第2回 ファミリーコンサート~子どもと楽しむクラシック~

ヴァイオリン・横山亜美さんと、ピアノ・武田直子さん

 11月4日、ともに歩む「結みのお」主催の第2回「ファミリーコンサート~子どもと楽しむクラシック~」が箕面文化・交流センターで開催され、参加させていただきました。
 このコンサートは赤ちゃんから大人まで、一緒にクラシックの名曲に触れてもらおうと企画されたものです。子育て真っ最中の若いお父さんお母さんにとって、興味のある催しに参加する場合はお子さんをご家族などに預かってもらわなければ参加できず、とくにクラシックの場合は敷居が高く、断念されることも多いと思います。
 このコンサートは子どもと一緒に参加でき、子どもが泣いたり席を離れてはしゃいだりしてもかまわない素晴らしい運営で、もっともかけ離れていると思われるクラシック音楽をもっとも近く生の演奏で楽しめる稀有のコンサートです。
 昨年に試みられたこの企画のすばらしさは、箕面在住のヴァイオリニスト・横山亜美さんと、ピアニスト・武田直子さんでなければ実現できませんでした。
 音楽の不思議なところはBGMでもそれなりにいい雰囲気を作ることができる一方、自分の音楽を極めることで「こことはちがうもうひとつの場所」へいざなおうとする演奏家にとってもそれを聴く聴衆にとっても、咳払い一つでも気になることもあるのかもしれません。
 いつの時代から、さまざまな芸術表現の場、その中でもとくにクラシック音楽は静かに聴くことが求められようになったのでしょう。
 わたしはクラシック音楽については無知で、ドイツで活動されている ヴィオラ奏者・吉田馨さんとのつながりでクラシック音楽と出会ってまだ7年ほどで、今でも熱心なクラシックファンというわけではありません。そんなわたしがクラシックを特に苦手としていたのは、聞き手に要求される作法のようなものがあって敷居が高かったのでした。
 ですから、演奏の間ずっと観客の絶叫だけが聴こえる若かったころのビートルズのライブではびっくりしたものの、それ以後ジャズ、ブルーズ、R&B、ソウル、ヒップホップ、ファンクなどのように、暗黙のルールがなく自由に楽しめる音楽ばかりを聴いてきました。

ヴァイオリンを奏でる音楽の作り手と言うよりは音楽の聴き手になれること

 それでも人生の黄昏にクラシック音楽に触れ、例えば夕暮れの海で太陽が刻一刻と色を変え、まわりの風景が夜の闇を静かに待っているように、心の奥深く日常とは違う音の粒が積み重なっていく切なさと共に、足元から自分の身体のすべて、手の指先までが世界とつながっているような幸福感に浸るよろこびを知りました。
 その体験はわたしにとって戸惑いの連続ですが、もちろん、現代音楽の冒険に立ち会う嬉しさとは別に、世紀をいくつも越え、静かな時代にも戦火の時代にもひとからひとへと伝えられ、嵐の中に消えていきそうになる音をつなぎながら今、この場所で音楽がよみがえる瞬間に立ち会えることもまた、至上のよろこびでもあるのです。
 最近では敷居を低くして聴く人のすぐそば、同じ立ち位置で演奏し、その楽曲がどの時代にどんなひとがつくり、それが同時代から今までどんなふうに演奏されてきたのかを話してくれる演奏家も増えてきています。
 横山亜美さんはその中でも特別で、彼女のサービス精神はいわゆるバラエティとはまったくちがい、どこまでも湧き上がる音楽への愛と渇望をたくさんのひとと分かち合おうとする、いい意味で「鬼気迫る」ものがあります。かつてこれほどまでに演奏中に音楽を語り、音楽が生まれた時代を語り、音楽を生み出した作曲家の孤独と夢、愛を語る演奏家がいたでしょうか。
 演奏する時の彼女の表情には実はとてもきびしいものが感じ取られ、専門的なことはまったくわからないのですが、どこかヴァイオリンと格闘している印象があります。わたしの勝手な感じ方で失礼を承知で言えば、ヴァイオリンと向き合ってきた長い時間と努力に裏付けられた演奏テクニックよりも、自らが奏でるヴァイオリンの音が発する音楽言語の最初の聴き手として、楽曲と楽器が出会う一瞬一瞬を聴き逃さない、張り詰めた心の震えを感じます。
 演奏しながら音楽の作り手と言うよりは音楽の聴き手になれる才能が、彼女に音楽を語らせ、道行く人にさえ音楽のすばらしさを伝えずにはいられない、ストリートミュージシャンの様相を用意したのかも知れません。

世紀をいくつも越え、音楽がよみがえる瞬間に子どもたちがいてほしい

 ですから、「子どもと楽しむ」という意味は、大人が子どもと一緒に楽しむという意味ではなく、演奏者である彼女が子どもと楽しむという意味のように思います。実際、今年も全体で1時間のコンサートで、演奏の合間に大人の観客に言い訳するように、子どもの音楽の楽しみ方を話され、演奏中は子どものはしゃぎ声を音楽に取り入れ、彼女もまた新しい音楽の冒険を楽しんでいるように感じました。
 かく言うわたしも、演奏を聴きながら子どもたちがどんな反応をするのかが楽しみで、今年もコンサートに来てしまったのです。こんな楽しみはこのコンサートでしか体験できません。
 じっくりと聴きこんでいる子、音に合わせて踊り出す子、泣き出す子…、おもえば音楽は楽器が奏でるだけではなく、その場のひとびとの息づかいなどさまざまな音と共にあることを、子どもたちが教えてくれるのでした。
 こんなことを書くのはいけないことなのかも知れませんが、この素晴らしいコンサート会場に居て、遠い地のパレスチナで幼い命を奪われていく子どもたちのことを思い、胸が締め付けられるようでした。パレスチナの人口200万人の内、その半数が15歳未満の子どもたちです。生まれ育つ国や地域の違いで、あまりにも子どもたちの運命や未来が変わってしまい、世界中でたくさんのこどもたちの命が奪われている現実があります。
 コンサートに参加し、思う存分音楽の楽しさを満喫した子どもたちと、日々命を奪われていく子どもたち…。クラシック音楽は人間の歴史と並走し、その理不尽と悲惨と大きな悲しみを受け止めながら、今にたどり着いたのではないかと思います。
 ひとが音楽を必要とするだけではなく、音楽もまた時も時代も越えてひとびとの共に生きる勇気を必要としていることをあらためて実感したコンサートでした。

 「国家がその権力において個人の<生>を奪いつづけるかぎり、<音楽>が真に響くことはない。私たちは<世界>がすべて沈黙してしまう夜を、いかにしても避けなければならない。」(武満 徹)

ともに歩む「結みのお」
 2009年2月に誕生した箕面の市民団体です。会員数は200人。誰もが生き生き暮らせるように知恵を寄せ合い、力を出し合いながら会員同士の助け合い活動、親ぼく・交流を深めるイベント、バザーや、コンサートなどを行っています。

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