしもまた箕面在住の時はいくつかのコンサートなどイベントをしてきました。豊能障害者労働センターの設立をバックアップした「国際障害者年箕面市民会議」の1980年結成イベントもこの会場でした。思えば市民がすすめる箕面の障害者運動はこの会場から始まったといっても過言ではありません。
 また、1987年の豊能障害者労働センター5周年・事務所移転基金発足記念として、今は被災障害者支援・ゆめ風基金の呼びかけ人代表の小室等さんと長谷川きよしさんを招いたコンサートも、1998年の豊能障害者労働センターの通信販売事業・プラスWeTシャツ発売記念コンサートで長谷川きよしさんとパーカッションのヤヒロ・トモヒロさんを招いたコンサートもこの会場でした。
 8階の会場のロビーから見る箕面の山は秋色に染まり、43年間の歴史を記憶に焼き付けて会場を後にしました。