箕面の冒険 障害者の社会的雇用

最初の記事に加筆修正しました。(6月23日)

昨日6月20日(月曜日)の夜、NHK(Eテレ)「福祉ネットワーク」で「障害者の“働く”を支える-大阪・箕面市 社会的雇用の取り組み-」が放送され、豊能障害者労働センターの障害者スタッフの活動もたくさん紹介されました。
2003年まで豊能障害者労働センターで活動し、現在も非常勤スタッフとてかかわらせてもらっているわたしには、ほとんどすべてがなじみのあるものでしたが、ただひとつとてもびっくりしたのが、運営会議の風景でした。事務所が手狭になったため、近くの障害福祉センターの会議室で行われているのですが、その風景は壮観でした。50人以上はいたでしょうか、障害のある人もない人も参加しているこの映像を見て、これが豊能障害者労働センターの運営を話し合う最高議決機関であると思われた方は数少ないのではないでしょうか。
福祉施設などではおそらくどんなに人数が多くてもその会議の場には障害者はいないと思います。障害のあるひともないひとも、共に運営を担っていることが一目でわかる風景でした。放送では、箕面市の社会的雇用制度では、障害者の職種開拓、障害者スタッフの運営参加、最低賃金の保障という3つの柱を紹介していて、この会議の場面で障害者の運営参加を説明していました。
箕面市の社会的雇用制度は一般企業にも福祉的就労の場(いわゆる授産施設、今はB型就労継続支援事業)にも行かない障害者が半分以上にもなる現状を変える第三の就労の場として箕面市が約20年間取り組んできた政策で、国の制度とするように提案しているものです。
その中心となる賃金保障は、本来は国の障害者就労政策として取り組むべき障害者の所得保障を一市町村が福祉政策として制度化したもので、一般企業より少し賃金が少ないか、場合によっては同等の賃金を保障し、障害者が経営に参加している福祉事業所に賃金補填する全国でもめずらしい画期的な政策です。
放送ではいろいろなお店でいきいき働く障害者の姿とともに、いままで福祉的就労の場(授産施設)で13000円の工賃をもらっていたひとりの障害者の給料が8万円をこえていることや、もらった給料で買い物をしたり、母親にお茶代を奢るところも映していました。
豊能障害者労働センターは30年の長い年月をかけてこの制度の設立と充実に力を注いできました。最初は助成金などはまったくないまま、街頭募金などで得たお金をみんなで分け合っていましたが、いまでも7つのお店と通信販売と社会的雇用制度による助成金で入るお金をみんなで分け合っています。
そして、放送は国の障がい者制度改革推進会議での箕面市長の発言の場面などを映し、この制度が福祉予算の削減につながるという箕面市の提案を紹介しました。
この制度は豊能障害者労働センターの障害者を中心にした当事者の強い要望に基づいてできたこともあり、近隣の市町村にも波及しないまま箕面市単独で続けてきて、とくに昨今は「国にも大阪府にもない制度にお金をつぎ込むのはおかしい」と市議会や市の財政セクションから責められるのを恐れ、「こっそり」と運営してきた経緯がありました。
今の市長がガラス張りの市政方針のもと、この制度を正しく市民に明らかにし、国に提案していることはほんとうにすばらしいことだと思います。
その上で、わたしは箕面市の今回の提案の中で目玉としている「コスト削減」の論理には、大きなまちがいがあると指摘せざるをえません。
提案書の中で、10万人の非就労の障害者が社会的雇用の場で働くと、年間430億円の社会的コストを削減できるとあります。放送では豊能障害者労働センターの代表・小泉祥一さんを例にあげて、福祉的就労の場合より月12万円福祉コストが削減できると主張しています。国にこの制度を創設させるために、コストが下がることは特に今の時流にあったアピールになるのかも知れません。
しかしながら、福祉的就労の場合の職員給料などの運営管理費や生活支援のために派遣するヘルパーの人件費などに対して、社会的雇用の場合のサポートに対する保障は著しく少なく、はっきり言えばここでいうコスト削減は運営管理費の尋常ならぬ低さによって実現したものであるとわたしは思います。
箕面市にそのことを指摘すると、おそらく「事業所と言う以上、運営管理費は事業所でねん出してください」というでしょう。もっともだと思われるかも知れませんが、生活支援なら充分ではないにしても保障されている障害者の介護は社会的雇用の場では保障されていません。その結果、生活支援のヘルパーの人件費や福祉的就労の場の職員の人件費に対する保障など生活支援の場に適用される運営管理費にくらべて、社会的雇用の場に対する運営管理費は著しく少ないのです。
共に働く健全者スタッフの所得保障もふくめて、運営管理費を福祉的就労の場や生活支援サービスの運営管理費まで引き上げてから、福祉コストの比較をするべきです。箕面市が声高に主張する社会的コストの削減が、実は社会的雇用の場の運営管理費の異常な低さ、たとえば豊能障害者労働センターのスタッフで月12万5000円、厚生年金にも入れない劣悪な待遇による貧困を踏み台にしてしか成り立たないのなら、箕面市の主張には大きなごまかしがあり、胸を張って提案できるものではないはずです。
むしろ箕面市は、本来国が多くの責任を持つ障害者の就労を市町村行政としては精いっぱいすすめてきたことを自負し、この制度をより安定した国の政策として、そして他の自治体にも波及する政策として、運営管理費の増額をふくむ充実した社会的雇用政策を提案するべきなのではないでしょうか。現にこの提案書には社会的雇用の課題とともに社会的雇用政策がもたらす可能性と、これからの障害者福祉の変革もまた提示されています。
しかしながら、運営管理費の低さから箕面市の社会的雇用制度は風前のともしびで、この制度のもとで活動してきた2つの事業所がつづけてB型就労継続支援事業(授産施設)への移行を検討しているところです。また今年度で大阪府の作業所制度が終了するのに伴い、障害者の手に少しで多く給料を乗せようとしてきた箕面市独自の作業所もB型就労継続支援事業(授産施設)の方向に進んでいて、かろうじて一か所が社会的雇用の場に移りたいと表明しているのみです。
もともとこの制度を要求した豊能障害者労働センターは、当時の授産施設で一緒に仕事をしているのに、健全者職員は指導員として給料を得て、障害者はそのころで月1万円にも満たない工賃しか手に乗らないのはおかしいのではないか。障害者も健全者も給料を分けあって、みんなで助け合って暮らしていこうという考えで経営を始めました。その考え方はまっとうだと思うのですが、その当時も今も、障害者を保護訓練指導する健全者の給料やその他の管理費としてしか福祉助成金は出ないだけでなく、そのお金を障害者に配ると違反行為となると知って、豊能障害者労働センターは障害者の人権を侵害しているともいえるそんな福祉の金なんかいらないと、助成金なしで活動をはじめたのでした。
乱暴な提案をすれば、今の福祉施設でも人件費をすべて障害のあるひともないひともみんなで分け合えば、箕面の社会的雇用の現場によく似た運営形態になるのです。
それでは、豊能障害者労働センターなど社会的雇用の場の人件費がまっとうになり、少なくとも箕面市の主張するコスト削減効果がなくなれば、社会的雇用制度は無意味なものになるのでしょうか。
箕面市長はブログで「結果として、今は国の支援なしに箕面市単独で制度を維持し続けている状態。このことは制度維持力の脆弱さ・・・すなわち箕面市財政の逼迫とともに、いずれ同制度が縮小・廃止とならざるを得ない厳しい現実と直結しています。いくら素晴らしい制度であっても、他の福祉制度には国・府の支援が入ってくるため、箕面市単独の税支出額を比較すると、この箕面市独自の制度だけが大幅に不均衡な支出となり突出する状態。これでは、いずれは持続不能となることが目に見えています。」と述べています。
国から支援がなければ廃止するというなら、結局はこの独自制度を持て余して、国にも負担してほしいというためだけに提案しているという市長の本音が見えます。
市長もこの提案の実務を担当したひとも、まったくこの制度のことがわかっていないことに失望しました。
さて、それではわたしたちはこの制度をどう評価しているのかを書いてみたいと思いますが、長くなりますので、いったんここまでを掲載したいと思います。
つづけてこの続きを書きたいと思います。

「社会的雇用」による障害者の自立支援(箕面市提案)

箕面の冒険 障害者の社会的雇用” に対して1件のコメントがあります。

  1. 9月の夏は終わり?

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    ぐらいにしていたのが、夕方には前線が南下してきて26C゚ぐらい
    になりました。
    電気の力をあれだけ使って涼しくしたの...

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