島津亜矢と松山千春と「のど自慢」

9月6日の日曜日、「NHKのど自慢」に島津亜矢が松山千春とともにゲスト出演しました。「NHKのど自慢」は毎週全国各地で開かれていますが、今回は松山千春の出身地の北海道足寄町と少し離れていますが浦河町からの放送でした。
松山千春はテレビ出演もたしか最近TBSの「A-STUDIO」に出場したのがめずらしいぐらいですから、「NHKのど自慢」は初出場です。
前回、前々回と出演した全国的アイドルのSMAPとちがい、松山千春はもちろん、全国的にも熱烈なファンがいるシンガー・ソングライターであることはまちがいないでしょうが、なんといってもこのひとの場合は北海道という限られた地域の超スーパースターで、そのローカル性がこのひとの人気を息の長いものにしてきたことは間違いないでしょう。
この番組ではゲストの歌手の歌を歌うひとが必ずいますが、今回は今まで以上に松山千春の歌を歌う人が数多く、「松山千春のど自慢大会」の様相でした。
ゲストが歌う場面では島津亜矢の「独楽」につづき、松山千春はカラオケ演奏ではなく、自らのギターの弾き語りで「生きている」を熱唱しました。
松山千春はデビュー当時結構好きでしたが、有名になった毒舌も総お笑い系バラエティ化してきた今の時代ではそれほど気にならないようになりました。このひとの場合は言葉遣いが乱暴なだけで、基本的にはとてもやさしく、また思想信条は別にしてデビューから一貫した反骨精神と純情ともいえるまっすぐな目線と生き方が「歌うこと」とぶれずにつながっているところが、島津亜矢と相通じるものがあるのではないでしょうか。
テレビ出演しないことでも有名になったひとですが、お客さんを前にしたライブがシンガー・ソングライターの基本だと強く思う気持ちが強く、その意味では島津亜矢もまた全国津々浦々、彼女の歌を必要とするひとの前で歌うライブを基本とした活動をしていて、その点でも2人は共通のものが多々あると思います。
今回の放送は松山千春が「おらが村さにかえって来た」ということが会場の雰囲気を異質なものにしていて、それが嫌味にもならず番組を盛り上げていました。
そもそも今回の番組は浦河町政100年を記念する企画としてあったとも聞きましたが、北島三郎とならぶ北海道のスーパースターの松山千春にゲスト出演を依頼することになったのは、やはり2月の「NHK歌謡コンサート」で「I Will Always Love You」を歌った島津亜矢を松山千春が自身のラジオ番組で大絶賛したことから始まったことはまちがいないところでしょう。
NHKの音楽番組の制作チームがそれを聴きつけ、紅白をはじめテレビに出ない最後の大物と言われる松山千春に、町政100年の北海道浦河町での「のど自慢」に島津亜矢とともに出演してもらうというマッチング(ミスマッチング?)を考えたというのが当たらずとも遠からずではないでしょうか。ですから、NHKのねらいはその先に「SONGS」であるとか、あわよくば「紅白」まで考えているかもしれません。(ただし、松山千春の紅白出場は本人が乗り気になったとしても、「政治的」な活動などで圧力がかかるかも知れません。)
とすれば、島津亜矢は松山千春がテレビ出演することになった功労者で、それだけでも「紅白」に出演依頼がきてもおかしくないほどNHKは島津亜矢に恩義があると思います。
「のど自慢」については以前にも書いてきましたが、戦後1946年1月、ラジオ放送から始まったこの番組は、アマチュアが出る視聴者参加番組として草分け的な番組です。1953年にテレビ放送が開始されと、ラジオとテレビで同時放送されるようになります。
戦後のもっとも厳しい状況で、食べ物をわけてもらうために地方の農村へと殺到するひとびとであふれた買い出し列車や闇市に象徴されるように、今日一日を生きるのに必死だった時代にあってどれだけ多くの人々が歌を必要としたのかが、第一回の放送に応募者が900人以上にもなったことからもうかがえます。島津亜矢のために小椋佳が作詞作曲した「歌路はるかに」の歌詞のように、歌なんて 無くていいもの 無くてもひとは 病んだりしないけれど、歌の一つで 命が救われたりもすることを、「のど自慢」の歴史は今に伝えているのだと思います。
さて、島津亜矢はいつもとちがう会場の雰囲気の中にあって、とても生き生きしていました。何度か出場してきたこの番組ですが、松山千春によってもたらされたいつもとまったくちがう雰囲気のライブ感に加えて、小さな会場に駆け付けたお客さんがいつも以上に「歌を聴く」ことに心を開いていたことで、島津亜矢の歌がより深くより遠くに届いたように感じました。30周年の記念曲「独楽」も何度も歌いこまれてきて、「独楽は心棒 こころも心棒」と歌う彼女のすがたに、ここ何年間の幅広い音楽的冒険を経た懐の深さを隠し、歌の原点にもどるとても透明感のあるすがすがしさを感じました。
番組の放送中は松山千春と島津亜矢との間の目立った会話は伝わりませんでしたが、その分、歌うことでどこかつながっているように思えたのは、これまでのいきさつを知っていたからだけではないように思いました。
番組が終わってすぐに書き込まれた「亜矢姫談話室」という掲示板に、「女性の演歌界で天童よしみと島津亜矢が間違いなく一番と、御大(北島三郎)と細川さん(細川たかし)とかともよく話されてるそうです。そうおっしゃってました。姫のような人が毎年 紅白に出るべきでしょうと。小田切さんも嬉しそうに うなずいてました。浦河の人には縁もゆかりもないだろうけど、これからも島津亜矢を どうぞ応援してくださいとまで。会場内も拍手喝采でした。」とファンの方が報告しています。
そして、その日の松山千春のラジオ番組の内容は大阪に住むわたしはわからないのですが、最初に「独楽」を流してくれたそうです。
今回のマッチングはNHKだけにとどまらず、たとえば30周年リサイタルの特別ゲストで松山千春が出演し「恋」をコラボするとか、反対に松山千春のライブに島津亜矢が特別出演して、「I Will Always Love You」を歌ったりする…、そんなことが実現したらいいなと思います。

島津亜矢「独楽(こま)」

島津亜矢「恋 」(作詞作曲・松山千春)

松山千春「恋 」

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