島津亜矢 紅白その後

島津亜矢が昨年紅白歌合戦に14年ぶりに出演し、「帰らんちゃよか」を歌ったことで、彼女の歌唱力に驚いたひとたちの反応が多数寄せられました。わたしのブログのアクセスも急上昇し、「島津亜矢 紅白」や「島津亜矢 帰らんちゃよか」の検索キーワードで訪れた人が数多くおられました。予想されたこととはいえ、反響の大きさを素直に喜んでいます。何人かの友人に会い、「おめでとうございます」といわれて、年始のあいさつか思ったら「島津亜矢さん紅白出場おめでとうございます、よかったですね」といわれ、関係者でないのでさすがに「ありがとう」とは言いませんでしたが、まごまごしながらもどこか誇らしげに感じました。
島津亜矢のファンになり、友人に宣言した2010年には、「あんたが演歌とはねえ、そのうち飽きるやろ」といわれたものですが、ロックやポップスしか聴かないその友人たちを半ば強引にコンサートに連れ出し、そのうちにやはり自分だけの楽しみと決め込み、一人でこつこつライブに通った5年の間に、わたしの「島津亜矢・命」はかなり知れ渡っていたようです。
それはともかく、島津亜矢の紅白出演には忸怩たる思いもあり、紅白に出演不出演に左右されることから解放され、島津亜矢には演歌を出自にした日本の音楽、アジアの音楽、世界の音楽へと羽ばたいてほしいと思う一方、今回のように視聴率が低く、しかも「帰らんちゃよか」のほんとうの物語を歌えなかったにもかかわらずこんなに反響があったように、彼女の歌を必要するひとたちに届くためには、紅白出場も大切なことなのかもしれません。バラエティになれた人にはほとんど気づかれることもなかったかも知れない地味な演出でありながら島津亜矢の歌が多くのひとたちに届いたということは、視聴者も、さらに広げればますます過酷になっていく世界と日本の各地でうごめくひとびとが「もっと歌を!」と望んでいる証しなのではないかと思います。
それはちょうど、7年ぶりに撮らなければならない映画を撮った橋口亮介監督の「恋人たち」がキネマ旬報でベストワンになったことや、高橋優が叫び怒り歌いながら、時代の暗闇にたったひとつまだ残されていた小さな希望の光を掲げることとつながっているのだと思うのです。

しかしながら、今の音楽シーンの中では島津亜矢がのびのびと歌を歌える環境は、彼女が地道に全国各地で続けているコンサート以外にはありません。紅白出場が決まったり不出場(これを落選とよぶ芸能ジャーナリズムはどうしようもありませんが)となったグループや歌手の特集がテレビ番組で組まれますが、彼女の場合それもなく、演歌・歌謡曲のジャンルのテレビ番組は最近ますます「常連」といわれる一部の歌手たちに乗っ取られています。しかも、仲良しグループがいわゆる「演歌調」で予定調和された歌を歌う、なんの緊張感もない番組になってしまっています。
ちなみに、NHKは3月で火曜日のゴールデンタイムに放送している演歌・歌謡曲のトップ番組「歌謡コンサート」と、月曜の深夜に放送しているポップス・ロックの人気番組「MUSIC JAPAN」を終了し、4月から「歌謡コンサート」の後継の新番組「歌コン」をスタートさせると発表しました。
このことは「歌謡コンサート」が「MJ」を吸収するイメージに移るかも知れませんが、おそらく現在の音楽シーンを牽引するJポップスに乗っ取られるとは思いませんが、かなりの割合で従来の演歌・歌謡曲の歌手の出番は少なくなっていくのではないかと思われます。
わたしはかねてから従来の「演歌」とJポップスが混じり合う「新しい歌謡曲」の出現を願っていましたので、この動きには大きな期待も持っています。しかしながら、NHKの制作意図がどこにあるのかが良くわからないので何とも言えませんが、おそらく従来のままの「演歌」を望む視聴者から不満が湧き上がるようにも思うのです。
もちろん、「MJ」がJポップの新人アーティストの登竜門の役割を果たしていたことと、人気アーティストやアイドルグループに若い音楽ファンが結集していたことを考えれば、若い人たちからも不満が噴出することも考えられます。
こう書いてくると、この番組は「毎週になった紅白」ともいえ、NHKにとってある意味何かと批判が多い紅白の行方を見定める番組となるのでないかと思います。
わたしは今回の島津亜矢の紅白出演は、実はJポップのジャンルは別にして従来型の演歌歌手の連続出場につながるものとは思えないのです。演歌歌手の連続出場は歌の実力や長いキャリアから当然とされていた時代の遺物で、それぞれの歌手に熱烈なファンがいることは当然のことながら、一方で所属事務所が出場獲得するために過酷な「営業」をしているとしか思えないようになってきています。Jポップもそれに輪をかけた営業が目に着くところもありますが、この分野は市場が大きいですから誰が出場してもそれなりの説得力があります。またJポップのジャンルにはテレビ番組に左右されない実力と人気を備えた歌手やグループも数多くいて、そのひとたちはもともと紅白に出演したいとも思わないでしょう。
このように考えていくと、島津亜矢の紅白出場は、紅白の制作担当チームのひとたちからの要請で実現したのではないかと思うのです。わたしの希望的な意見ですが、彼女の実力と歌に対する真摯な態度、そして新しいことに挑戦する果敢な心を長い間高く評価してきたひとたちがいて、今回はそのひとたちの意見が採用されたもので、今年も出演するかどうかはわからないと思います。
NHKの音楽番組の制作チーム全体の方向として、80年代以降大きく別れてしまった音楽ジャンルを融合し、「新しい歌謡曲」の誕生を牽引することならば、「歌コン」はその結果がどうあれ冒険的、実験的、刺激的な音楽番組になり、その流れはそのまま紅白歌合戦に反映されることでしょう。そして、われらが島津亜矢はその時、演歌のジャンルから誕生する「新しい歌謡曲」の第一人者として音楽シーン登場することになると思います。
しかしながら、もし「歌コン」が単なる音楽番組の編成のひとつ程度のことであるならば、おそらく演歌ジャンルの出場獲得競争が激しくなり、島津亜矢の出番はますます少なくなるかもしれません。どちらにしても、演歌が日本人の心だといって漫然とマネージメントすることがいよいよできなくなることだけは間違いなく、演歌歌手といわれる歌い手さんには狭き門になって行くことでしょう。

そんな状況の中で、島津亜矢のチームは今回の紅白効果をどのようにとらえているのでしょうか。とりあえずは「帰らんちゃよか」に「感謝状~母へのメッセージ」をカップリングしたCDを販売することになりましたが、新曲の制作がもっとも重要なカギとなると思います。
わたしは紅白効果から島津亜矢自身の知名度も人気度も大きく上がった今、ひとつは小椋佳の「山河」に匹敵する大作にチャレンジしてもらいたいと思います。そして、今年は例年よりも新曲制作を増やし、演歌の王道を究める新曲と、あとひとつは中島みゆきや水野良樹などのヒットメーカーとの思いがけないコラボレーションでオリジナルのポップスのシングル、そしてアルバム「SINGER4」の制作など、いままで抑えてきた感もあるレンジの広さを生かした、幅広いジャンルの楽曲に挑戦してほしいと思います。

島津亜矢「山河」
数あるカバー曲の中でも最高傑作だと思います。世界の音楽としてオリジナルでこういう歌があればと願っています。
吉田拓郎「ファイト!」
島津亜矢は中島みゆきのカバーを結構歌っているのですが、この歌や「エレーン」など、メッセージ色の強い歌はまだありません。しかしながら、「ヨイトマケの唄」を見事に歌う島津亜矢の音楽性は、実はこれらの歌と共振できると私は思います。
いろいろな歌手がカバーしていますが、今回は吉田拓郎にしました。
この歌を広島の尾道で障害者解放運動に人生のすべてかけた木下さんに捧げます。

島津亜矢 紅白その後” に対して2件のコメントがあります。

  1. 亜矢さん大好き より:

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    NHK 、先輩歌手、民法テレビは、亜矢さんが、歌上手いと認識しているのに、また私達に教えたのに、昨年頃から亜矢さんに対して扱いが悪くなっている、まるで亜矢さんのこと無視です。五〇さん冬〇さんが、亜矢さんが、上手すぎて、これ以上人気が出ないようにしている感じに思えます。

  2. tunehiko より:

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    「亜矢ちゃん大好き」様。コメントありがとうございます。
    おっしゃる通り、そんな雰囲気を感じますね。
    わたしが亜矢さんのファンになった5年前も、そういう雰囲気を感じましたが、それからは少しずつ亜矢さんの控えめな姿勢によってなごやかな雰囲気にしていましたね。
    それが、作詞大賞と紅白で空気が変わったように思います。
    結局、昔も今も亜矢さんが怖いのではないでしょうか。
    とくに、紅白出場はその人たちにとってより脅威に感じたのかもしれません。
    ご指摘の民放の演歌・歌謡曲番組はますます「仲良しクラブ」のお座敷芸になってしまい、残念です。

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