島津亜矢・BS朝日「日本の名曲 人生、歌がある」

1月7日、BS朝日の「日本の名曲 人生、歌がある」に島津亜矢が出演し、4曲を熱唱しました。「帰らんちゃよか」はソロで、「山河」は布施明と、「涙の連絡船」は都はるみと、「かあさんへ」は吉幾三とのコラボレーションでした。4時間という長い番組でしたが、飽きることのまったくない充実した番組ででした。
以前にも書いてきましたが、この番組は他の音楽番組と一線を画したコンセプトを持っていて、五木ひろしが司会だけでなく番組づくりにも加わっているようです。歌を大切にし、出演する歌手を礼儀と尊敬を持って招き、丁寧な歌の紹介もある際立った特徴を持った番組です。
また最近の歌番組では長くて2番まで、時には1番とサビの繰り返しで終わってしまうのに対し、ほとんどが生バンドによるフルコーラスで、視聴者に名曲を楽しんでもらいたいという五木ひろしの強い願いが込められています。
それは裏を返せばJポップの中でもアイドルに席巻される音楽シーンにうずもれ、中高年のカラオケをたよりに「そこそこのヒット曲」を歌い続けることに危機感を持った五木ひろしが、歌と真摯に向き合い、名曲をきちんと聴いてもらうためのプロデュースに本格的に踏み出したとも言えます。あまり芸能界の裏話に関心はないのですが、森進一をはじめ、ライバルたちと切磋琢磨してきた苦闘の年月を通り過ぎた今、自分の歌だけをまじめに歌うだけではだめで、後輩の歌手を育て、埋もれた名曲やかつてのヒット曲、そして今が旬のすぐれた歌を視聴者に届けようと決意したのだと思います。
そんな五木ひろしの思いに賛同し、出演する歌手たちは格別の緊張感を保ち、オリジナル曲でもカバー曲でも一生懸命に歌う姿が画面からもあふれ出ています。おそらくもう少し時がたち、BS放送の視聴者がもっと増えればこの番組からヒット曲が生まれたり新人歌手が輩出される予感がします。
しかしながら、そんな図抜けた番組ですらどうしても出演する歌手が限られてしまうのはやむを得ないことで、ややもすると仲良し番組になってしまう危険もはらんでいることも正直なところあります。その中でも島津亜矢は残念ながら出演回数が少なく、この番組のコンセプトからすれば今常連で出演している歌手と同じぐらい出演すれば、この番組の意図がもっとはっきり視聴者に伝わると私は思います。誤解を恐れずもう少し踏み込んで言えば、五木ひろしとこの番組の制作チームの覚悟がどれほどのものかは、今後の島津亜矢の出演回数が物語ると言っても過言ではないのです。
島津亜矢は16歳のデビュー当時からそのはかり知れない声量と巧みな歌唱力で周りを圧倒してきましたが、その長い歌手歴をたどれば音楽シーンの劇的な変化の波に見舞われ、決して平たんな道のりではなかったと思います。ただひとつの救いは稀代の作詞家だった星野哲郎と巡り合えたことと、全国各地で彼女の歌を待ち続けるひとたちのささえが彼女を励まし、持って生まれた天賦の才能を鈍らせないひたむきさと努力を積み重ねてきたはずです。30年に及ぶ長い時は、彼女をただ単に「声量のある、歌の上手い歌手」から人間としても女性としても歌手としても大きく成長させ、若い時の怖いもの知らずに「歌い切る」歌手から聴く者の心のひだにしみわたり、ほんとうに歌を必要とする人間に届く歌を「歌い残す」歌手へと変貌させたのだと私は思います。
今回の放送でも並外れた歌唱力と天性の美しい声と、さりげない中にも他の歌い手さんを気遣う人間的な魅力にあふれていて、この番組にもっともふさわしい歌手であることを証明して余りあるものがありました。
最初に歌った「帰らんちゃよか」については何度も書いてきましたので簡単に触れようと思いますが、ファンの方々もおっしゃるように久しぶりにフルコーラスで聴かせてもらいました。島津亜矢はどれだけ歌を端折っても深みのある歌にしてくれるのですが、この歌のような物語性が強い歌の場合は、やはりフルコーラスで聴きたいものです。
この歌に限らず、もともとのマックスを保っている声量の自在なコントロールもその圧倒的な歌唱力も声色の多様さも、島津亜矢のここ数年の進化と言うか変化が激しいので、若いころに完成していたと思われる歌も今聴くと最高という状態が続いていますので、ぜいたくをいえばみんな歌い直してもらいたいと思うほどです。
続いての「山河」は五木ひろしトリビュートコーナーでの一曲で、布施明とのコラボレーションでした。「山河」は五木ひろしがスケールの大きな曲をと依頼し、小椋佳が作詞・堀内孝雄作曲による2000年に発売された歌です。小椋佳については寺山修司がきっかけで「しおさいの詩」でデビューしたことなどを以前にも書きましたが、わたしはその頃は三上寛が命で、後に小室等のファンになったもののフォークソングにもニューミュージックにもそれほど関心がなかったのですが、小椋佳だけはとても気になる存在でした。
このひとは青春まっただ中にいてすでに「失われていく青春」を歌い、後の村上春樹の小説のように「取り返しのつかない喪失感」を抒情と哲学的な歌詞でつづる、異色の存在でした。島津亜矢も歌の提供を受けていたのですが、すぐに阿久悠の遺作詩のアルバムが発売されて、タイミングが悪く彼女の数多くの埋もれた名曲のひとつになってしまっています。
わたしは数々の小椋佳の傑作の中でも「函館山から」と「山河」を日本が世界に誇る名曲と思っているのですが、この歌を島津亜矢が若い時にNHKの「BS日本のうた」で熱唱しているのをユーチューブで観ることができます。
わたしは2009年に島津亜矢のファンになって以来、コンサートでも音楽番組でもこの歌を歌ってくれないかと思い続けてきましたが、コンサートで一番だけを歌った程度で、今回やっとアルバム「BS日本のうた8」に収録されたところです。この歌をほんとうに歌うとなるとフルコーラスでないと意味がないので音楽番組には向かないこともあるでしょうが、これはわたしの思い違いかも知れませんが、やはり五木ひろしへの遠慮が働いていたのではないでしょうか。五木ひろしもまたこの歌へのこだわりが強く、できるならこの歌を他の歌手には歌ってほしくないと思っていたように感じるのですが…。
ですから今回、この歌を島津亜矢に歌わせたのは、五木ひろしが深い意味合いで島津亜矢を認めた証しだとわたしは思います。実際のところ、五木ひろしを前にして島津亜矢はオリジナルをまったく壊さないまま、彼女だからこそ歌える「山河」を歌いました。一番を歌った後、五木ひろしが思わず「うまい!」と声をかけると、目を伏せ後ずさりするように一礼する島津亜矢の人柄にも、心なしか五木ひろしもグッときたのではないでしょうか。
布施明の方は島津亜矢と太刀打ちするには彼らしいポップスしかないと考えたのでしょう、意識的に音をはずし、リズムも変えながら歌いましたが、今回の「山河」については島津亜矢の正調の歌唱法がより強くより深く聴くひとの心に届いたのではないでしょうか。しかもその後二人で斉唱したのですが、布施明は同じように音を意識的にはずし、リズムも行ったり来たりで、必要以上に熱唱するのにまったく動じることもなく、オリジナルに徹した彼女の心意気と、並外れた音楽的な技量にも感動しました。
この歌が終わると他の出演者がいっせいにオマージュの歓声をあげましたが、なによりも五木ひろしが一番感動しているのがよくわかりました。そこにはあらためて島津亜矢に対する信頼感がにじみ出ているように思ったのは、ファンのひいき目でしょうか。
わたしはいつか、NHKの「BS日本のうた」で、五木ひろしと島津亜矢のスペシャルステージが実現し、「山河」を共に歌ってくれることを長年願ってきましたが、今回の放送を観て案外その日はかなり近いのではないかと思います。
歌手である以上、またファンである以上、ヒット曲を望むのは当たり前なのですが、五木ひろしとの信頼関係が深まることから島津亜矢の新しい道もまた開けるような気もします。
ここまでですでに予定の分量をかなり越えてしまいました。次回はこれまた新しい信頼関係を築いたのでないかと思われる都はるみとのコラボレーションによる「涙の連絡船」と、吉幾三との「かあさんへ」について書く予定です。

島津亜矢 布施明「山河」

五木ひろし「山河」

島津亜矢・BS朝日「日本の名曲 人生、歌がある」” に対して6件のコメントがあります。

  1. MORI より:

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    遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
    本年もどうぞよろしくお願いします。

    私も1月7日の番組を最初から最後まで見ましたが、tunehiko様と同じようなことを感じながら見ておりました。
    亜矢姫の出演は今回で4回目ですが、tunehiko様も言われておりますが、一部の歌手は準レギュラーのような形で頻繁に出演されています。
    これは五木さんとの個人的な関係なのか、テレビ局と事務所の関係なのかはよくわかりませんが、芸能界というのは多かれ少なかれそういうことはあるのでしょうね。
    ただ、そういう中でも亜矢姫が出演した時にはそれなりの場は設けてもらっているのではないかと思います。
    五木さんとのスペシャルステージ、期待したいですね。

    1月26日は昼、夜観覧予定です。
    今年もtunehiko様の投稿を楽しみにしております。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    尖閣騒動の煽りで中国の書店から自分の作品が消えたと嘆く、朝日新聞への寄稿を読んで、加害国と被害国との区別もつかぬ村上春樹の幼稚なレベルに驚いた。
    丹念に読むと「騒ぎを煽る政治家や論客」への注意を呼びかけるなど、暗に尖閣の国有化を進めた自国を批判している。
    だから中国メディアはこれを歓迎し、全訳まで配信した。
    その直後にノーベル文学賞を逃したのはよかった。

  3. 池 勝男 より:

    SECRET: 0
    PASS: 225ef567fb44d857a0834dde4a6d2a06
    今晩は。
    テレビ見ました。
    贔屓目ではなく亜矢さんは日本一のディーバです。
    正に歌の女神です。
    題したように亜矢さんは今最高です。
    誰もかなわない。
    亜矢さんの歌は母の懐に抱かれたような
    強さと優しさを持つ歌姫です。
    声が嫋やかで暖かい、暖かく包容力のある声・・・。
    文字にできない。 勿論全て素晴らしい!
    苦労を表に出さない姫様、本当にかっこいい。

  4. 池 勝男 より:

    SECRET: 0
    PASS: 225ef567fb44d857a0834dde4a6d2a06
    文中の嫋やか間違い(たおやか)
    私のパソコンではでない。
    女ヘンに口書いて月です。

  5. tunehiko より:

    SECRET: 0
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    MORI様

    わたしの方こそ、新年のご挨拶が遅れてしまいました。
    今年もよろしくお願いします。
    この間の放送は、久しぶりに大満足でした。
    わたしは昔は森進一のファンで、どちらかというと五木ひろしはその実力も歌への情熱も認めるものの、すこし苦手な歌手でした。
    それでも少しずつ、彼の人間性も理解できるようになってきたのですが、この番組への想いには尊敬に値するものがありますね。
    それにしても、今年は亜矢さんの節目の年でもあるのですが、ようやく長年の努力が実を結ぶような予感がします。新曲のヒットも30周年のリサイタルも、周りの先輩歌手たちの評価も一段と好意的ですね。
    わたしは新歌舞伎座は昼の部に行きます。
    またいつか、お話しできる日を楽しみにしています。

  6. tunehiko より:

    SECRET: 0
    PASS: 04e60c26645b9de1ec72db091b68ec29
    池勝男様

    いつもコメントありがとうございます。
    今年もよろしくお願いします。
    今年は亜矢さんの30周年リサイタルが最高に楽しみです。
    それとは別に座長公演もあるのでしょうか。
    ファンとしても忙しい年になりそうです。

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